㐧弍拾参話 最低な攻撃

「ウオオオオオオォアアアアオアッッ!!!」



シザースに噛み付くかのように飯島は飛びつく。


「“黒腕”……ッッ!」


「まだやるか」


能力を発動させ飯島の腕は黒く染まり鉄のように硬くなる。

だがシザースの異常に鋭利なハサミは鉄すらも破く。


本編のtipsで細かく紹介されていた設定でしかない。

だがそんな設定が飯島にとっては重大な事実なのだ。


下手をすれば奴は腕も失う。

何もかも失わせてしまう。


「無駄だ飯島! 逃げるんだよ!」


「今更こいつを野放しにできるかァァァァァァ!」


目は血走り歯茎が見えるまで歯を食いしばって、飯島は鉄の拳をシザースに叩き込む。だがその前に……。


「無駄だ」


その鉄腕は鋏に挟み込まれ、その部分から血液が流れ出していた。


「うぐっ…ギイイイアアアアッッ!!」


「はははははははは!! そんなに痛いか……! ははは!」


シザースは歪み切った顔で嘲笑した。己がこの状況で一番優位であることを楽しんでいる。


俺だって動きたかったが……行ったのは止血だけ。


飯島も己の命も危ない。すでに視界は歪む。



これで終わりなのか?



いや違う……断じて違う!!


何もできないまま終われるか!


今敵はシザースだけか? 違う。裏切り者がいるだろう。


奴をどうにかして無力化させ———


「背中がガラ空きだぜ? 兄ちゃん」


「!? ———まずい!」


あまりにも早いメンバーの動きにぎりぎりで交わす。

まるでメンバーの動きだけ二倍速されてるかのようだ。


「反射神経はいいのね……でも刺されたその体でいつまで持つんだろうな?」


「はぁ…は…黙れ…ッッッッ!」


傷口に耐えがたい痛みがいつまでも走る。

止血したとはいえダメージはまだ———


「ガボっ……!」


一気に吐き気がきたと同時に、俺は血を吐き出した。


くそ、深かったか……!

どうしてこうも追い詰められなきゃならんのだ……!


「あ〜あ。吐血しちゃった。ゲームオーバーだね。」



何の感情の機敏も見せず、メンバーは言葉を吐き続ける。


怒りと同時に溜まった血が込み上がる。



血……。 そうだ!その手があったか……!


「どうした〜〜? もう立つのもやっとだろ?」


にやついたメンバーが近づいた瞬間、俺は血を奴に向けて勢いよく吐いた。


ただの血じゃあない。


「があああっ! なんだ……?! 何をした!?」


実は飯島との地獄の特訓で得たものがあった。絶対零度の範囲を狭めれば狭めるほど、温度は低くなる。文字通りの絶対零度にさえ近づくほどの。


もちろん緻密な調整が必要だが。


俺は吐き出した分の血だけを極限まで凍らせ限りなく低い温度にした。


ドライアイスよりも低い温度の血をメンバーのそのふざけたツラに吐きつけた。


「イギイイイイイイアアアアアッッッ!!!」


そんなものを顔にかけられた時点で、もうこいつの負けは確定だろう。


延々ともがく奴の四肢を氷で拘束し……シザースと飯島のいる廃墟から連れ出さなきゃな……。


よし…ドアを開けて……外に出て……廃墟前にメンバーを捨てて……PHSで助けを呼ぼう。


「……道永先生……。」


「繋がった! おい!向井、飯島!? 大丈夫か!?今どこにいる!」


「先生……焦り過ぎですよ…………場所は廃墟の前です。レギオンの人を呼んでくれませんか……? ……ちょっと自力で……帰れる気しないです……。」


「飯島はどうしたんだ!??! 無事なのか?!」


「僕もあいつも大丈夫なわけがないでしょ………あいつはシザースと今も戦ってるし……僕も刺された………まあ刺した奴は直々にとっちめましたがね……へへ………」


「おい、刺されただと?! 今すぐ救護班呼ぶからな、持ち堪えろよ!!」


「先生……シザース……は、やばいんで……櫻井さんとか……もしできるなら……ユウカさんでも呼んで…………………………」



「おい!? 向井! 向井!!!!!」


廃墟の外は穏やかな日光が降り注いでいた。

血塗れの惨状とは違う……能天気な日光。




「少し……寝よう。」


何も考えられないまま、俺は意識を手放した。

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