MMOで仲の良いフレンドとオフ会したら、疎遠になっていた幼なじみギャルが来た件
國爺
序
1
『よっしゃああああああ!!』
興奮と緊張で震える指でチャットを打つ。
画面には、巨大な龍型のモンスターが光の粒子となって消滅するムービーが流れている。
『やったああああ!』
『うおおおおおおおおおお!!』
『お疲れ様!』
同じように歓喜のチャットを打つのはパーティーを組んでいるメンバーだ。全員一丸でこの勝利の喜びを分かち合うことができているのだから、改めてネトゲのすごさを思い知ったような気がする。
俺――
2000年にリリースされて以降、幾多のアップデートを経て戦闘も採集も制作もなんでもできるMMOに進化しており、そのすそ野の広さで、カジュアルプレイヤーからハードコア勢までを取り込んでいる。俺がこのゲームを始めたのは2017年頃で、そろそろプレイヤー歴が5年になるが、まったく飽きることがない。
そんななんでもできるMMOの中でも、俺は高難易度のバトルコンテンツを攻略することにハマっている。
今回のアップデートで追加されたのは5人用で、SNSでパーティーを募集して攻略に挑んだ。
「歴代でもかなり難しい方」
との前評判に違わぬ難易度だったが、実装日から2か月ほど経って、この度ようやくクリアすることができたのである。長期間の攻略だったということもあり、喜びは並み一通りではない。
「やっと……クリアしたんだ……」
言葉にして、実感がぞくぞくと湧き上がってくる。
長かった。
ガチ勢の攻略動画を観て予習して、つまずいた部分はメンバー全員で逐一確認して、それでも制覇までに100時間以上の時間がかかった。
『ついに我々もトップ勢ですか!』
『いやもう何千人もクリア者出てますって(笑)』
「はは、『アネモス』さんは相変わらずクールだなあ」
流れてきたチャットを見て思わず笑みがこぼれる。
アネモスさんはこのパーティーにおいてヒーラーである【白魔導士】として参加しており、的確なヒールと攻略方法の提示で多大な貢献をしてくれた。この人がいなければおそらく攻略にはさらに時間がかかっていたことだろう。
ちなみに、雑談などをするうちに俺は彼と意気投合しており、今はSNSでもやり取りをしていたりする。投稿から察するに、彼も俺と同じ高校生らしいから、余計に親近感が湧いている。
『にしても地蔵さんマジで上手いですね~。さすがトップ勢なだけあります!』
『いやいや、そんなことないですって。一人でやるコンテンツじゃないから、皆さんがいてくれたからこそですよ』
『地蔵』とは俺のプレイヤーネームである。苗字である「笠井」の「笠」から連想したというだけだ。
そして自分で言うのもなんだが、このゲームにおいてはそこそこ有名な方であると自負している。もちろん良い意味で。というのも、以前の高難易度コンテンツの攻略において、世界で一桁の踏破順位を記録したことがあり、「暗黒騎士の地蔵」という名前が広がったからだ。
『実際、地蔵さんが考案してくれた処理法はマジで画期的でしたね。ブログでもめっちゃアクセスついてませんでした?』
『あ~、まあ。最近50万PVいきましたね』
『すげ~』
ちょっと誇らしくなった。
その後、手に入れた限定武器で記念撮影をしたのち、打ち上げやらなにやらも行うことなくパーティーは解散となった。ちょっとドライかもしれないが、今後もきっとどこかで攻略をご一緒することもあるだろうから、悲しくはない。
「さて、今日はログアウトするかな」
もう夜の10時を回っている。明日も学校だ。
ログアウトしようとしたその時、ダイレクトメッセージを受信した音が鳴った。
「ん? 誰から……ってアネモスさんか」
受信箱を開いてみると、
『お疲れ様です。せっかくクリアしたんですし、リアルで打ち上げでもしません?』
「……お、オフ会の誘い?」
思わずそうこぼしてしまう。それくらい意外な申し出だった。
『5人でですか?』
『いえ、地蔵さんさえよければ二人で』
これまた驚愕の申し出であった。
「二人かあ~……初対面の人と二人きりって、オタクには厳しすぎるだろ」
とはいっても、即座に断れず、興味を持っている俺がいることも事実だ。今の時代、ネットで知り合った人と会うことも珍しくない。それでトラブルに巻き込まれる例もあるが、交友の輪が広がることだってあるだろう。
実際、SNSで他のデュナオンプレイヤーがオフ会している投稿を見たりしていて、俺にもオフ会に対するぼんやりとした憧れみたいなのはあった。
ごくり、と唾を鳴らす。
『いつ頃ですか?』
『今週土曜はどうですか? 自分、部活とかやってないんで』
『俺もです。いいですよ。アネモスさんは都内でしたっけ』
『ええ、地蔵さんもですよね?』
『神奈川ですけど都内だったら、全然』
無機質な打鍵音が乾いた夜の静寂に鳴り響く。
俺の背中は変な汗が滲んでシャツがびしょびしょになっていた。もう7月である。
『場所は?』
『デュナオンがコラボしてるカフェあったじゃないですか。あそこ行きません?』
「あ~あそこか」
俺自身も興味はあったものの、カフェ=オシャレというイメージから俺みたいなオタクが入ろうものなら店員総出でつまみ出されるだろうと思い、近寄らないでいた。興味はあったので渡りに船だ。
『いいですね。池袋ですか?』
『そっちにしましょうか。新宿は混み過ぎですし』
とんとん拍子に話がすすんでいく。
心臓が機関車のように際限なく拍動を刻んでいる。
口の中がカラカラだ。
机の上に置いてあるペットボトルをつかんで引き寄せる。その間にもチャットが打ち込まれる。
『いや~すっごい楽しみです! 自分、オフ会とかしたことないんですけど、どうしても地蔵さんにお会いしたくて~』
『すごく光栄なんですけど、どうして俺なんです?』
『だって地蔵さん、すごくデュナオン上手いじゃないですか! 自分もこのゲーム初めてまだ1年ちょっとなんですけど、天・海神討伐を世界7位で攻略した謎のチーム【MMJ】のリーダーの地蔵くらい知ってます! しかも本人とパーティー組めたんだし、はあもうさいっこ~って感じで』
「ははは……」
彼の中で神格化されている自分に苦笑いが浮かぶ。当日会って「は? コイツ陰キャ丸出しじゃねーか〇ね」などと言われた暁には二度と立ち直れない自信がある。が、アネモスさんはSNSでもすごく良い人っぽいので大丈夫だろう。
「……ま、まあ、身だしなみには気使うか」
ドラゴンや謎の英字がプリントされたシャツで溢れかえる自分のタンスを思い、思わずため息が出た。
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