第17話 カフェの中で②
わりと衝撃的な告白をされてからしばらく、俺は半分放心状態でオムライスを食べていた。そりゃそうだ。自分の中で最近1番の推しだったVTuberの中身が、今目の前にいるのだから。
あっ、ダメだ。頭の中で再確認したらなんか緊張してきた。
「えっ……ガチで?」
「ん、ラグがすごいな。ほんとだよ? 今ここではできないけど、配信のときの声出すこともできる」
「たしかに声似てるなぁとは思ってたんだよ……でもまさか本人が来るとは」
「えーだって、自分のコラボカフェだもん。プライベートでも行きたいじゃん?」
「でも身バレの危険とかあるじゃないですか……!」
「だいじょーぶだって! 身バレには最大限気をつけてるから、今までバレたことないよ〜」
のんきに笑う音海。
この雰囲気……よく考えたら配信のときのキャラに似ていない、こともない。中の人がギャルだとは思わなかったけど、性格的には想像通りかも。
それにさっきの声。
囁いたときの声は糸宮ぼたんにそっくりだった。
「最大限気をつけてる人の行動とは思えないんですけど。家とか凸されたらどうするんですか……」
「まぁこーゆーとこだったらさ、ファンだから声真似頑張ってるんですとかで乗り切れそうだし。配信のときなんかは個人情報絶対出さないようにしてるし、大丈夫かなって。それにあたしはプロだから!」
「そうですけど……」
音海はプロで、俺はただの素人だ。
たしかに配信とかに関する知識とかも違うだろうし、俺が言えたことじゃないかも。
「そういえば、糸宮ぼたんへの話が聞きたいって言ったのはだからだったんですか?」
「うん。そうだよ。自分のファンだって言ってくれることほど嬉しいことってないもん」
「そうなんですか……?」
「そうだよー! アイドルのときもそうだったけど、自分のファンの笑顔とかがもう原動力だし。ね、アイナ」
「へ!? う、うん。そうね。私が今アイドル目指してるのも、ステージから見るファンの人たちの笑顔が嬉しいからだし……あと、グループにいたときのファンの人たちにもう1回ちゃんとアイドルやってる姿を見せたくて」
綾瀬が慌てて真剣な顔をして頷く。
だけどどうやら綾瀬は頼んだカルボナーラに夢中になっていたようで、口の横にはクリームがついていた。
「あーもークリームつけて。ほら顔こっち向けて。拭いたげる」
「え、ほんと? ありがとう」
やはり音海はグループの中でお姉さん的な役割を果たしていたらしい。
テーブルに備え付けられていたナフキンで頬を拭う。こうやって正面から見ると、歳の離れた姉妹みたいだ。
俺たちはコラボカフェを堪能して、お腹がこなれてきた頃に店を出た。グッズもしっかり買えたし、料理も美味しかったし大満足だ。家帰ってから開封するのが楽しみで仕方ない。
「そういえばお買い物って何買うつもりだったんですか?」
「いや、別に何を買うってわけじゃないよ。ただブラブラ〜っとするだけ」
「うん。服見たりとか、小物見たりとか」
「それ、俺着いてってもいいやつだったんですか?」
「いいよいいよ! きっとはるっちもいた方が楽しいからね」
「私もそう思う」
綾瀬にまで言われたら、断ることなんてできない。
「わかりました。ありがとうございます」
ふと周囲が騒がしくなった気がして、音の出処に目を向ける。
――げっ、最悪だ。
前の方から歩いてくるのはクラスの陽キャたち。女3人、男3人だ。
その中には俺を『彼氏にしたくない男子ランキング1位』に任命したやつも混ざってる。
「あれ春野くんじゃない?」
「なんでこんなとこ……あっ、かばんについてるキーホルダーってなんかのアニメのやつだよね。そういやコラボカフェやってなかったっけ?」
「あぁそれでか」
くすくすという笑い声でも聞こえてきそうだ。
彼女たちは一見普通の会話っぽく装ってる。だけど、その言葉の裏に俺への侮辱が含まれているのは確か。あと糸宮ぼたんはVTuberでアニメじゃないし。
しかし彼女たちはもう一度俺の方に目を向けて、
「えっ、待ってあんな可愛い子誰? まさか一緒に歩いてるの? えっ、芸能人?」
「しかも2人いるんだけど」
「ちょっと待て。
集団の真ん中にいた男が声をあげる。
あいつはたしか同じクラスの石原だ。そこそこ女子人気があって、世渡り上手っていうのが俺の印象。俺を除いたクラス全員とそれなりに仲が良い。
「『ラブアート』の綾瀬アイナと音海小夏じゃね!? なんであいつと一緒にいんの!?」
隣を見れば、2人はしてやったり、という顔で笑っていた。
――てかちょっと待て。
2人ってもしかして、ちょっとした有名人……?
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