第6話 バッド・スマート&エレガント(バスト的な意味で)

 春奈が上級生に絡まれているところを、スマート&エレガントに救出しようとした俺だったが、


・テンパって、会話を噛みまくる。

・上級生に右腕の関節をとられて、痛くて泣きそうになる。

・上級生に胸ぐら掴まれて、殴られそうになり、超ビビる。


 なんともバッドエレガントで、すげえカッコ悪い俺しかなかった。で、俺らのピンチを救ってくれたのは担任(本運びの罰を俺に課した憎き敵)だった。今はもう廊下にはいない。仕事があるとかで、職員室に戻っていった。


 情けねえな、俺……。先生がこなきゃ……、上級生にボコられていたかもしれない。そう思うと身震いする。 


「はあ~……」


 そう上手くいかないな……、なんとも、やるせない気分だ。俺は、春奈を助けてあげれなかった……。春奈に……、申し訳ない。


「爽太ぁ?」

「いいっ!?」


 し、しまった!? まだ廊下には春奈がいたんだった!? たそがれている場合ではなかった。


「お、おう……! な、なんだ?」


 そばにいた春奈に声をかけると、心配げな表情をしていた。


「ため息……、大丈夫? 気分とか悪い?」

「あっ、いや、大丈夫……」

「そう……、じゃあ、ケガして痛い?」

「いや、それも、大丈夫……」


 それよりも、ハートがすごく傷ついたかな……。男としてのプライドがさ……、って、そんなこと恥ずかしくて言えんけどねっ……!! 


「そっか……なら、良いんだけど……、でも」

「ん? どした?」

「右肘……、痛かったよね?」


 ぴとっ。


 っと、不意打ちだった。


 春奈の白くて綺麗な手のひらが、俺の右肘ににそっと触れていた。


 なっ……!?!? いや、ちょっと!? 


 春奈の細身の指先から、人肌の体温がじんわり伝わる。それに、どこか柔らかくて、なめらかな指先の感触に、俺の右腕が、ぞわぞわっと、むず痒い感覚に包まれる。てか、頭のてっぺんまで、む、むず痒い!!


「あわわっ……!?」

「えっ!? そ、爽太どうしたの?」

「あ、いや、あの……!?」

「あっ! も、もしかして、肘さわって痛かった!? ご、ごめん! 大丈夫っ!?」


 春奈が、俺のそばに近づく。おいおい!? ち、近いって!? 


 俺の鼻が、シャンプーのような甘い香りを敏感に嗅ぎ取る。や、やばい! 顔がにやけてしまう!! 気をしっかり持て!! 


 と、鼓舞するが、俺の視界があるものを捉えてしまった。


 鼓動が慌ただしくなる。


 お、おいおい、俺の右肘のそばに……、バ、バストが!! は、春奈のカッターシャツをイタズラに押し上げている、小悪魔なバストが、ちょ、超近いんですけど!?!?


 非常にまずい。これは、あれですよ、俺がチョンと、右肘をずらしたら、ポインっと、弾かれるワンタッチなスキンシップが出来てしまう……!!


(急な妄想のカットイン発生)

『ポインっと』

『やん♡、もう~、爽太のえっち♡』


 春奈……、もしかして、望んでいるっ?? …………、やるしかねえ。


「そんなわけあるか!?!?」


 俺のアホ!! バカバカ!!


「ひゃっ!? な、なに!? どうしたの爽太!?!?」

「あっ!? いやいや!?!? えっと、な、何でもないです!! み、右肘、痛くも何ともないから!! ほんと、右肘なんともないから!!」


 は、早く春奈から離れよう!! 


「は、春奈!」

「は、はい!」

「俺、もう行くわっ! この本の束、運ばないといけないしさ……!」


 俺は自分の責務を果たす!! そしてクールに去るぜ……!!


「じゃ、じゃあな……!」


 俺は春奈から離れ、廊下を進んでいく。


 ふぅ~……、危なかった。だが、もうこれで、春奈のことで(バストのことで)悩まずに済む、


「そ~うたぁ」

「いいっ!?」


 な、何で春奈がまだそばにいる!?!?


「は、春奈!? まだなんか用か!?」

「んん? ん~、えっとねっ」


 春奈はそう言いながら、


「爽太の持ってる本の束」

「お、おう?」

「それって、備品庫に運ぶもの?」

「えっ? あ、ああ。そうだけど?」

「そっか~! うんうん」

「な、なんだよ、嬉しそうに?」

「ううん。えっと……、私も備品庫に用事があるの」

「えっ? そうなの?」

「うん。だから、一緒にいこっ」


 春奈が楽しそうに笑って、俺の隣に近づく。


 お、おいおい、ち、近いってだから! な、なんで、そんなに近づく必要があんだよ。俺の右肘がワンタッチしたくてうずくだろうが!! は、春奈のバストが、気になって仕方ない!! だって、ポイン、ポイン、って、さっきから、小さな上下運動が素晴らしくて……、うへへへっ……、って、待て待て!! な、なんでそんなに動いている!? おかしいだろ!?

 

 俺は隣にいる春奈全体に目を向けた。


「なっ!? は、春奈!?」


 俺は驚愕した。だってさ、春奈の奴、俺の隣で、小さくスキップしているんだぜ!? しかもなんか嬉しそうだし!? なんか楽し気な感じだし!? 一体どういうことだってばよ!?!?


「ん? なぁに? 爽太ぁ?」

「あっ、いや!? その……」


 廊下で、スキップは止めなさい、と言うべきか。いやでも、それを言ったら俺は春奈に、怪しまれるのでは……!?


(急な妄想のカットイン発生)

『スキップはおやめなさい』

『はあ? うわ……、爽太の、えっち……』


「爽太ぁ?」

「わわっ!? あ~、ごほん、ごほん……!」


 春奈が不思議そうに小首をかしげる。さらりと、黒髪が優しく揺れ、丸くてキレイな瞳が、俺の続きの言葉を待っていた。

 俺は……、なんとか喉から、声を振り絞った。


「こ、こけたりすんなよ……」


 それを聞いた春奈は、


「ぷふふっ、急になぁに? 変なの~、爽太ぁ」


 へ、変なのは、春奈のほうだろ……!


 春奈は何も気にせず、小さなスキップ(無自覚)をしながら俺の隣についてくる。俺は、そんな変な春奈の様子(主にバスト)を、横目で、チラチラ、見てました……。もうこれは仕方ないよね!? は、春奈が悪い!! そ、それに、これくらいのご、ご褒美があってもいいでしょ!? 俺、カッコ悪かったけど、頑張ったし!!


 と、内心あたふたしながら、俺らは備品庫に向かった。

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