第6話 さばを読む
昨日の反省を生かし、着古したヨレヨレの黒のYシャツ・カーゴーパンツ・黒のスニーカー・付録雑誌に付いていた布製のショルダーバッグを肩にかけたラフな格好だ。
ケープを羽織ることも考えたが、なんせゴスロリ寄りなので悪目立ちし兼ねないという理由で
ショルダーバッグの中身は、ポケットティッシュとハンカチ。
後、金貨30枚が入ったがま口財布だ。
アイテムボックスは鞄に手を入れて使えば、他人を誤魔化せるだろう。
相手は、私の鞄を勝手に<アイテムバッグ>と勘違いしてくれる。
中学校の修学旅行で買った木刀を片手に、私は二日目の
町が目視出来るということは、エリアボスを倒した場所に立っているようだ。
放り出された場所からやり直しだったら、即自宅に引きこもっていたかもしれない。
町の城壁が目視できる場所まで歩いて1時間程度の距離だろうか。
その間に、戦闘になれる必要がある。
スキルに剣術1とあるが、特に剣道などの武術を習った覚えはない。
思い当たるとすれば、幼少の頃に家にあった反物に巻かれていたダンボールの芯を剣に見立ててチャンバラごっこをしたくらいだ。
昨日の戦闘も適当に出刃包丁を振り回しただけで、剣術ですと言えるような代物ではない!
何かしら取得したスキルに、ステータスは補正が掛かるだろう。
掛かると思いたい。
下手な癖を覚える前に、道場に通うべきだろうか。
自宅に戻ったら
まずは、最初に遭遇する獲物がザコでありますように!
「今日こそは、ザコキャラに当たりますように! スライムとかスライムとかスライムとか」
ゴブリンやウルフ系は、暫く遠慮したい。
戦闘が慣れるまでかち合いたくない。
なんて思いながら歩いていたら、当たりました。
ゴブリンに! ですよねー!!
「悪運様様ですね! ゴブリンは、子供サイズじゃなかったの?」
私の身長が150cmだから、ゴブリンなら私と同じか一回りくらい小さいくらいの大きさだと思っていた。
どのゲームのフレーバーテキストにも、ゴブリンは人族の子供と同じくらいの大きさと書かれていた。
しかし、目の前にいるゴブリンは二回り大きい。
後ろに控えているゴブリンは、私と同じくらいの背丈をしている。
念のため鑑定してみると、私をロックオンしている奴はホブゴブリンだった。
「上位種かよっ!」
昨日死ぬ物狂いでエリアボス倒したのに、ホブゴブリンに遭遇するなんて運がない。
この世界は、初心者に全然優しくない。
あの糞神めっ、絶対嗾けてる!
そうに違いない!!
そうでなければ、自分より格上のキャラとのエンカウント率が高すぎる。
そもそも、
ホブゴブリン1体・ゴブリン2体が、私を取り囲んだ。
あれだけギャーギャー騒げばそうなるか。
木刀をホブゴブリン目掛けてぶん投げて、私から木刀に意識を逸らすタイミングを見て隠密7を常時発動させた。
アイテムボックスから万能包丁を取り出し、音を立てないように一番後ろに居たゴブリンの喉を掻き切った。。
ホブゴブリン達は、何が起こったのか戸惑った様子で辺りを見渡している。
二体目のゴブリンの首も切り裂き、邪魔と言わんばかりに殿を務めていたホブゴブリン目掛けて蹴り飛ばす。
後ろから仲間が倒れてきて、さぞ驚いただろう。
ホブゴブリンと身長差が50センチ以上ある。
これでは、喉を掻き切ることも、胸に包丁を突き立てることも出来ない。
ならば、そのまま出刃包丁を腹に突き立ててしまえば良いのではないだろうか?
私は血に染まった包丁を振り下ろし、身をかがめ腰を落としてホブゴブリンの腹目掛けて突進した。
勢いをつけて体当たりした為、包丁がズブズブと吸い込まれるように刺さっていく。
肉が食い込む感触に鳥肌が立つが我慢だ。
「グギャァァアアアアッ!!!!」
鼓膜が破れるかと思うような悲鳴に眉を顰めつつ、止めとばかりに包丁をグルリと回した。
「――っ―――ツツ!!」
ホブゴブリンは、余りの痛みに声にもならず腹を押さえるように前かがみに蹲った。
出刃包丁は、深く突き刺さって抜けそうにない。
仕方がないのでアイテムボックスから100円ショップで購入した新品の出刃包丁を取り出して、ホブゴブリンの頸を掻き切った。
スパッと綺麗に切り落とされた首を見て、気分はさながら江戸時代の介錯を務める介助人のようだ。
三体ともピクリとも動かなくなったかと思ったら、パッと光の泡となって消えた。
血だまりの上に、お金と素材がドロップされた。
銅貨8枚と銀貨10枚、こん棒と小粒ほどの黄色い魔石が二つ、親指くらいの青い魔石が一つ落ちていた。
ドロップ品を集め終えた私は、血に染まった身体と悪臭に顔が歪んだ。
「生活魔法で綺麗にならないかなぁ」
ステータスを開き、生活魔法をタップすると今現在使える生活魔法が並んでいる。
清掃が目に入り、詳細を確認してみると汚れを落とす魔法のようだ。
戦闘毎に汚れて着替えるのは勘弁したい。
物は試しだ。
「清掃!」
何も起こらない。
呪文じゃなかったのかよ?
ゲームではコマンド操作だけで魔法が発動したけど、現実は違うのか。
いや、待てよ。
自称神は、魔法は英語が基本とほざいていた。
ならば、英語で発音すれば魔法が発動するのではないだろうか?
「
英語で発音しても何も起こらない!!
「ふざけんな! 発音以前に発動しねーだろうがよっ!」
ガッデムっと頭を抱えて吠える私。
落ち着け私!
発動しないのは、何か理由があるはずだ。
隠密は行動に起因するから自動でONとOFFが出来るんだろう。
よく考えろ。
自称神にあらゆる言語を理解する力を授かっている。
英語で魔法を発動させると言っていたのが本当なら、今の私なら発音は完璧だ。
ならば、他にも魔力を発動させる条件が足りないという事になる。
「魔力の循環と放出が出来てないってこと?」
考えられるとすればそれくらいである。
某少年忍者漫画を思い出して、自分の中にある魔力を探した。
草っぱらに腰を下ろし迷走……ではなく瞑想する私。
雑念を払いながら、血が全身を駆け巡るイメージを浮かべながら、血とは別の何かの流れを掴むことが出来た。
血液のように体を循環するそれは、魔力と呼ばれるものだろう。
心臓が胸にあるなら、魔力の源はお臍にあった。
お臍に魔力を集中させてもう一度
血も悪臭も綺麗さっぱり消えている。
なるほど、こうやって魔法を使うのか。
でなければ、絶対魔法習得しても使いこなせなかったわ。
「服も綺麗になったし、町へ出発しますか!」
物騒なことは考えないでおこう。
また、モンスターを嗾けられてもかなわないし。
歩く事3時間。
途中でゴブリンやウルフ系のモンスターに遭遇し、コツを掴んだ私の敵ではなかった。
町だけあって城壁はそれなりに高いが、城塞都市とほどではないため攻め落とすのは容易そうな作りをしている。
入口には憲兵らしき人が2人立っている。
前の人たちを見る限り、金属製のカードらしきものを提示していた。
この町を訪れる理由とカードがない理由を、今この場ででっち上げる必要が出て来た。
さて、どうしたものか……。
「次の者、早く進め」
「っ……はい!」
色々考えたが何にも浮かばない。
女は度胸!
アドリブで行くしかない。
「身分証を提示せよ」
「すみません。私の村は、100人もいない小さな村で身分証自体なかったのです。この町で身分証を発行して頂くことは出来ますでしょうか?」
「それならギルドで発行することができるが……お前はヤシュナ村の開拓民か?」
「村は村で通ってましたから名前があったのかも分かりません。生まれた時から、木を切り倒し田畑を耕しておりましたので。もしかしたら、そうかもしれません」
「開拓民が何故町へ来たんだ?」
「魔物が作物を荒らす被害が出まして。通り掛かった冒険者様に助けて頂いたのですが、食い扶持が足りず冬を越すのは難しいと判断し、自ら出てきたのです」
「そうか、若いのに苦労してるんだな。でも、身分証が無い奴をただで入れるわけにはいかねぇんだ。保証金で銀貨5枚必要になる。持ち合わせはあるか?」
「はい、あります」
銀貨5枚渡すと、こっちへ来いともう一人の憲兵に詰め所に連れていかれた。
「犯罪歴がないか調べる。その水晶に手を当てて魔力を流してくれ」
「犯罪の有無だけが分かるものなんですか?」
「犯罪歴以外に名前や年齢が分かる。ギルドの方は、もっと性能が良い奴を使っているからスキルまでなら分かるぜ」
カッカカッと豪快に笑う憲兵に、私は小さくホッと安堵した。
スキルや加護まで調べられたら面倒なことになる。
念のためスキルと加護を隠ぺいし、年齢を25歳から18歳に偽装した。
憲兵は、私を実年齢よりも若く見ている節がある。
外国人からみれば日本人は若く見られるらしいが、それはサイエスでも一緒みたいだ。
チラッと窓から町を見ると、地球ではお目にかかれない配色の髪や耳が尖っている人や、ケモ耳が頭についている人が往来を行き来している。
身長も2m超えはゴロゴロいたし、女性もスーパーモデル並みに高い。
ハイヒール履いたら日本人男性の背を軽く越せる。
この世界にハイヒールなんて存在するかは分からないが、需要がありそうなら売って金儲けしたい。
そんな阿呆なことを考えていたら、もう良いよと声を掛けられた。
「ほれ、仮滞在書だ。期間は7日間だ。その間にギルドでカードを発行して貰うといい。期限内にカードを持ってくれば銀貨5枚は返金される。期間が過ぎても持ってこなければ銀貨は没収、カードを作ってなければ即拘束されて牢屋行きだ」
「了解。因みにギルドは一つなんですか?」
「いや、大きく分けて4つだ。冒険者ギルド・薬師ギルド・商業ギルド・生産ギルド。自分のスキルやギフトに合わせて選べばいい。スキルやギフトを知りたいなら、教会に行けば調べて貰えるがお布施代が高いがな。一般的には、冒険者ギルドだな。簡単な仕事もある」
「なるほど。では、どこか一つだけでなく、掛け持ちで登録することも出来るんですか?」
「いや、掛け持ちは可能だが冒険者ギルド以外は年会費を払う必要がある。所謂税金って奴だ」
「冒険者ギルドは払わなくても良いんですか?」
「冒険者ギルドは、依頼毎に徴収しているから年会費って概念がないんだ」
要は、死にやすい職業柄だからという事で毎回徴収しているんだろう。
「色々ありがとうございます。次いでと言ってはなんですが、冒険者ギルドと宿の場所を教えて頂けますか?」
「おう、良いぜ」
気さくな憲兵さんにお辞儀をし、教えてもらった宿へひとまず向かうことにした。
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