第26話

 霧姫さんと付き合ってから、それなりの日数が経過した。


 絵美里には避けられたり、絵美里自身が学校を休んだりしていて、不安なので今度絵美里の家に行ってみようと思う。


 相変わらず、霧姫さんとは仲良くやっていて....というか霧姫さんからのアタックが凄くて若干押され気味だ。


 最近では教室では当然のように僕の膝に跨るように座って、胸に顔を埋めすんすんと匂いを嗅いで、はぁはぁとしているし。


 もうすぐ、多分、僕は初めてを散らすことに成るだろう。


 そのくらいには霧姫さんからの熱烈な愛を受けている。


 僕も何かお返ししたいんだけれど、霧姫さんからのアタックが強すぎて、霧姫さんが頬を染めるようなアタックが考え付かないのだ。


 そんな、甘い日々を過ごしているわけだけれど未だに問題がある。


 それは....


「またかぁ....」


 靴箱を開けると、また『今日の放課後、逃げずに校舎裏まで来いよ、ブサイク』と思いの籠ったラブレターが入っていた。


 モテすぎて怖いなーと思いつつ、クシャっと握って鞄に入れる。


 教室へと入り、霧姫さんがいつものように僕の椅子に座っているので挨拶をしていつもの形になる。


「霧姫さん、今日の放課後、少しだけ遅れるかもしれません」

「どうして?何かあるの?」

「えぇ、まあ少し用事が入って」

「ふぅーん、そうですか。先生から何か頼まれごとをされたのですか?」

「う、うん。まぁそんなところです」

「.........そうですか、分かりました。ではいつもの場所で待っていますね」

「はい」


 一応、霧姫さんに放課後遅れることを伝える。


 午前中、お昼、そして午後の授業を終えて放課後になった。


 僕は渋々重い腰を上げて、校舎裏へと足を運ぶことにした。


 行ってみるとそこには、サッカー部の副キャプテンさんが壁にもたれかかっていた。


「来たか、ブサイク」

「来ました、ブサイク」

 

 この副キャプテンさんは、あんまりいい噂を聞くことがない。確かに、普通の人よりは格好いい顔をしているけれど、傲慢だし、女性に対して馴れ馴れしく若干面倒に思われているらしい。それに、サッカー部のキャプテンさんが、完全にこいつの上位互換で、サッカーも上手い、優しい性格で、それに顔も格好いい。正直、僕じゃなくてあの人が霧姫さんと付き合った方が納得できてしまうくらいの格好良さを誇っている。


 こいつは度々、その完璧超人と比べられ自尊心が傷ついているところに、僕が霧姫さんと付き合ったという声を聴いてさらに傷ついんだろうな。


 だって、こいつ霧姫さんに一回盛大に振られているから。


「あんまり調子に乗ってんじゃねぇよ、ブサイク」

「調子に乗っているつもりはないんですけれどね」

「さっさと別れろよ。お前と霧姫さんが釣り合ってるわけないだろ」


 と言い放つこの自称格好いい人。


「ムリです。だって、あなたより僕の方が格好良くは無くてもマシですから」

「はぁ?あんまり調子に乗らない方がいいぞ?身のためにな」

「調子に乗らない方がいいのはいいのはあなただと思いますけれど。霧姫さんに振られたからって僕に八つ当たりしないでください」

「ちっ!!ぶっ飛ばしてやる」


 あぁ.........怒らせちゃった。まぁいいか。別に。


 殴られるだろうけれど、言い返さないのも違うなと思ったから。


 やり返してしまうと良くないので、大人しく軽くニ、三発殴られてから胸ポケットにあるカメラで撮ってある動画を先生に見せよう。


 そう思って潔く殴られようとした時だった。


 目を閉じて殴られるのを待っていたが一向に衝撃が来ないので見てみると、霧姫さんが掌で拳を受け止めていた。


「本当に、ふざけないでください.........」

「な、なんで.........」


 震える声でそういう霧姫さん。別に痛くて震えているわけではない、怒りで震えていた。


「私の大切な赤塚君に何してくれているんですか?蛆虫が」

「霧姫さん?なんでここに?」

「赤塚君は、後でお、し、お、き、ですからね。そこで見ててください。少し人間様の偉大さを享受してきますので」

「は、はい」


 霧姫さんが鋭い目で、蛆虫先輩の事を見る。


「それで、蛆虫君。私の赤塚君にどうしてこんなことをしてくれたんですか?」

「お、俺は、霧姫さんの事を思って」

「はぁ......どいつもこいつも私のためを思ってと意味の分からない言葉を吐きますね。私があなたにいつそんなことを頼みましたか?」

「そ、それは....」

「気持ち悪いです、吐き気がします。私のためを思うなら、私の赤塚君に危害を加えるなんてこと思わないはずなんですよね。頭がおかしいんですね。あぁ、そうか蛆虫ですから考えることなんてそもそもできませんよね。こちらの配慮が足りませんでした。ごめんなさい」

「....っ!!そもそもお前がいけないんだよ!!なんで俺を振ってそいつは良いんだ。可笑しいだろ」

「はて?あなたが私に告白なんて…たぶんしてきたんでしょうね。私は全く覚えていませんけれど。私、蛆虫の名前を覚える趣味はあまりなくて。虫が嫌いですから」

「…」

「あぁ、汚らわしい。悍ましい。あなたのような蛆虫が心底嫌いです。大嫌いです。私の大切な、愛おしい、この世の何物にも代えがたい赤塚君を殴ろうとするなんて万死に値します。正直殺したいほどです」


 霧姫さんの眼は冗談を言っている人の眼ではなくて、本当に殺してしまいそうな雰囲気を漂わせていた。

 

 もし、僕があいつを殺してと言えば罪の事など考えず笑顔で殺してしまいそうな、そんな雰囲気。


「....あんまり、調子に乗るなよ。このくそアマ!!」

「....はぁ」



 怒りが頂点に達したのか、僕を殴ろうとしたときのように大振りで助走をつけて殴りかかろうとする蛆虫先輩。


 霧姫さんはため息をついて、殴りかかろうとする蛆虫先輩を軽やかに捌いて一本背負いをして背中から蛆虫をたたきつけた。

 

「かはっ!!」

「気持ち悪いです。二度と近寄らないでください。私と赤塚君に」


 そう吐き捨てるように言って僕の方に振り向く。


 その笑顔は先ほどの殺気を持った眼ではなく愛情が籠った慈愛に満ちた目をしているのだけれど、少しいつもとは雰囲気が違う。


 若干の怒気を孕んでいるそんな目。


「赤塚君、お、し、お、きの時間ですよ?」

「は、はーい」



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る