河童と目が合った後で

アオヤ

第1話

ここは運河と呼ばれる川がある商店街。

運河の両岸は古い石畳が敷き詰められ、その通りには商店が立ち並んでいる。


学校帰りの私は川に泳いでいるでっかい鯉を眺めながら、その商店街をぷらぷら歩いていた。


夏の午後の日差しは強烈で汗が止まらない。

私は日差しから逃げようと、商店街に隠れる様に在る喫茶店に逃げ込んだ。


喫茶店の中はそれまでと比べられないくらい快適だ。

私は通りが見渡せる窓際の席に座り、アイスコーヒーをすすりながら大人の苦みを味わった。

心が落ち着いた私は「フゥ~」と息を吐き、ぼんやり窓の外を眺めだす。


石畳からは陽炎が立ち昇り、通りを歩く人々を包み込んでいた。

『川を流れる水はぬるま湯になってるんじゃないの? 』

そんな事を涼しい喫茶店でボ~と考えていたら・・・


ドカーン・・・ ゴロゴロゴロ


近くで雷鳴が響き、数分後には大粒の雨が石畳に叩きつけられた。

窓の外はドラムを叩く様な雨音が響き、窓の外の柳の木は右に左に大きく揺れた。


「危なかった。もう少し遅かったらずぶ濡れだった。」


もうすっかり通りから人影が消えていた。

聞こえるのは雷鳴と壊れたピアノを弾く様な雨音だけだ。

でも、そんな雨音に混じって『ピト、ピト、ピト』とまるで路面に吸い付く様な音がどこからか近づいてきた。


この場所に棲む水辺の妖怪の話を以前お婆ちゃんから聞いたのを思い出してしまった。

夕暮れの薄暗くなった水辺を彷徨う妖怪の話しを・・・


足音は私が座る窓辺の席のすぐ前まで来てピタッと止まった。


外を見たくない気持ちと、外を見たい好奇心が入り混じって暫く俯いていたが・・・

私は意を決して窓の外を見た。


そこには頭が皿の様に平たく鈍い光を放った生き物が居て、私の事をギロッと睨みつけた。

目が合って、一瞬心臓が止まるかと思った。


私は怖くて固まったまま動く事ができない。

『どうかこれは夢であってほしい』

そう願いながらもう一度顔を上げて窓の外を見てみると・・・


河童だと思っていた生き物の正体が父である事に気が付いた。


どうやら父は私が雨に打たれ、凍えて居るだろうと思って迎えに来たようだ。

そんな父は雨風が酷かった為に見るも無残な姿に・・・


そして父は喫茶店でくつろいでいる私を見て激怒する。

そんな父の姿はある意味、妖怪の河童より怖かった。



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河童と目が合った後で アオヤ @aoyashou

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