あまたの星、めぐり往きて
Han Lu
Ⅰ
その小さな星系を見つけたのはほんの偶然からだった。
銀河のはずれもはずれ、こんな辺境に見るべきものはないだろうという相棒の常識的な意見を無視して、ユーパンドラは複数の長距離プローブをその星系に向けて飛ばした。
もちろんユーパンドラとて、確証があったわけではない。
故郷の星を出てから、すでに一億パーセク以上の距離を移動していた。その間遭遇した生命体はわずかに二種類。いずれも原始的な生命体で、それ以上の進化は望み薄だった。
もしかしたら自分たちは無意味なことを続けているのではないか。それも、気が遠くなるくらいの長い間、そしてこの先も、気が遠くなるほど遥かな未来まで、ずっと。
自ら志願したとはいえ、あきらめの気持ちでいっぱいになってしまうこともあった。
だから、プローブから生命活動を示すデータが上がってきたとき、ユーパンドラ自身も驚いた。
反応は小さな恒星の周りを回っている、三番目の惑星からだった。
思わずユーパンドラは自身の感覚器をネットワークに伸ばした。
「まって」相棒のキラシャンドラがそれを制止した。「何があるかわからないわ。念のため、フィルターをかけてから――」
「大丈夫よ」キラシャンドラの言葉を遮って、ユーパンドラがいった。「どうせたいしたデータ量じゃないから」
でも、その予測は大きく外れた。
ユーパンドラの感覚器はこれまでに経験したことのない膨大な量の生命活動に関するデータを、ユーパンドラに送り込んだ。基本的な項目だけだったにも関わらず、それはユーパンドラの内部機関を圧倒した。
むせかえるような、大量の命の奔流。
過負荷に耐え切れず、ユーパンドラの感覚器が次々とブラックアウトしていく。
「なにこれ。気持ち悪い……」
そうつぶやいて、ユーパンドラは気を失った。
★
目が覚めると、すぐそばにキラシャンドラがいた。
「私、どれくらい眠ってた?」
「例の惑星基準で、四千恒星年くらい」
あの第三惑星が恒星の周りを一周する時間を一恒星年として、それが四千年――今のユーパンドラたちにとってはあっという間だが、あの惑星上の生命体にとってはどれくらいの感覚なのか、今のところそれを知るすべはなかった。
「はー。まいったなー」
「だからいったじゃない」そういいながらも、相棒の性格には慣れっこになっているキラシャンドラはどこか楽しそうだ。「ほんと、無茶なんだから」
「いったい何なの、あの星は」
「異常なくらい、生命が密集してる」
キラシャンドラが伸ばした感覚器と自らのそれを接合させて、ユーパンドラは眠っている間に収集された情報を共有した。
「あり得ない」ユーパンドラは体を震わせた。「こんな……こんな状態でどうやって生命体が維持できているというの。これじゃあ、ほかの個体の命を犠牲にしないと、とてもじゃないけど生きていけないわ」
「その通りよ」真剣な声でキラシャンドラが答えた。「あの星では、他の生命を犠牲にすることで生命活動が成り立っている。生と死のサイクルがあまりにも速いから、大量の個体が存在しても成り立っているみたい。まだ完全には調べきれていないけど」
「それで、あれから変化は?」
ユーパンドラの言葉に、キラシャンドラは思わせぶりに答えた。
「びっくりするわよ」
今や、ユーパンドラたちの船に搭載されているほぼすべてのプローブやセンサが第三惑星に投入されていた。
「ちゃんとフィルターをかけているから、大丈夫よ」
キラシャンドラの言葉に「わかった」と答えて、ユーパンドラは船のネットワークに接続した。
第三惑星の状況は、ユーパンドラが最初に接続したときと比べて大きく変化していた。前回はほんのわずかな情報しか得られなかったけど、あのときから確実にあらゆる生命体が進化している。特に顕著なのが、二足歩行している生命体だった。
最初は狩猟や農耕といった原始的な生活を送っていた彼らは、やがて高度な道具を獲得し、町を築き始めた。
「もうこんなに進化しているのか」
「私たちの演算速度を上げましょう」
「そうね」ユーパンドラが同意した。「こんなにも異常な速度で進化しているなら、こちらの演算速度も上げないと、あっという間に滅んでしまいかねないわ」
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