第21話 元アイドルたちによる水着選び

 部室から出た風花は、へと向かっていた。学校から1番近くて大きなショッピングセンターである。

 明らかに赤い頬を誤魔化すために、小走りで歩く。

 ショッピングセンターのとある入り口に、もう他のメンバーは集まっていた。アイナと小夏とショートカットの美少女――湊だ。

 みんなちょうど学校帰りなのか、制服姿。それでもその美貌のせいか、浮いている。


「おっ、風ちゃん。久しぶり!……ってなんか顔赤くない?」

「走ってきたから」

「あっ、そっか。いやぁ、久しぶりに4人揃ったねぇ」

「確かに久しぶりね。前は4月とかだったかしら」

「……実際プールに行くのはもっと先なのに早すぎです」

「だってこの日しかなかったんだもん。プール前に4人で遊べるの。みんな忙しいしさ」


 4人でぞろぞろ連れ立って歩き、水着コーナーの前に立った。色々なタイプの水着が所狭しと並んでいる。


「やっぱりここ大きいだけあって品数すごいわねね」

「可愛いし、迷う……」


 アイナと風花はそれぞれき興味深そうに見回している。その様子を後ろから見ていた小夏は、いたずらっぽい顔で爆弾を落とした。


「そーいえばさ、あたしはるっちにプールのチケットあげたんだよね。余ってたやつ」

「は!? ちょっとじゃあそれって……」

「あのチケット、期間が3日間しかないのね。つまりはるっちが来るとしたら、3分の1の確率ではるっちにプールで会うってことじゃない? 今回は気合い入れて選ばなきゃねぇ」

「……春野くん?」

「そうだよ〜。この前ナンパから助けてもらってさ、そのときにお礼としてあげたの。今から考えたらあの時の自分、よくやったわ」


 アイナはその話を聞き、もう一度水着を見た。

 もしかしたら彼に、見られるかもしれない。自分の水着姿を。風花も半分挙動不審になって水着を手に取る。

 そんな"はるっち"や、"春野くん"といった謎の男子の話題で盛り上がっている様子を、湊は仲間外れにされたような思いで眺めていた。面白くない。

 

「誰ですかそれ」

「あたしのバイト仲間で、アイナのお隣さんで、風ちゃんの友達」

「かっこいいんですかその人」

「うん。かっこいいよ」

「ふぅん」


 かっこいいと言われればどうしようもない。その男子の存在を知らない以上、湊はただ自分の好きな水着を選ぶしかない。

 柊一が来ると分かった彼女たちは真剣だ。落としたいとか言うよりも、ただとりあえず可愛い水着にしたい。


「どういうのがいいかな」

「やっぱビキニでしょ。あたしはこれとか?」

「それはちょっと派手じゃないですか?」

「そうかなぁ」


 小夏が手に取ったのは、ピンクの水着だ。色が少し濃くて、プールに行けば目立つかもしれない。


「やっぱ男子はもうちょっと大人しめなのが好きかなぁ」

「これは……?」

「それは地味すぎじゃない?」


 風花の手にあるのはグレーと白のしましま。あと露出している面積も小さいし、微妙にダサい。


「難しいもんだね。アイナは?」

「へ!? 私? 私はこれ……」


 アイナが手にしているのは、ワンピース型のものだった。

 可愛らしい感じの水着で、アイナの雰囲気には合うだろうけど……


「アイナいつも、水着ビキニじゃなかったっけ?」

「こ、今回はこれがいいの!」

「恥ずかしいから?」

「恥ずかしいからっていうか……」


 言葉を濁したアイナの視線は、小夏の胸への注がれていた。その様子を見て、湊があぁ、と声をあげる。


「おっぱいの大きさの問題か……」

「ちょっと湊、声に出さないの! てかあんたそれ……」


 アイナは湊の手に収まっているものを見て絶句した。小夏は静かに彼女の肩に手を置き、語りかける。


「みなちゅ、マイクロビキニはダメだよ。ねっ、まだ中学生なんだから」

「でもこれが1番好きっていうか……」

「いい? 見えればいいってものじゃないのよ。見えない方がいいことも……って何語ってんだろあたし」


 小夏が頭を抱える。

 湊は不本意そうな顔をして、マイクロビキニを元の棚に戻した。

 

「じゃあどれが1番エロいと思いますか?」

「なんで基準がそれなわけ!?」

「参考資料にしたいのと、あと興味です!」

「興味!? いや、分かってたけど……分かってたけど……」

「個人的には露出の多いやつとか、いやでも一周回って競泳水着とかスクール水着とか。そういうのってたまにそういうビデオで見かけますもんね」

「ちょ、ちょっとストップ! ストップ!」


 アイナはうぶである。だからあまりこういう話には慣れていない。昔から湊の頭の半分はエロで埋まっているだろうということは悟っていたものの、久しぶりに突きつけられてアイナの頭はショートした。


「分からないけど、もう普通に選んだ方がいいんじゃない」

「そ、そうね風ちゃん。風ちゃんが1番正しいと思うよあたしは」

「男ウケがいいのは……白の普通のビキニらしいし」

「……検索するの早いね風ちゃん」


 風花はさっきのやり取りの間にスマホで既に調べていた。柊一を落とすために、常にインターネットを駆使してきた風花である。こんなときもその手法は変わらない。


 振り出しに戻った4人は、再び水着を前にした。


「やっぱりシンプルなやつにしよう、あたしは」

「バストをできるだけカバーしたいけど……ってなったらやっぱりワンピース……」

「大丈夫。1年くらい豆乳飲めば大きくなるよ」

「もう1年以上毎日飲んでんの! てか小夏ちゃんなにもしてないくせになんでそんな大きいのよ!」

「1年以上飲んでるんですね……」

「いや一応あるわよ!? Aはあるから……」

「そうよ。あることが重要なんだから」

「水色とかがいいかなぁ」

「カオスですね。やっぱ1番エロいのは黒かな」

「みなちゅ一旦そこから離れようか」


 同じグループで踊っていたとは思えないほど、話がまとまらない。

 結局それぞれの水着が決まるまで、1時間近くはかかったのだった。

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