俺のダンジョン探索がようやく始まる

アキ AYAKA

第1話 プロローグ

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 世界がまだ混乱から立ち直っていない頃、世界中で地震が起きた。

 プレートなど関係ないかのように世界中で地震が起き、地震によって更に混乱は起きた。

 そしてそれは今でも続いている。

 今では特に混乱と言われることもなく、それが日常となっている。

 地震によって世界中に迷宮ができた。

 大きさ形は様々で今では迷宮をダンジョンと呼んだ。

 ダンジョンに挑む者によって世界中に伝説が溢れた。

 多くの死者を出しながらも世界中で挑む者は増え、世界がそれを後押ししている。

 そして毎日、新人がダンジョンへ挑みに行く。


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 現代で道場といえば多くの者が訓練をして合格通知をもらうための場所になっている。

 合格通知が証明となりダンジョン探索の免許が発行されるからだ。

 うだるような暑さの中、合格通知をもらったがまだまだだと、言い訳をしてダンジョンに行かず、師範に手ほどきをしてもらっているときだった。

「師範、ソウを借ります! ソウ! こっち来い」

 そう言ってきたのは俺より早くにこの道場へ通っていた三十過ぎのひげ面のおっさんだった。

 師範はいつもの事だから行ってこいと言わんばかりに俺に背を向けている。

 ひげ面のおっさんは合格通知をもらうとダンジョンに入っていった側の人だ。

 下手なことは言えないが技術的には俺の方があると十分に分かる。

 しかし、おっさんはそれ以外のものを持っている。

 おっさんの方に向かうと木刀を投げてよこしてくる。

 ここの道場のものではないのだろう、材質が違うのか少し軽くて長い。

「ソウ、俺の攻撃をしっかり躱せよ。軽く斬っちまうからな」

 おっさんは半袖半ズボンの私服に対して俺は道場で買った道着と袴だ。

 おっさんは竹刀で俺は木刀これもいつも通り。

 間合いの外まで歩いていき、正眼に構える。

 おっさんは右腕を左腕前まで伸ばし切った状態で竹刀を右斜めに構えている。

 次の行動に移行し辛そうな構えだがそれでいいのか疑問だ。

「来い、ソウ」

 お言葉に甘えて間合いを詰める。

 こちらを見ながら余裕そうに笑っているのを見て、わきをしめて胴に突きを放つ。

 後ろに下がりながら竹刀で弾きこちらの攻撃をどうにか躱したおっさんは眉間に皺をよせて嫌そうな顔をしている。

「いくぞっ!」

 こちらに走りながら大声で言い、その後ボソボソとなにかを言った。

 すると、おっさんの竹刀が黄色にうっすら光った。

 ダンジョンで見つけてきた何かだろうが、全く分からない。

 それでも危険だと思い、その攻撃を避ける。

 体に遅れた袴の裾が竹刀によって切り裂かれた。

「ソウ、これはダンジョンで見つけてきた魔法、付与魔法だ。クリエイトブレード」

 紹介と同時に光っていなかった竹刀に魔法を唱えている。

 そうすると竹刀がまた黄色く光っている。

 どうやら一回だけのものらしい。

 しかし、危険であることには変わりないため師範に止めてもらおうと振り返ると剣術の型をゆっくりとなぞっていた。

 この時の師範は何度か呼びかけないと動かない。

 どうにかして無力化しなければならない。このおっさんを。

 それに俺がいつか決心すれば行くダンジョンでもこういうことがあるだろうから、いい練習だ。さすがのおっさんも殺しはしないだろう。

 おっさんは、また変な構えで俺の出方を伺っている。

 師範は一度もその構えを教えたことがない。

 腕の伸びきったあの構えから最もしやすい攻撃は何なのか?

 突きか?

 違う。そこそこの長さの竹刀だ、引きながら突きを放つ手前までもっていくのは時間がかかる。

 そういうことなら袈裟も違う。一度持ち上げないといけない。

 踏み込んでの薙ぎだ。

 立ててある竹刀を寝かせて腕の力ありきで振るう、右の薙ぎ払いだ。

 こちらから踏み込んでちょうどいい間合いで振ってもらえばいい。

 今はどちらも得物が届かない状態だ。

 正眼の構えのままおっさんの間合いに体が半分くらい入る位置まで向かう。

 向かっている途中で案の定、右の薙ぎをしてきたおっさんに対してこちらは体を沈めていった。

 沈めながら左肩の上まで木刀を移動させ、頭の上に木刀を構えた状態にもってきた。

 向かってくる薙ぎを木刀の上を滑らしながら上に弾く。

 右手を弾かれたおっさんは胴体ががら空きだ。

 竹刀を弾き左に両腕上げたままの状態から逆袈裟をおっさんの胴に軽く打つ。

 そこそこの衝撃だったのか、おっさんはよろけた。

「カッ! 次こそは見てろよソウ、ダンジョンで強くなってくるからな。師範失礼しました」

 そう言って俺の手から木刀を取り、しっかりと師範に礼をして出ていった。

 それを見てため息を吐いていると、師範が腰を叩いてくる。

「アイツはお前を倒せば来なくなる。負けたときお前はどうする、ソウ」

「修行を続けているんですかね?」

 負けるところは想像つくが、負けたとき俺が何を思うかまでは分からない。

 悔しかったりするのだろうか。

「先ほどの動きはよかったぞ、そのうち新しいことを教えるから楽しみにしておけよ、ソウ」

「はい」

 師範、知っていると思いますが俺の名前は、銅蒼(あかがねあおい)です。


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「ナナカ! マジックキャスターを!」

 ここはダンジョンの中層序盤の大きな広間。

 探索中に接敵、敵は十三体、鈍重だが力の強いオーク。

 弓を使うナナカに遠距離攻撃職の相手を頼む。

 遠距離攻撃を使う敵は三体、弓二体に魔法一体、弓はそこまで脅威じゃないが魔法は詠唱がある代わりに威力は絶大だ。

 私は剣士のオークを一体ずつ相手していく。

 チームは四人、一撃重視の私に幼馴染で遊撃に回ることの多いコウキ、大型の盾を操るタクトに弓と支援を行うナナカ。

 タクトは三体以上のオーク相手に持久戦を仕掛けていて私たちが頭数を減らして援護に来るのを待っている。

 コウキはナナカの援護をしている。

 攻撃力の違いでコウキは一体を相手にすることはない。

 私は金属の塊を振り下ろし強引にオークが持っていた武器ごと圧し切る。

 後十体、こちらに向かってくるオークを切るだけの簡単な仕事が始まる、いつもであれば。

「タクト! 魔法がいったぞ!」

 コウキの声で火の玉がタクトの周りにいるオークごと巻き込むように飛んで行ったのが目に入る。

「任せろ!」

 タクトはその言葉とともに魔力を使ったのだろう、存在感が増した。

 火の玉が大盾に当たり、爆発した。

 周囲にいたオークたちは体が燃えて倒れている。

 タクトがどうなったかは分からないが、やることは変わらない。

 魔法の威力の高さに止まっているオークを切るだけだ。

 コウキもナナカも戦闘をしているようで時折声が聞こえたがタクトの声は聞こえなかった。

 オークを倒し切り、時間が経って死体がボロボロと崩れ落ちていったとき、その場所からタクトが出てきた。

「飲み物をくれ」

 かすれている声で言うタクトのカバンから水筒を取り出して渡す。

 ゆっくりと飲んでいるタクトを見る私の後ろにナナカとコウキも来たようで二人を見ると随分と暗い顔だ。

「アッ、あー、あー、ゴホンっ」

 喉に違和感を覚えて何度か声を出してせき込み、タクトは話し出した。

「皆。今回のこの状況どうしてなったと思う?」

 年長者ということもあり、戦闘以外でのこういう話をしきるのはタクトだ。

「私がマジックキャスターを妨害するのを遅れたことが、一番大きいと思う」

 タクトの次に年長者のナナカが言いづらいそうにそう言った。

「俺はナナカの援護もシオンの援護もどっちつかずだったのから、この状況につながったんだと思う」

「私は戦闘で言えば敵を倒す時間をもう少し速められたかも。それに私が突っ切ってマジックキャスターを切ればよかった」

 そうかも、そもそも威力の強い魔法を撃つことが分かっていたのだから、確実に倒してそれから減らしていけばよかったんだ。

「みんなの言うことも確かにそうだ。でも俺は単純に連携が足りないと思う。俺たちがパーティーを組んでまだ半年だ。確かに元々交流はあったし何度か共闘もしたが、しっかりと連携の訓練はしてなかった。誰かが怪我する前に分かってよかった。だから明日からは連携の訓練だ」

 タクトがそう言うと皆が確かにというように頷いた。

 そもそも戦闘中にあんまり声掛けもしていない、戦闘前にこの場合はどう動くかを考えて話し合ってはいるがそれだけだ。

 確かにいい機会かもしれない。

「今日はさっさと帰って明日に備えるぞ。明日は隣の市にあるE級ダンジョンで連携の訓練だ」

 タクトはそう言うとすっと立ち上がり、真っ先にダンジョンを戻り始めた。

 私たちもその後を追いダンジョンを出ることにした。

 いつもの順番、コウキ、私、ナナカ、タクトの一列で。

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