第2話

 私の仕事は俗に言う風俗だ。


 前の結婚の時に専業主婦だったがネットでたまたま見かけた広告でこっそり副収入と書いてあり、自分の欲しいものを買うためのちょっとしたお小遣い稼ぎにならないかなーと安易な気持ちでクリックしたのが始まりで、事務所に登録会に行った。


 その実態はオンライン風俗だった。


 事務所にいくつかの個室があってネットを通じて男の人の前で話すだけ、ただそれだけと言われて顔も出さなくて良い、なんだったら服やウィッグ、化粧もできますよと言われて家事育児でろくにメイクやオシャレをしてなかった私は全くの別人……いや、結婚する前には私は舞台女優だった……その頃の私がいた。

 スタッフの女性も驚いていた。

「こんな人が……勿体無い。スタイルもいいですし。さぁ、部屋に入って!」


 狭い部屋にソファーとかクッションとか可愛い物がぎゅっと詰め込まれてて、その前にはパソコンが置いてあった。


「うーん、さくらさんにこんな可愛い部屋はねぇ。いえ、見た感じ絡んで大人の女性……あ、あちらの和室が似合うかも」

 遠回しにこの30過ぎた私にはかわいいは違う、と言うことなのだろう。


 和室の部屋に移動してパソコンの前に座らされた。ソファーではなくて敷布団の前。


 ……この前で男の人とオンラインで話す、それだけなのか?


「顔は見せたくないです」

「んー、目から下とか」

「できれば口元……だけ……で」

 と言うとスタッフの女性は渋々

「わかりました。口から下のみで。そう登録しておきますね。プロフィール、名前は私たちが作成しておきました。この部屋にいる間は橘さくらさんでなくて、スミレさんです」


 スミレ………。

 同じ花の名前だけども。


 スタッフがさった後に私はプロフィールを読むと


『新人のスミレです。年上のお姉さんが好きですか? 癒してあげますよ』


 などなど。


 他人になりすます……


 いや


 他人になりきる。


 それは私の得意分野だ。



 目を閉じて私は橘さくらでなく、見ず知らずの男性と話をする『スミレ』という28歳……



 28歳?!


 年齢サバ読んでる?! 


 私が慌ててる間に電子音がパソコンから流れるが画面にスタッフとの文字が。


 私は恐る恐る通話をクリックすると先ほどのスタッフが大きなパソコンの画面に映った。


 ヘッドホンをつけて会話し、今から操作のオリエンテーションとのことだ。


 相手側の画面にぼかしを入れたり、私の画面を明るくして綺麗に見せるモードとか、いろんな操作を教えてもらった。


 パソコンなんてじっくり触ってない。夫のパソコンはあるが仕事で使うからと触らせてもらえない。

 実家にいた時にはパソコンでインターネットを見ていたけど今はスマホで見れるしね。


「あの、これは」

 私は気になったのは『M』と書かれたボタン。クリックしたら画面の一部に丸いモザイクが出てきた。


『はい。当サイトでは性器の露出は禁止です。どんなに求められてもアウトです』


 性器?!


 ……どういうこと?


『あ、お顔にはかけてはいけません。あくまでも性器を隠すのみにしようしてください』


 どういうこと?


 そこをうやむやにされたままオリエンテーションは終わった。


『本日は体験をしていただいたら〇〇ネット通じてなので交通費と10000円プレゼントキャンペーンになります。2時間是非試してみてくださいね』


 そうだ、私はそれに釣られて……。


『他にご質問はございませんか?』


 ……こういう質問の時に限って出てこない。あのモザイクの意味を問いただせばいいのに。


「いえ、ありません。よろしくお願いします」


『こちらこそよろしくお願いします』


 スタッフの着信が終わって間も無くだった。


 男の人の名前と顔写真が音と共に映った。私はドキドキしながらクリックした。



 その画面に映ったのはその男の顔でなく……




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