一生分の恋を

Sarah.Y

プロローグ

「ああ~、何かいいことないかな。」

これが最近の綾の口癖になっていた。


桜の咲こうとしている3月。

綾は1人っきりでまだ咲ききらない桜並木を歩いていた。

頬に時々当たる北風がまだ冷たい。「きゃ~」と小さくつぶやきながら

ふんふんふ~ん、ふんふんふ~ん・・・

ふんふんふ~ん、ふんふんふ~ん・・・

奮い立たせるように鼻歌を歌った。

綾は悲しいことがあると鼻歌を歌って自分を誤魔化すようにしていた。

そうじゃないと涙がこぼれるから・・・。


数分前・・・


「綾?今日行けなくなったよ。ごめん。埋め合わせはきっとするから。」

遠距離恋愛からの彼の電話だった。

“そんな・・・会うのも一ヶ月ぶりなのに、どうして今日キャンセルなの?”

“会いたいよ、今すぐ来てよ”

そんな言葉を飲み込みながら、「うん・・・お仕事忙しいんだね。仕方ないよね」

綾は無理に明るく答えた。そんな娘だった。

「ガサガサ ガサガサ」

 そうだ、さっき買ったばかりのビーフシチューの材料どうしよう・・・。

袋に入ったじゃがいもやにんじんが無性に重たく感じた。

ふんふんふ~ん、ふんふんふ~ん・・・




**********************************************


綾と圭吾が出会ったのは、今から3年前。

同じアパレルメーカーで綾は事務、圭吾は営業、いわゆる社内恋愛だった。

圭吾が本社に転勤になってもう半年が過ぎようとしている。

“最近冷たくなったな・・・”メールも電話も少なくなった。

そう思いつつ毎日を「つまらなく」過ごしていた。

そんな時、彼に出会ったのだ。

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