魔王と勇者の終末クッキング
筋肉痛隊長
Intro
「お、いいお酒はっけーん。チーズ、チーズ……いいチーズはどこかな?」
「おい」
「おぉ、チーズどころかいいサラミ発見。いいもの食べてるなぁ」
「おい、勇者よ。こんな夜更けに、この囚われの魔王に何用じゃ?」
「やっぱお肉だよね、お肉。聖剣でスライスするのもなんだし、コノママ、オマエ、マールカージリー」
「塩分過多じゃーぁっ!!」
「ひゃぁぁあぁ……なんだ魔王ちゃん、いたの?」
「魔王様と呼ばぬか、女勇者よ。いるに決まっておるじゃろ。この塔はわれを監禁する牢獄じゃからの」
「その割に元気そうだね、魔族の女帝さん。縛られてないし」
「塔の中なら自由に過ごせるのじゃ。われを恐れて近付く人族もおらぬ。出られはせぬが気楽な幽閉生活じゃの。またぬしの仏頂面を見ることになるとは思わなんだが、われの処刑でも決まったか?」
「決まったよ。今は処刑方法でもめてる」
「なんじゃと!?」
「斬首派と火あぶり派に分かれて闘争中」
「聞きたくなかったのじゃ……」
「そもそも魔王ちゃんが急に投降したせいで、人族は世界戦争直前だからね」
「なんでじゃ?」
「魔族と人族が戦争を始めた時、勢力比ってだいたい1:9だったよね」
「そうじゃの。人間どもは劣勢のわれらを滅ぼさんと攻めてきたのじゃ」
「魔王ちゃんがそれを返り討ちにして攻勢に出たら、魔族領と人族の国々で半々くらいになったよね。焦った人族は団結して、ボクも参戦させられたんだけど」
「人族弱かったのぅ。ぬしが参戦してやけに勢いづいたが、新しい国境線は動かなかったのじゃ。ぬしはわれを前にしても本気を見せず、戦況を動かさぬよう小細工しておったろ?」
「バレてたか。まぁ戦争なんてだらだらやってお金稼ぐのがボクの立場だし。大きな被害が出る前に国の金庫を空にして講和するくらいでいいじゃん」
「勇者が戦争屋のようなことを言い始めたのじゃ。じゃがぬしと憎しみ合わずに戦えたのは、そのお陰かの」
「ボクらが本気でぶつかり合ったら周囲の被害がね」
「それも然りじゃが、このところは双方悲惨な戦いばかりじゃったではないか。なんじゃ、人族の戦い方は」
「確かに、魔王軍に降った町を同じ人間の軍が焼き討ちしたり、餓死するまで籠城するのは異常だよね。どうやらボクがいると『勝てるかも?』って期待をさせちゃうみたいで。戦略的に引き分けるようにしてたんだけど」
「ぬしの『勇者の奇跡』じゃろ。味方の士気を上げるパッシブのやつじゃ」
「それって結局『最後は勇者がなんとかしてくれる』って思考放棄なんだよ」
「勇者の奇跡というのも存外恐ろしいものじゃな」
「そのせいで国も宗教も暴走気味でね。どうやって終わらせようか悩んでたら、魔王ちゃんが王都に単騎で乗り込んで、しかも投降してさ」
「そもそも誤解があるようじゃの。われは投降などしておらぬ。人間どもが命を粗末にするのを見ておれんかったでの、講和の交渉に来たら捕まったのじゃ」
「そんなところだと思ったよ。じゃあ怒った魔族が魔王ちゃん取り返しにきて、王都がひどいことに――」
「ならぬ。部下たちにはわれが帰るまで手を出すなと命じたのじゃ。後任も決め、覚悟の上でわれ一人で来た。助けようにも結界に覆われた塔じゃ。われがどこに囚われているかわからんしの」
「でもこのままじゃ処刑されちゃうよ?」
「ぬしがそれを言うか……まぁそれもよいじゃろう。魔王というのは死と復活を繰り返すのがさだめ。勇者もそうであろ? この愛らしい魔王の命で戦争が終わるなら――」
「だから終わらないんだって。人族は魔王ちゃんがいない魔族なら勝てると思ってるから、今の魔族領をどの国が取るかでもめてる。魔王ちゃんを処刑したら好き勝手に戦争始めちゃうよ」
「人族ってバカじゃのぅ」
「遺された魔族たちも巻き込まれるんだから、他人事じゃないんだよ」
「わかっておるわ。われにどうしてほしいのじゃ?」
「お料理しようよ、魔王ちゃん」
「料理? ここに来てから毎日しておるぞ。食材はくれるが料理人などおらんからの。下の階の厨房はなかなか立派なものじゃ」
「それは好都合。この塔の鍵を賭けて、ボクと料理勝負をしよう」
「なんじゃぬし、われに魔王城へ帰って欲しいのか? お断りじゃ、何が楽しくて死にたがりの人間どもを殺してやらねばならぬ。われは人族が勝手に滅んだ後にのんびり復活するのじゃ」
「おやおや、そんなこと言っていいのかい? 勝負はこの魔道具で魔王城に中継するよ。部下たちに元気な姿を見せなきゃ」
「むむむ、おのれ勇者……部下の前で勝負から逃げる訳にはいかぬっ」
「決まりだね。じゃあまずは……オムライスが食べたいな」
「ふむ、オムライスか。たやすいわ、魔王のフライパンさばき、とくと見るがよい!」
「わーい、じゃあ魔道具の方見てー、せーの」
「「魔王と勇者の終末クッキング!」」
「ほら、手振って」
「茶番臭いのー」
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