エルフ化した俺と彼女は「普通が一番」だと悟った
睡蓮
1:超常科学研究クラブ
午後の授業が終わり、特に何事もないホームルームの後、俺、
俺の通う学校「私立
「超常科学研究クラブ」はその中でも極めつけに変なクラブで、ファンタジーを科学的発想で現実に再現することを目的に活動している。部長である
現在、このクラブの部員は上記の三名で、二年生になる雛子先輩が色々な実験をしている傍らで俺と馨は毎日その助手をするか、ファンタジー小説を読んで時間を過ごしていた。
何故こんな部活に入ったのか。理由は簡単で同じ中学出身で、その頃から付き合っていた俺と馨が部活の勧誘期に一緒に見学したら雛子先輩に入部してくれと懇願されたからだ。
雛子先輩は頭脳も素晴らしいが、容姿も天恵としか言いようがない素晴らしいものがある。そんな超絶美女の彼女に目の前で上目遣いをして頼まれれば、大抵の男は断れないだろう。だよね?
結局、馨を道連れにして一緒に入部したはいいものの、怪しげな活動に参加したいというおバカな人は他になく、先輩のルックスに負けた馬鹿者は俺達だけだったというオチが着いたのだが。
「こんにちは~、悠生くん、馨ちゃん待ってたよ。へへ、今日はこれを飲んで欲しいんだ」
入部して二ヶ月、俺達の役割は先輩の助手兼実験台でしかないことを承知している。その結果色々と変なものを飲まされたり、道具を使わせられたりしているのだ。
それにしても普段は名字で呼んでいるのに、今日は名前呼びなんて明らかに様子がおかしい。
「それ、いかにもヤバそうな色をしてますけど」
「雛子先輩、お腹壊しませんよね」
目の前にあるのは青紫色の濁った液体。知る限り市販の飲み物では存在しない色をしている。しかも三角フラスコに入ったままそれを飲めというのだ。怪しすぎる。
「大丈夫だよ。鰹だしに豚骨スープを加えて、そこに薬草とドリンク剤を混ぜたものだから」
「それ、かなりヤバくないですか」
「私の理論だとこれを飲めば身体能力が飛躍的に強化できるんだ。筋肉も頭脳も常人をあっという間に越えられるようになるはずだ」
「雛子先輩、自分で試してみられました」
普段は冷静な馨が多少震える声で訊ねれば、
「私はそれを使わなくても充分な能力があるからね。裏返せばそれを使えば誰でも私みたいになれると言うことだよ」
それをあまりドヤ顔で言って欲しくない。本当は自分で実験してから俺達に使えよと言いたいところだが……
「ねえ、鬼城院君、ダ、メ、か、な」
半分涙目になって上目遣いをして頼まれると弱いんだよな。
「お、ね、が、い」
両手を前で合わせ、大きな双球を上腕で挟むようにしながら、ブルブル揺らされるのはいつものパターンで、
「仕方ないですね」
そうやって堕とされるのもお決まりのことになってしまう。
「能条さんも、ね」
俺と付き合いの長い彼女は今でも人見知りで友人が少ない。こういう場面で断る勇気はどこにも持ち合わせていない。
「は、い」
自分を納得させるように頷いて、俺達はその液体を飲み込んだ。
味を例えるなら濃厚なラーメンのスープだ。中太麺が中にあれば一気に啜っているだろう。
そして身体が熱いとかお腹の調子を崩すとかそんなことは一切なく、普通に帰宅時間を迎えた。
「どう、どう」と先輩は数分おきに聞いてくるが、別に何の変化も感じない。
普段と同じに本を読み、お茶を飲みながらその時間は過ぎていった。
「ふむふむ、今は遺伝子に情報を書き込んでいるという所か」
しれっと恐ろしい言葉を聞いた気がするが、この手のことで驚いていたらここにはいられない。
「まあ、あと十二時間もあれば……」
あれから家に帰っても何の変化も感じなかった。
普通に夕食を摂り、風呂に入り、明日の予習をしてそのまま寝てしまった。
勉強の理解がいつもより少し良くなっていたか、とは思ったのだが──。
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