第5話 港街にて
紫紺の艶髪を惜しげもなく背へながした長身の美女と、髭をたくわえた壮年の男がつれ立っている。
「
「なにが」
「『
「いったい何年前の話してんだい」
「ところがどっこい、最近の話なんですヨ。なんでも、猊下のお怒りを買ったどこぞの田舎村が、一晩で血祭りにあげられたらしいねェ」
「それはそれは、物騒なお話だことだ」
美女、艶麗が淡々と返すも、にぎやかな往来に調子づいたのか、上機嫌な男はいつにも増しておしゃべりになる。
「猊下が二十年前に『あちら』からいらしたときも、すさまじかったらしいねェ。国ひとつ吹き飛んでしまったんだものネ?」
「よしな。亡国と『
「そうはいっても、お嬢も気になりまセンか? なぜ
「それは当時の王族のみが知ることだよ。そして死人に口なしだ。わかったらとっとと歩きな、
「もォ、お嬢ってば年寄り使いが荒いんだからぁ〜ン」
「ほんの五十すぎが年寄りぶんじゃないよ。きびきび働きな、オラ」
「ンンッ……! お嬢のおみ足が、この老いぼれめの腰に食い込んでっ……このままでは、持病の腰痛が治ってしまうゥ……!」
「わかったからクネクネするんじゃない、気色悪い」
──しまった、こいつにとっちゃご褒美だった。
艶麗は軽率に蹴りを入れてしまったことを、ため息まじりに猛省する。
「依頼人と顔合わせのときは、しゃんとするんだよ」
「もちのろんですトモ! われわれのお仕事は、
「あぁ。このところ儲けを上げている行商のダンナだ。この先の波止場で落ち合うことになってる」
「フム……それは困りましたねェ。どうやら波止場は、今朝方はやくから立ち入り禁止とのことですゾ」
はじかれたように、進行方向を見やる艶麗。
じっと目をこらせば、人の
「……『終日漁業禁止令』? この快晴で、波も荒れてないのに、なんだってんだ」
「並々ならぬ事情がございまして、わたくしどもから漁業組合に申し入れたのですよ」
往来の人波から、おもむろに男がすがたを現す。
身につけた
「
「これは、
「鏢頭がひとり、
艶麗、次いで松君は袖を合わせ、頭を垂れる。目前の人物こそ、今回の依頼主だと理解したがため。
「優秀な武人である鏢局のみなさまに護衛していただけるなんて、たのもしい限りです。せっかくですから世間話がてら、とっておきのお話をお教えしましょうか」
「とっておき! 気になりますねェ」
「わが商団の者が、早朝に偶然発見したのですがね……この街の海岸に、人魚が打ち上げられていたんです。それも、黒髪の」
「……なんだって」
にわかに視線を細める艶麗。その眼前では、にこにこと笑みをたたえた男が、懐へ手をさし入れ。
「さわぎになる前に、波止場を一時閉鎖して、わが商団で保護させていただきました。おふたりですから、特別にお教えするんですよ?」
ちゃりん、ちゃりん。
数枚の金貨が、男の手のひらで転がされていた。
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