大文字伝子が行く41

クライングフリーマン

大文字伝子が行く41

スーパー繁栄。「前の名前、何だったかな?学、覚えてる?」「いいじゃないですか。みちるちゃんのお姉さんが勤めるスーパーで。」

サービスカウンターに座っていると、店長が出てきて高遠と伝子に挨拶した。「これは、これは、大文字様。いつも、お世話になっております。今日は、ご進物で?」

「ああ。いつもお世話になっている出版社の編集長宛にね。」「さようですか。高峰君を呼んで参りましょうか。」「ああ、いいですよ。レジ混んでいるし。」「では、ごゆっくり。」

店長が去ると、伝子は肩をすくめた。「苦手なんだよ、ああいうタイプ。お前、気を効かせろよ。」「はいはい。伝票書き終わりました。」と高遠は店員に言った。

支払いが終わると、高峰くるみがとんできた。「すみません、お待たせして。」「混んでるからいい、って言ったのにな。」「いつも妹がお世話かけて、お騒がせして。いけないことしたら、またお尻叩いてやってください。」

「見ました?あの時。」「見ました。真っ赤に腫れてて。子供の時とあまり変わらなくて申し訳ございません。」と、今度は高遠に頭を下げるくるみだった。

「いいんじゃないですか?すっかり、大文字軍団の戦力になってますよ。」「お前、大文字軍団は止めろよ。」

表が騒がしくなった。スクールバスが蛇行しながら、駐車場を出て行く。伝子はバスの開閉扉に飛びついた。

「しまった。」高遠はDDバッジを2つ持っていることに気づいた。

急いでEITOに電話した。「さっき、伝子さんがトイレに行った時に預かったままなので、DDバッジを追いかけられないと思って。」電話の相手の草薙は応えた。

「スクールバスの名前は?」高遠はスピーカーをオンにして、くるみに尋ねた。くるみはスマホに向かって「如月小学校です。以前、舞子も通ったことがあります。」「草薙さん、北方向です。」「了解。」

伝子のマンション。高遠は愛宕に連絡しておいてから、急いで帰ってきた。

EITO用のPCが起動し、理事官が画面に出た。「お帰り、高遠君。小学校からバスに連絡をとったが応答しない。今、一佐がオスプレイで向かった。」

スクールバス。バスの中から子供達が力を合わせて開閉扉を開け、伝子は何とか中に入った。運転席を見ると、運転手はうつろな感じだった。伝子は何とかハンドルを運転手の上から操作した。伝子は思い出していた。500メートル位先に、住宅工事の盛り土があった筈だ。

バスの外にオスプレイからの縄梯子が降りて来た。「みんな、協力して、そこの窓を開けるんだ!」と、伝子は叫んだ。

子供達は必死で窓を開け、なぎさが車内に入ってきた。「状況は?」「運転手が酩酊状態だ。」「私が運転手の前に回って運転します。おねえさまは、運転手を引っ張り出して。」

「分かった。」なぎさはフロントガラスとハンドルの隙間に入って、足で運転をし始めた。伝子は運転手の男を引っ張りだそうとしたが、上手くいかない。そこで、子供達は伝子にしがみついて、「オーエス、オーエス!」と声を出しながら、後ろに踏ん張った。

綱引きは10分ばかりで終わり、運転手は車内客席側に引っ張り出された。

伝子は気づいた。運転席に不審な荷物がある。時限爆弾だ。タイムアップまで後10分。「なぎさ。時限爆弾だ。」解体する時間はあまりにも短い。なぎさは瞬時に決心し、「おねえさま、交代!!」

素早くフロントガラスから運転手席に下りると、客席側に移動し、入れ替わりに伝子が運転手席に座った。

なぎさは陸自バッジを押し、開閉扉を開け、トンファーを差し込んだ。時限爆弾の箱を抱えて、外に身を乗り出した。なぎさは縄梯子に乗り移り、オスプレイに合図を送った。

伝子は叫んだ。「なぎさー、生きて帰ってこい!!」

5分後。バスは盛り土に乗り上げた。伝子は漸く気づいた。通信手段がないことを。

しかし、眼の前のバスの通信マイクを取ると、通じた。「今、バスを止めました。救急車をお願いします。場所は、有田町の有田住宅建設現場盛り土です。

盛り土から約2キロ先。大きな池に大きな水しぶきが上がった。なぎさは、近くの市営バス停付近に着地し、オスプレイは一旦去った。

「あなた。バスはもう出たわよ。」と見知らぬおばあさんが言った。「それは残念。少し歩くかな。」「若いっていいわねえ。」と、歩き出したなぎさの後ろから、おばあさんが言った。

伝子のマンション。「みんな、無事だったんですね。」「高遠君。今度からトイレから出たら、すぐに大文字君にDDバッジを渡してくれたまえ。」

「高遠さん、普通のテレビ点けて。」と草薙が言った。テレビのニュースでバスの暴走事故が流れていた。運転手が心臓発作で亡くなり、たまたま同乗していた教育指導員が代わりに運転したことになっていた。ところが、そのニュースの直後、犯人からの犯行声明が報じられた。運転手に薬を盛って、子供達もろとも殺す積もりだった、と。バスには、現総理の孫が乗っていた、と。

「時限爆弾のことは流石に言ってないな。」と、高遠が呟いた。「どう思う?教育指導員さん。」と伝子に言った。「冷やかすなよ。理事官。本当の死因はなんですか?夢中で運転手席から引きずりだしたけど、昔何度かあった、持病の交通事故みたいなものかと何となく思ってはいたけど、違和感はあった。」

「流石、アンバサダーだ。薬物注射をうたれたらしい。それで、時限爆弾が矛盾しないか?という点だが・・・。」理事官の横から久保田管理官が言った。

「薬物注射されたまま、生徒達が乗り込んでいくとなると、誰か気づかないか?まだ生徒達の聞き込みは完了していないが、バスの発車直前に運転手は乗り込んできた、という証言がある。時系列で考えると、まず無人の間に時限爆弾をセットする。何か黒い布か何かで覆ってね。小さい子供だと死角になるかも知れない。子供達が乗り込んだ後、運転手が薬物注射をされる。気づかずに、運転手は乗り込み、バスは出発する。乗り合いだから、点呼は誰もしない。」

「どちらか一方でも、バスで事故を起こす原因になるから、何故細工が被っているのか?という疑問は残る。管理官。やはり別々の犯人がいて、被ったのでは?」と高遠が言った。「鋭いね、高遠君。」「時限爆弾の方はともかく、薬物注射の方は、誰か見かけていないんですか?駐車場の防犯カメラは?」

「死角だ。目撃者もまだいない。」「お手上げじゃないですか。」「そこで、今のニュースだ。犯行声明は、薬物注射をうった奴だろう。奴は、次は誰を狙おうかな?なんて言っている。」「直接どこかに脅しをかけているかも知れませんね。でも、愉快犯と区別がつきにくい。」途中で、理事官が割り込んできた。

「閣僚全部から、何とか身内を守ってくれ、と言って来ている。」「不可能ですよ、理事官。孫って限る条件はない。」と高遠が言った。

「時限爆弾の犯人だが、学。私が乗り込んだ時点でタイマーは残り20分だった。私が入り込むまでの時間が手間取ったからやはり20分はあったと思う。子供達が乗り込むまでやはり20分くらいあったとして1時間。1時間前にはスーパーにいたことになる。管理官。店長に店内カメラの映像を提供して貰ったらどうでしょう。買い物せずに長く店内にいれば目立つものですよ。」

「君がバスに飛びついた1時間前から遡って長く滞在していた店の客か。調べさせよう。」

「薬物は特定出来ているんですか?」と高遠が尋ねた。「隣国から渡ってきた新種だ。皮下注射だと、タイムラグがあるらしい。時限爆弾の犯人は再犯するかどうか分からないが、薬物注射の方の犯人は、再犯する気だ。取り敢えず、閣僚の家族はロックダウンだな。」と、理事官は言った。

「そうだ、草薙さん。時限爆弾の犯人はおびき出せないですかね、SNSで『間抜け』な犯人は『不発弾』を作った、とか。」「分かりました。餌を蒔いてみましょう。」と草薙は返事をし、EITOとの通信は切れた。

1時間後。画面に久保田管理官が現れた。「大文字君。店内カメラで一人だけ不審な人物が特定出来た。運転手だ。白藤の姉の協力で店員達の証言も集まった。」「自爆テロってことですか。じゃ、一律教会が関与しているのかな?下部組織はまだまだあるってことかな?」

「時限爆弾の犯人の方だが。スクールバスを出している如月小学校の卒業生で昔、トラブルがあった。乗ろうとしたら拒否されてしまったんだ。両親は差別だと怒り狂ったらしい。その時の運転手は他の学校の生徒と勘違いしたらしい。その生徒は転校したばかりで制服が間に合わなかったらしい。名札があるのに、それの確認を運転手は怠ったらしいな。」

「その卒業生が怪しい、と。」「草薙君にデータを送ったよ。」

30分後。伝子が珍しく、台所で洗い物をしていた。EITOの画面がPCに現れた。

「学。出てー。」奥の部屋の掃除をしていた学が出てきて、画面の前に移動した。

「ああ、高遠さん。約10年前にその小学校に通っていて、今は18歳。成人ですね。」少し前なら少年法で守られたのに・・・待ってたのかな?」「それって、どういう?」

「子供の頃出来ないことも大人になったら出来るって考え方の延長ですよ。」「屈折してますねえ。」「でも、そっちは特定出来たんならマーク出来ますよね。」「ええ。公安が監視しています。また、小学校関連を襲うなら、餌に飛びつくでしょう。」

「わざわざ犯行声明出した薬物注射の犯人の方ですが、もしも『正義の味方』ぽい考え方だとしたら、不祥事起こした大臣または不人気の関係者に絞れないですか?」

「じゃあ、若い人とセックスしたい発言の大臣、スーパーとかの割り箸手渡し禁止を決めた大臣、男性蔑視発言をした女性大臣、お三方の身内ですか。理事官に言ってみます。」

「学。緊急ミーティングだ。Linenでな。」と伝子は言った。

1時間半後。理事官が画面に現れた。高遠と伝子は食事をとりながら画面に向かった。

「運輸大臣の妹は、持ち株会社の株主総会が明日行われる。換気大臣の従兄は太陽光パネル設置会社の入社式が明日行われる。消費大臣の孫のファッションショーが明日行われる。どれにする?」「賞品は?」」「出ない。」「要らん。」と、高遠と理事官の会泡に伝子が割って入った。

翌日。午前8時。如月小学校。「いいですか、皆さん。お家に帰るまでが遠足です。いい思い出を作りに、しゅっぱあつ!!」と校長が挨拶した。子供達は引率の先生に連れられて出発した。

午前9時。最寄りの駅から、続々と電車に乗り込む子供達。そして、ある男が乗り込んだ。

午前10時。男が突然、「ぶち壊してやる!お前達の未来を!!」と叫んで、リモコンらしきものを手にした。何も起らない。近寄って来た女性車掌が手錠をかけた。女性車掌の格好をしていたのは、みちるだった。次の駅でみちるは、他の警察官と共に、男を連れて下りた。

午前10時。運輸大臣の妹の株主総会。警備会社の警備員と中津刑事率いる捜査2課の警察官達が、持ちビルの隅々を早朝から捜索している。

同じく午前10時。換気大臣の従兄の会社の入社式。警備会社の警備員と、久保田警部補率いる捜査4課の警察官達が、ビルの各部屋をチェックしている。

同じく午前10時。消費大臣の孫のファッションショーの会場。警備会社の警備員と、青山警部補や愛宕や警察官達が会場周辺を不審物がないかチェックしている。

正午。不審物がないかチェックしていた各班が薬物を発見した。いずれも覚醒剤や麻薬だった。テレビでは、久保田管理官が記者会見していた。「閣僚のお身内が関係される場所で薬物を使う犯罪が行われるという情報があり、懸命の捜査を行い、発見に至りました。どういう風にばらまく積もりだったかは分かりませんが、未然に防ぐことが出来ました。犯人の行方動機は鋭意捜査中です。」

午後6時。国賓館。今夜。オトロシアと戦争して勝ったヨコライナの大統領が極秘で来日し、到着する予定という噂がネットで広まっていた。

晩餐会の為の食材が搬入口から運ばれて来た。運んで来た台車の陰から男が出てきた。

男は正面出入り口に向かった。「それで終わりか?でくの坊。」「だ、誰だ?」男は懐からナイフを取り出した。

「何の因果か、マッポの手先。セーラー服刑事だ!」と、セーラー服刑事の格好をした伝子が現れた。逃げようとした男のふくらはぎにヨーヨーが絡みつき、男は前のめりに倒れた。

「あっけないなあ。久しぶりに格闘技見られると思ったのに。」と柴田管理官は言った。

警官隊が取り囲み、男は逮捕された。「晩餐会は無かった。最初から。午前中の捜査結果の後、閣僚の身内を誘拐し、監禁した。大統領を暗殺した上で、身代金を取ろうとした。欲をかきすぎだ。今頃は、誘拐された人達は解放されている」

「ふん、ハッタリだ。」伝子が合図を送ると、大広間のスクリーンに解放された人々が写し出された。スクリーンには、ワンダーウーマンとスーパーガールも映っていて、手を振った。

翌日。伝子のマンション。

「やっぱり、副部長はアイデアマンですね。」「依田。おだてても、何も出ないぞ。」

「まあ、物部のアイデアも凄いが、急に発注して、すぐにバッジが作れるとは思ってなかっただけに、EITOの技術力に脱帽だ。」と伝子は、依田と物部の会話に割り込んだ。

「名付けて使い捨てバッジ、だって。ちょっとダサいよな。」と福本が言った。

「Eバッジでいいんじゃない?エマージェンシーとイージー。先輩、どうですか?」と祥子は伝子に尋ねた。

「いいね、それ。それにしよう、量産型は。」と、管理官がPC画面に現れて言った。

「量産型?」と高遠が言うと、「実は、君たちのDDバッジの機能制限したのがEバッジだ。押した人間の認証は外しているし、大体の位置しか分からない。今回、10人のEバッジの内、5人が同じ場所に移動した。半分は誘拐に失敗した訳だね。それで、橘一佐と渡辺警視に踏み込んで貰った。仲間は3人だったよ。内閣を倒して日本をよくするんだと。よく言うよ。時限爆弾の犯人も『元』少年だから、考え方が幼い。まあ、そんな事件だ。」と、管理官は応えた。

「犯人より、子供達の方がしっかりしている。私が乗り込んだバスも、自然と皆力を合わしたし、みちるが捕まえた時も、子供達は動じなかったそうです。」

「あっ、みちるさんが手錠かけたの見たかったなあ。車掌さんが手錠かけるなんて。」

「あるわよ。」とみちるは服部にスマホの写真を見せた。「ホントだ。犯人、びっくりしたろうなあ。時限爆弾は爆発しないし、車掌が手錠かけるし。」と山城は言った。

「みちる。後で消しとけよ。やっぱり今時の子供の方が大人だな。」と伝子はため息をついた。

「我々大人も、見習わなくちゃいけないな、蘭。」と南原が言うと、「おにいちゃんはまだ『こども』でしょ。」と、蘭が返した。

「絶句。」と言って南原は白目をむいた。

―完―






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