つばさは大きな桜の木から下りて、その『二つの小さな足』を校庭の土の上にくっつけた。

 それからつばさはなにをするでもなくそのままぶらぶらと誰もいない、とても広い校庭の上をひとりぼっちで散歩した。

 まだ二時間目だから、放課後までずいぶんと時間があった。

 さて、なにをしようなかな?

 涙を服の袖で拭って、笑顔になったつばさは春の雲ひとつない晴天の青色の空を見上げて考える。

 空が飛べたらいいのだけど、そんなことは夢の中でもつばさにはできないことだった。(もしかしたら、本当に望めば、ふわふわと空が飛べないのかもしれないけど……)

 つばさは校庭の隅っこに転がっていた孤独な(つばさと同じ)サッカーボールを蹴飛ばした。

 思いっきり蹴飛ばしたのだけど、サッカーボールはなぜかとても重く、ころころと校庭の上をゆっくりと転がるだけだった。

 きっと誰かがこの風景を見ていたら、風の力でサッカーボールが転がったと思うだろう。

 つばさは自分の右足とサッカーボールを交互に見てから、そんなことを考えた。

 つばさの履いているお気に入りの(買ってもらったばっかりの、まだ全然履いていない)真っ白なスニーカーは、思いっきりサッカーボールを蹴飛ばしても、全然、土で汚れたりはしなかった。

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