㐧弐拾伍話 入院

文字通り血を流し手に入れた新技、「血腕」は、シザースの鋏にヒビを入れた。


「なっ―――!?」


「ぶっ壊れろオオオッッ!!!」


そのヒビは根を張るのように広がり、鋏の刃の強度を加速度的に弱くした。


まだだ。もっと、もっともっと……!


「なんでだ…なんでっ?!」


「テメェの自意識も……随分貧弱だってことじゃあねえか?」


「ガアアアアアアアッッ!!!!」


受け入れられない。負けたくない。


そんな無様な感情が、シザースの挙動や表情全てに現れているようだった。


「そんなに駄々捏ねたって無駄だ……」


オレは武器を失った奴のボディに、全力の拳をぶつけた。


何度も、何度も、何度も。


絶対に殺すために。


無我夢中で殴り続けた。


―――Side 向井将徒



全てが終わったのだと気づいたとき、俺はレギオンの医療センターにいた。


訳のわからない機械と接続され、規則的機械音だけが、この病室で聴こえる音だった。


丁度看護師が来て俺の意識がハッキリしていると見るや大慌てで医師を呼びに行き、そして医師もまた大慌てで病室に飛んできた。


ここまでならまだ、いいのだが……。


「おい、生きてるか〜?」


何故飯島が病室にズカズカと来ている?


お前、鏡見たか? ほほミイラだぞおい、お前!


「飯島くん!! 何故来てるんだ!? 君は向井君よりも重体なんだぞ!」


ほら、案の定看護師たちに囲まれてやんの。


「いや、向井将徒のことが心配で……」


「君の方が心配だ!! 幾ら回復力が人より凄いからって、外出どころか絶対安静だとあれほど言ったろう!?」


「ダイジョブですよこれくら……イデデデッッッッ!」


「それ見た事か!!」


馬鹿だなお前と言いたいところだが、生憎喋ることは出来ない。

気管にチューブをぶっ刺されてるからだ。


なので俺は“お前馬鹿だな〜”という視線を送るぐらいがせいぜい。


「またな〜!」


数人に担がれてドナドナされる飯島を見送る。

怪我人というより王様か何かに見える。

いや、神輿か……?


——————


二週間後。


光陰矢のごとしとは言ったもので、寝るだけの生活を繰り返していたら、すぐに一週間が消えた。


じゃ、もう一週間はどうだというと、意外なものに長く感じてしまう。

何故かというとチューブが外れて、他人とコミュニケーションが容易に取りやすくなったことと、


飯島だけじゃなく友達がめちゃくちゃ来るようになった事である。


例えば東雲とか。


「将徒、お前ほんとすごいよ。内臓ズタズタ骨バキバキその他諸々グシャグシャの状態で、よくここまで元気になったよな!!」


「怪我人に喋っていい語彙じゃないだろ」


「あ、ごめん……」


転生後ある程度コミュニケーションをとってわかった事だが、

東雲統摩という人間は意外と無遠慮というかなんつーか、

デリカシーに欠けている。


まあ、主人公だしそのぐらいガツガツ行かないとヒロインを攻略できないからなのか……?


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