煩悩魔法で無双する
@kaijin6
プロローグ
第1話 プロローグ
死ぬ前にせめて女の子のおっぱいに触りたかったと思うのは悪いことなのだろうか?
俺以外誰も見当たらない白い世界で俺は地球で最後に言い残した言葉をあらためて口にしていた。
まさか俺が人生の最後に言い遺した言葉が、
「死ぬ前にせめて女の子のおっぱいに触りたかった」
なんてものになるなんていったい誰が予想できただろう突然訪れた不幸に俺の口から漏れた言葉はとても格好悪い言葉だったが、嘘偽らざる本心でもあった。
俺の名前は南雲大作、どこにでもいる平凡な高校生だ……いや、格好よく気取るのはよそう、もうみんな気づいているとは思うけれど俺は童貞だ。正確にはもう死んでしまっているので童貞だったというのが適切だろう。もっともこれは卒業したという意味じゃない。
じつは学校帰りに好きな女の子に告白しようと一緒に帰ったままはいいが横断歩道を渡ろうとした矢先、暴走したトラックが突っ込んできて……あとは言わずもがなといったと経緯なんだ。
好きな女の子を庇った結果、俺はトラックにひかれて死んでしまった。その結果この白い世界に存在しているのだから、ここは死後の世界というやつなんだろう。
まあいい、好きな女の子を守るために死ねて俺は満足さ。
「お待たせしました、南雲大作さん。立てこんでいたせいで遅れてしまい、申し訳ありません」
不意に俺の前に燐光が集まったと思うと突然神々しいお姉さんが現れた。
もし女神様がいるとすればきっとこんな美しい人のことを指すのだろう。
「まあ、美しいだなんてお世辞がお上手ですね」
なっ!? 俺は思っただけで言葉にしてないはずだぞっ!?
「わたし、本物の女神なので人の心を読むくらい出来て当たり前のことなんですよ」
「ほ、本物の女神様っ!? だったらここは死後の世界っていうことですかっ!?」
「ええ、その通りですよ。日本人は理解が早くて助かりますね」
どういう意味かわからないけど、褒められているからよしとしておこう。
「では早速ですが、今後についての話を――」
「女神様、その前にひとつ教えてください。俺が庇った女の子――北澤佳乃ちゃんはあのあとどうなったんでしょうか?」
「あなたが庇ってくれたお陰で掠り傷で済みました。いまは病院で検査入院中ですよ」
「そうですか、佳乃ちゃんが無事なら俺は満足です」
「それはよかったですね。ちなみに佳乃ちゃんはその後病院で検査入院している間に慌てて駆けつけてきた同じ学校の男子生徒と将来結ばれることになります」
「えっ!? それはどういう――」
「リサーチ不足でしたね南雲さん。佳乃ちゃんには最初から彼氏がいましたよ」
「ちっくしょ―――――――っ!? 彼氏いたのかよ佳乃ちゃ――――んっ!?」
俺は死んだことよりそっちのことのほうがショックだった。
「あははは、まあまあ元気出してくださいよ南雲さん。あなたの献身のお陰で一人の尊い女の子の命が救われたんですよ」
「元気なんて出ませんよ、俺まだ青春らしいことを何もしていなかったんですよ。俺の人生はまだまだこれからだったっていうのに」
「まあ、それはそうかもしれませんね。地球で死ぬ前に最後に残した言葉が『せめて死ぬ前に女の子のおっぱいを触りたかった』なんて、親御さんが聞いたら泣きますね」
「放っておいてくれ、あんたに童貞のなにがわかるんだッ!?」
気さくな女神様をついに『あんた』呼ばわりしてしまった俺はそのあと女神様のぼんきゅぼんとしたとても美しいプロポーションが目についた。たとえるならば地球ではお目にかかれなかった世界の宝、いや、宇宙の宝だ。
「め、女神様っ!? じ、じつは俺死ぬ前に――」
「そんな目で見てもわたしのおっぱいには触らせてあげませんよ。その代わり女神アレクシア・ルクルスの名においてあなたにいくつかの選択権を用意してあります」
ケチと思ったのも束の間、予想外の言葉に俺は疑問符を浮かべる。
「選択権?」
「ええ。南雲大作さん、あなたは死んでしまいました。本来であればあなたの魂はこのまま昇天し永遠の無に還るところですが、あなたの死ぬ間際の功徳を考慮しこのまま昇天するかそれとも異世界に転生する選ぶ機会を与えます」
「い、異世界転生ですかっ!?」
突拍子もない提案だが、志半ばで散った俺はわくわくしてしまっていた。異世界でなら、地球での俺の無念を晴らせるかもしれないからだ。
「転生するとどうなるんですかっ!? なにか俺に使命とかはっ!?」
「当然あります。あなたが異世界転生した場合、わたしの使徒として世界を滅ぼそうとする邪神の眷族と戦ってもらうことになります」
「邪神の眷族なんてものと戦うのか。なら、このまま昇天で」
「ええーっ!? どうして異世界に転生しようとは思わないんですかっ!? 異世界に転生して世界を救おうっていう気概はないんですかっ!? 大作さんは女の子を救うくらい優しい心の持ち主じゃないですかっ!?」
「その……平和な日本育ちなので戦いというのはちょっと……」
「女の子を救う気概を見せたんですから、もう少し頑張ってみましょうよ。もし南雲さんが世界を救ってくださるというのであれば、わたしも女神としてできることならなんでもしますから」
「な、なんでもですかっ!?」
このとき俺の脳裏にはとてつもなく不謹慎なことが浮かんでしまっていた。普段なら絶対に浮かばなかっただろうが、前世に思い残したあのことをいまだに引きずっていたのだ。
「ええ、なんでもです」
そんな女神さまの一言が俺を後押した結果、俺は何度考えても異常としか思えない願い事を口にしてしまう。
「じゃ、じゃあ、も、もし俺が邪神を倒すことができたら、お、おっぱいを触らせてくださいっ!?」
「そ、そんなことできるわけないじゃないですかっ!?」
当然抗議するアレクシア様、でも一度死んだことで完全に自棄になっていた俺はここで引き下がらなかった。
「やっぱりそうですよね。なんでもするとか言っても、女神様だって嘘はつきますよね」
「あまり神を侮らないでもらえますか。神界のルールで、わたしはこの場で嘘を吐いてはいけないことになっているんです」
「えっ!? だ、だったら、い、いいってことですかっ!?」
「そんなに目を輝かせてないでください。ま、まあ約束してしまいましたし、あなたが邪神を倒してくれるならそれでいいですよ」
「任せてください、必ず邪神を倒してみせますっ!」
この女神マジ女神様だ!
「な、なんでそんな力強い返事をするんですかっ!? ま、まあできるかどうかわからないことの話はおいておくとして、異世界に転生するということでよろしいですか?」
「はい、それでお願いします」
「それでは転生ボーナスとしてあなたの適性に合った祝福を授けますね。目を閉じて心に大事なものを思い浮かばせてください」
「大事なものですか」
俺は目を瞑って自分の大事なものを思い浮かべる。
なんの親孝行もできずに突然死んでしまった親不孝者の俺。そんな俺育ててくれた両親や一緒に過ごしてきた妹、幼馴染の親友、学校の恩師、色んな人の影がちらついては消えていき、残ったものは――
「南雲さん、真面目にやっていますか?」
気づくとアレクシア様がジト目でこちらを見ていた。
「お、俺は真面目にやっていますよっ!? し、真剣に大事なものを思い浮かべていますっ!?」
「ですが同情を誘うようなモノローグに反して、あなたの心に浮かぶ大事なものは――おっぱいしかないんですが」
「だ、だって、俺はまだ童貞のまま死んじゃったんですよっ!? 男にとってこれ以上大事なことがありますかっ!?」
地球ではついぞ出たことのない俺の魂からの叫びだった。
アレクシア様の脳内診断能力で、俺の頭の中に大事なものがおっぱいしか残っていなかったとしてもしかたがないじゃないか。
もし反論できる男子がいたら教えてほしい『死ぬ前にせめて女の子のおっぱいに触りたかったと思うのは悪いことだろうか』。
「う、うそっ!? 南雲さんのイメージに、わたしの神威が反応してしまっているっ!? わたしの神威は本当に心の底から願うものにしか反応しないはずなのにっ!?」
突如としてアレクシア様の体で発光現象が起こり、生み出された大量の光が俺の体の中に吸い込まれていった。
「な、なにが起こったんですかっ!?」
「たったいまあなたの大事なイメージに基づいて女神アレクシスの祝福を授け終えてしまいました。あなたに与えられた祝福は煩悩魔法です」
「ぼ、煩悩魔法っ!?」
ぱっと聞いた限りでは冴えない祝福に俺は嫌そうな顔をする。
「なんですかそれっ!? すごい弱そうなんですがっ!? なんでも天才にこなせる勇者とか強靭な肉体を持つ聖騎士とか知性では比類なしの賢者とか神魔法を使える神子とか、もっとこうすごい祝福があってもよさそうじゃないですかっ!?」
俺の生涯初の逆ギレ相手は女神様だった。
「あなたの大事なものがエッチしかなかったからこんなことになったんですよっ!? わたしだってこんなことは初めてなのでどうしようもないんですよっ!?」
「なっ!? 俺の身体が透けてきたっ!?」
「おほん、どうやらもう転生する時がきてしまったようですね。南雲さん、時間がないようなので簡単に説明しますね。神々のルールであなたが前世の記憶を取り戻すのは一五歳になってからになります。それと煩悩魔法についてはわたしも詳しく知りません。ですので使い方についてはご自分でなんとかしてください」
「『なんとかしてください』って、なんとかなる問題なんですかこれっ!?」
「一応わたしの祝福を授けることができたのであなたはわたしの使徒ということになります。ですから頑張りさえすれば、たぶん、使徒に相応しい立派な力を発揮できますから気落ちしないで頑張ってください、たぶん」
「ま、待ってくださいアレクシア様っ!? いま一応って言いましたよねっ!? それにたぶんって二回もっ!?」
「では、頑張って強くなって邪神の眷属を倒してくださいね。覚醒した後は七種族学院に進学するようにしてください、そうしないと世界が滅んでしまいますから。あなたの次の人生に幸運が多からんことを」
なっ!? せ、世界が滅ぶっ!?
「ちょ、ちょっと待ってください! ま、まだ話の途中――」
こうしておっぱいに釣られた俺は異世界で新しい人生を得ることになった。
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