第18話 運命

風で水飛沫みずしぶきが舞い上がる。

私の身体は宙へ浮くと、そのまま水で造られた卵型のブランコに乗せられた。

昼過ぎまでは少しばかり泳ぎの得意な普通の女子高生だった…平穏なプールを漂うありきたりな独りの少女に過ぎなかったのに。

この全ての要因を…運命の引き金となった紅玉るびーの元へ向かう。



彼方に灯るは漁火。

まるで霜の降りる夕暮れ刻に見た野焼きの火のようで…美しく懐かしい。

心を癒す遠景の灯火に揺れる私の水風船…頼りなく感じていた独りきりの海。

未知なる人魚への転身を遂げ、不安に怯えた海の底も今となっては過ぎたる現実。

月夜に舞い降りて来たのは独りの天使…の出で立ちをした会社員。いや、彼が現れなければ今も海辺の何処かで彷徨っていただろう。


『どうか…あの紅玉るびーへと導いて欲しい。せめて私の能力ちからが本物なら…。』


天使かれが居てくれてよかった。

風がさやかに私達の間を縫っていく…満月に導かれるような不思議な違和感。彼は然も当たり前に空を飛び、大きな白金色の翼をはためかせては此方の様子を伺っている。


「ねえ…。」

恐らく私の居たプールについて何か聞きたいのだろう…私は当時の状況を彼に説明しようと試みた。


「どうした?…何か異変でもあったか。」

風圧を気に掛けてけれたのか…ゆっくりと旋回し私の方へ身体を向けた。髪や服の先端がふわりと浮き上がる。


「ううん。さっき言ってたことなんだけど…私の居たプールおかしくなってた?…紅玉るびーに指先が触れる所で渦に巻き込まれたの。私が泳いでたのは昼過ぎだったのに…ほんの数分で夜の海に飛ばされてた。」


天使かれは眼を見開いた。

何かにハッとした途端、口を僅かに動かす。

ザッ…と風に包まれ辺りの音は掻き消される。


「………。」

一際強い海風が吹き渡る。

言葉を躊躇う天使の姿をじっと目で追いながら、私も口を開こうとした。


ところが

「…正確に言おう…」

彼が遮るように言葉を紡いだ。


「昼下がりのプールに居た時間帯だけじゃなく…君の生きている時代がズレてる。」


「…えっ……それって…どういうこと。」

聞き慣れない言葉に頭をひねりつつ、酷く理解に苦しんだ。

有り得ない。

それが真実なら私は………


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