世界の十字路18~始まりの歴史を辿って~

時雨青葉

プロローグ

その愛は、純か歪か――

 熱い。

 苦しい。



 自分という存在が、溶けてなくなってしまいそうだ。



 痛くてたまらなくて、目が回って頭がおかしくなる。

 でも、どうすればいいのか分からない。



 自分は、これに抗えない。



 それだけは分かる。



 ――― 愛しいルゥ……



 壮絶な苦しみの中で、彼の声が響く。



 ――― 苦しいか? どうか耐えておくれ。今だけだ。



 脳裏に木霊こだまする声は、どこまでも優しい。



 その声を聞くと、ほんの少しだけ苦しみが安らぐように感じた。

 体が温もりに包まれているような気がするのは何故だろう。



 まるで、彼が抱き締めてくれているような……



 ――― 大丈夫だ。お前は死なない。



 狂気に駆られ、他人の心も自身の心も壊してきた彼。



 すぐにでもくずおれていきそうだった彼が、今はこうして穏やかに笑っている。

 それはこれが、彼が本気で望んだことだから?



 あんな……あんなに悲しい生き方しかできなかったのに?



 誰も彼に手を差し伸べようとは……救ってあげようとは思わなかったのだろうか。



 胸にもどかしさとも悔しさともつかない気持ちがせり上がるが、それもすぐに眩暈めまいの渦に消えてしまう。



 ――― ルゥ。今だけは、生きたいと願っておくれ。



 奈落の底で、彼の声だけが響く。



 それは優しい子守唄なのか。

 それとも、そう聞こえるだけの洗脳なのか。



 何も分からない。



 ――― 願ってくれ。そうすれば人間が持つ奇跡で、生きることができるから……



 さまよう自分を導く彼の声。



 それは、どこまでも甘かったように思う―――


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