RPGの友人キャラに転生したので好き勝手やろうとしたら何かがおかしい

上本利猿

㐧一話 帳尻合わせ

平々凡々な高校生、高岸威たかぎしたけし。名前を抜いたら八文字でその程を説明できるちっぽけな男が俺だ。


彼女もなく、親友と呼べるような存在も、エロゲーの主人公みたいな友達もいない。


勉強もできない。運動もできない。たまにあるイベントは陽キャの心無いイジリ。そんな毎日を送っている俺だが、一つ、大好きな、それに触れるだけで心休まるものがあった。


言ってしまえばゲームなのだが。名前は「エビリティ・ギーツ」。

世に蔓延る魔獣をヒロインたちと討伐するRPGゲームである。


俺と同じ高校生の主人公が高校生とは思えない美貌とスタイルを兼ね備えた、


同年代の女の子がたくさん出てきて、擬似的とは言え彼女らと学園生活を謳歌するシミュレーションゲームの要素も色濃く存在する。


俺はそんなこのゲームだけが心の在りどころであり、嬉しいとか、楽しいとか、そういう正の感情はこのゲームをやることでしか得られない。


正直、このゲームをやるためだけに生きてるし、普段受けてる扱いの“帳尻合わせ”としてやっている。いや逆か?


まあ、何はともあれ俺は「エビリティ・ギーツ」が大好きなのだ。

それこそ、主人公たちが所属する魔獣討伐組織のエンブレムをこっそり通学カバンにつけてるぐらいには。


さて、今日も今日とて学校かと、電車を待っていたその瞬間だった。


ドスンと大きな音と衝撃。後ろから強く突き飛ばされたかのような。


次の瞬間、俺の身体は線路の真上に吹っ飛び、その横には特急列車が迫っていた。


この駅には止まらない。


けたたましく唸る轟音と太陽のようにまばゆい列車の前照灯。


自分の置かれた状況を理解する前に、俺の肉体は砕け散った。

突き飛ばされたかどうかも解らずに。


「……い! おい将徒!聞いてるのか?」


「……え?」


電車の轢かれた直後、俺は駅でも病院でも葬儀場でもない、知らない学校のような場所にいた。


俺じゃない名前で、明らかに俺を呼ぶ男。

俺はこの男に見覚えがあった。


「……! あ゛あーっ! 東雲燈摩しののめとうま!!!」


エビリティ・ギーツの主人公、東雲燈摩が目の前にいたのだ!


「うわっ……! どうしたそんなに大きな声出して。ていうか……なんでフルネームなんだよ!」


「うわ……本物だ……。」

「本物ってなんだよ!」


東雲はこのゲームである主人公であると同時に、のちに作中最強の実力を持つチート級の対異獣ハンター。


彼はバッタバッタと異獣を倒していくと同時に成長し、ヒロインに囲まれてる男だ。


それはもうあんなことやこんなこともしていたが……。


「おい、将徒。お前いい加減俺の話聞けよ!」



え?



将徒? 俺が?


「お前、俺……え、将徒!? 俺、向井将徒なのぉ?!?!」


「………そうだよ。お前どうしたマジで? 体調悪いのか?」


向井将徒むかいしょうとといえば……主人公、東雲の唯一の友人にして親友であり、同じく異獣ハンター。


ただそれだけで終わらないのがこのゲーム……向井は成長していく東雲に嫉妬し敵対するようになり、


それに漬け込まれ異獣を統べる異族、”デザイア“によって

永遠の異空間に閉じ込められ、地獄のような苦しみを味わいながら、生きることも死ぬこともできない終わり方をしたキャラだ……。


嫌だ……!! そんな終わり方は嫌だ!!!!!

だがこのまま行けば確実にシナリオ通りになってしまうだろう……。



よし…決めた! 俺は、俺のシナリオに、運命に抗ってみせる……!



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