葉っぱの裏側

くもまつあめ

葉っぱの裏側

 今日も憂鬱な気持ちで家を出る。

一人暮らしを始めて数か月。


慌ててるんだか、まだ起きていない頭のままなのか、歩いてるんだか走っているんだかわからない状態で家のそばの町内会の掲示板をボーっと目で追う。


・・・お祭りの案内、空き巣多発の注意喚起、ボーイスカウト募集、色とりどり広告とチラシを視界に入れながら昨日の自分をふり返る。


失敗できない仕事がある時に限って、眠れなくなって結局は寝坊して慌てて家を出る自分に嫌気が差す。


(あぁ、また先輩に怒られるな・・・。)


考えれば考えるほど、気持ちが重たくなっていくのに、足を動かして会社に向かわなければいけない。

身体と心の反比例にクラクラする。


クラクラするのは心だけではなく、引っ張られるような感覚にふと足元に目をやると、左足の革靴の紐がほどけて右足がその靴紐を踏んずけてしまっていた。

(またかよ・・・)


急いでる時に限って、こういうことが起こる。

ほどけた靴紐に更にイライラしながら道路の端に寄って靴紐を結び直そうとしゃがみ込む。


(早くしないと電車に遅れちまう・・・)

手早く靴紐を直し、ふと目道路の隅に目をやると、雑草が生えている。

その中の一本が不自然にがゆらゆらと揺れている。

いつもなら気にしないのに、なんとなく気になってそっと雑草の葉をめくってみる。


なんのことはない、ダンゴムシが驚いた様子で右往左往しながら逃げまどっていた。

(何だよ、ただのムシかよ・・・)

自分でめくっておいてガッカリしながら、ため息をつく。

何だかなおさらイライラが募り、ダンゴムシを指で思い切り弾く。

ダンゴムシは驚いたまま、成すすべもなく丸くなり転がる。

コロコロと生きてるのか死んでるのか分からないムシが転がる様子を見つめて、フッと鼻で笑う。


遅刻しそうなことに気が付き、慌てて立ち上がり改めて会社に向かう。

(先輩、またネチネチ言ってくるんだろうなぁ)

なんとか電車には間に合いそうだ。



 今日は散々だった。

帰るなり玄関で倒れ込むようにしゃがみ込む。

朝あんなに簡単にほどけた靴紐が、今はガッチリと締め付けられてほどけやしない。

イライラしながら靴を脱ぎ、玄関に放り投げる。


結局、今日は出社したものの、電車が遅れて遅刻し、先輩に叱られ嫌味を言われ、肝心な仕事もなんだかんだうまくできなかった。

職場のみんなに迷惑をかけるし、クスクス笑う同僚の視線に恥ずかしいやら頭にくるやらで散々だった。


(あーオレだけが悪いのかよ!)


着替えもせずそのままにふてくされてベットに倒れ込み、そのまま頭から布団を被る。


・・・・・。


どれくらい時間が経っただろう。

眠ってしまったようだ。

布団から少し顔を出してみると部屋の中は真っ暗で、どうやらもう夜らしい。


ぼーっとする頭でうつらうつらしていると、突然布団をガバっとはぎ取られる。

何事かと思って目を見開くと、目の前に全身黒づくめの男が立ちはだかりこちらをにらみつけていた。


うわぁぁぁぁ!!

今まで生きてきた中で出したことのないような悲鳴が喉から出た。

訳も分からずベットから飛び起き、部屋の中を逃げまどう。


「チッ。なんだよ、男かよ。」

男は刃物のようなものをちらつかせながら、イライラした様子で自分に向かってくる。


右往左往しながら逃げまどっていると、男が思い切り両腕を上げ自分に向かって振り下ろしてくる。


何か鋭いものが体に当たる感覚とその衝撃で弾き飛ばされ、ゴロゴロと転がる。


生きてるか死んでるかわからない自分を見て、

男が「フッ」と鼻で笑って次の場所に向かうため、闇に消える。




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