(2)


 短いうめき声の後、どろりとした生温い液体が放たれた。たちまち、生臭さと不快な食感が口内を侵食する。



 絶対に、口から溢すな。


 固く目を閉じ、自分に強く命じた。以前、堪らず吐き出してしまった時、床を舐めさせられた苦い思い出があるからだ。



「残さず飲め」


 彼は私を見下ろしたまま、満足気に言い放った。

 この瞬間が、一番嫌いだ。



 息を止めたままごくり、と飲み込んだ。彼は私に口を開けるよう命じ、それが残っていないことを隅々まで確認した。



✳︎✳︎✳︎


「おれのこと好き?」

「お前はおれのこと、捨てたりなんかしないよな?」


 彼は私を抱く度に、耳元でそう尋ねる。じっと口をつぐんでいると、彼は動きを止め、凍てつくほどの真顔で私を見下ろした。



「おい、無視してんなよ」


 そう言って、力を込めて首を絞めながら、激しく腰を打ち付けた。「好きだろ? おれのこと」泣き出しそうな、懇願するような声で、私を問い詰める。お決まりのパターンだ。たとえこうなることが分かっていても、私はどうしても認めたくなかった。



 しかし、それもじきに限界を迎える。息ができない。彼の顔が、幾重いくえにも重なって見える。脳に十分な酸素が行き渡っていないのだろう。


 もう、これ以上は、耐えられない……。



「ずぎ……だがら……やめで……」


 彼の手に爪を食い込ませながら必死に訴えると、彼は満足そうにその手を緩めた。そして、涙を溢しながら激しく咳き込む私をそっと抱き締め、「ありがとう。おれも大好きだよ」と、頬を伝う涙を丁寧に舐め取った。

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