6:想定以上の効果
雛子先輩の家で俺、先輩、馨の三人でこれからのことを話すことになった。
場所はこの家のリビング。五十畳は優にあるだろうか、ここだけで俺の家よりも広いだろう。
フワフワのソファに腰を沈め、少々重苦しい雰囲気の中、コの字で向き合いながら雛子先輩が口を開く。
「エルフ化の実験は成功したみたいだけど、いつになったら元に戻れるかは正直わからないの。ただ、ずっとこの状態でいることはないはずだから、そこは安心してもらっていいわよ」
「はず…なんですね」
「そこは…たぶん、大丈夫なんだけど。ううん、大丈夫、大丈夫…よ」
自分で納得するように言葉を絞り出す先輩はいつもの自信満々の感じではない。
こういう様子の先輩を初めて見る。
「と、とにかく全ての責任は私が取るから。当面の住まいや必要な服なんかは全部手配するし、お金も全部私が払うから暮らしに関しては一切迷惑を掛けないようにするわ」
「それはそれですが」
「うん、わかってる。仮に、仮によ…私が考えている以上に薬の効果が続いたら進学も就職も全部責任を取るし、二人がもし結婚しても大丈夫なようにするわ。ぜ、絶対に迷惑はかけないから」
明らかに動揺しているし、言葉も選びながら話している感じがありありとしている。
恐らくは俺も馨も想定以上に薬の効果があるんだろうな。
「それでね、こんな時間で悪いけど、二人を連れて行きたいところがあるの。その…服だけは何とかしないとまずいでしょ」
それはそうだ。俺は股間のサイズがおかしくてズボンに上手く入らないし、馨はブラウスもスカートもパンパンだ。下着は食い込むどころかはち切れているだろう。
連れて行かれたのは閉店時間を過ぎたデパート。
先輩はお得意様なのか、従業員出入口にこの店の責任者とおぼしき人が待っていた。
先輩と馨、俺とこの責任者の男性に別れて洋服売り場で買い物をする。俺の場合パンツとズボンが困るので、そこを重点的に探す。
結局、パンツはボクサー型を諦めトランクス型のものにし、既成の一番大きな物を買った。紐で腰の辺りを縛れば平常時にギリギリはみ出さないはずだ。問題はズボンで、制服にも使えるグレーの無地のものと普段着に使うためのベージュと黒のものを各一本、オーダーメイドした。既製品だと尻尾が当たって痛いのだ。
採寸を考えて、尻尾の部分を隠せるようサラシを巻いてきたが、正直動きにくいから、腰から下の部分(もちろん大事な部分もだ)を大きく直して欲しいと要望を伝える。
凄いことに明日の夕方には全て仕上がっているという。先輩の実家は詳しく知らないがこの辺りの名士だと聞いたことがあるので、デパートにも顔が利くのだろう。
途中でトイレに行きたくなったが、普通のサイズではないのでズボンからチャックを下げたくらいでは出すことができない。いちいち個室にある便器の所で座って用を足さなければならないから正直面倒だ。それだって、先端を便器の中に入れるのは結構難儀だ。
妙に大きいからで、両手を使って何とか床を汚さないようにする。これからずっとこうかと思うと憂鬱だ。
太くて長い方が良いと言っていた連中はこういう目に遭うことを考えたことはないだろう。そもそも貧血になってそういうことが一切できないなんて冗談の世界でしかないはずだ。リアルになったら本当にシャレにならない。
学校帰りのまま先輩の家に泊まることになったので、その他に肌着のシャツや羽織る物を何枚か手に入れた。先輩から一切合切の費用は払うと言われているので、取り敢えず服の問題で困ることはなさそうだ。
それにしても誰もいないデパートで買い物をするというのは落ち着かない。
普段見慣れない風景だから犯罪者のように何かいけないことをしている様に感じてしまう。アラブの大富豪にでもなればこんな感情は湧かないのだろうか。
そんなことだから、上半身に身に付ける物はほぼ全て責任者氏に選んで貰った。
今日は自分の意思で何かをすることがほぼ無い。
この身体だとこれからもずっと籠の鳥になるのだろうか。
普段の自分では絶対に手が届かない高価な服を手にしながら、自由とか束縛とかそんなことを考えていた。
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