『彼氏にしたくない男子ランキング1位』の俺、なぜか元アイドルの美少女たちに懐かれる
時雨
出会い編
第1話 彼氏にしたくない男子ランキング1位
6月中旬。
クラスにもだんだん一体感が出てきた頃。
俺――
「そーいえば昨日集計したやつどうだった?」
「あっ、あれねぇ」
「そうそう、あれあれ」
とりあえず寝るか。勉強したい気分じゃないし。
頭を伏せると、隣の席で弁当を食べていた女子たちが急に盛り上がり始めた。たしかこのクラスのカーストトップのやつらだ。
「まず1位はぁ、真宮くんだった」
「あーやっぱそうだよねぇ。クラスでも1番イケメンだし」
「あと優しいし!」
「わかる! コミュ力も高いもんね」
「この前なんかさぁ、あたしが忘れ物したときに……」
特にすることもないので、そのままぼんやり聞き流す。たぶん寝てると思われてるし、大丈夫だろう。
1位ってことは、なにかのランキングについて話してるのか。集計とか言ってたし。
それでイケメン、優しい、となると……『彼氏にしたい男子ランキング』とか?
「だよねだよね。で、もうひとつも発表しちゃう?」
「えーっ、性格悪いよ」
「でも気にならない?」
「なるっちゃなるけど……」
「おねがいっ、教えて?」
あぁ、なんか不穏な感じがしてきた。
そのわりに女子たちは楽しそうだけど。小声になってきたし。
女子の小声ってたいてい良いことないからな。それこそ小声で話すときの話題ランキングなんて作ったら、1位は確実に陰口だろう。2位は恋バナあたりか。でも女子の場合、恋バナがそのまま戦争に発展したりするから、結局ろくなことない。
「あーもう、はい分かりました。てか、あんた結果わかってるくせに」
「まぁ、わかってるけど……」
「じゃあ発表するね。『
自分の名前が出て、びっくりする。
まさかあいつらの口から俺の名前が出るなんて思わなかった。
正直『彼氏にしたくない男子ランキング1位』を取ったことはどうでもいい。クラスの女子全員が投票したらしいのはさすがにショックだけど、別に恋愛とかしたいわけじゃないし。
ただ、カーストトップ組とは本当に関わりがなくて、高校生活の間に名前を呼ばれることなんてないと思ってた。
「まずさぁ、ダサいし」
「わかる。ダサすぎだよね。髪モサモサだし、メガネ似合ってないし」
「それにさぁ、根暗じゃん? 全然会話してないしさぁ。女子と喋ったことないんじゃね? 男子とはたまに話してるみたいだけど」
「付き合うイメージ湧かないよねぇ」
「それな? デートとか行ったらなんも喋んなんくてくそ気まずそう」
「草」
さもおかしそうにゲラゲラ笑う。
普通に悪口じゃん、これ。てか、完全に悪口じゃん。
ため息をつきたい気持ちをこらえる。
俺、高校ではこういうのには絶対に巻き込まれたくなかったんだけど。だから地味なんだし。
元々俺は小学生まで、けっこう活発的なタイプだった。授業とかまっさきに手を挙げるし、運動会では応援団をやったりとか、模範的な優等生だったと思う。
中学に入ってもそれは変わらなかった。
だけど、ひとつ大きく変わったことがある。
"環境"だ。
中学に入ってから、俺の周りの環境は、それはもう大きく変わった。
まず、クラスを牛耳るのは優等生ではなく、不良じみた陽キャたちになった。
で、当時学級委員をやっていた俺は格好の標的になったわけだ。
中一の半ばくらいからじわじわイジメが始まって、卒業する頃には完璧なぼっち。四六時中悪口を囁かれるし、たまに暴力もされるし、地獄のような日々だった。いや、地獄なんて言葉じゃ言い表せない。死んだ方がマシかもしれないって、何度思ったことか。
ただ、地獄にも終わりはくる。
俺は地元の仲間から離れるため、遠い高校に通うことにした。親に頭下げて、一人暮らしまでさせてもらってる。
あぁ、そうだ。
いじめられたときの内容は全部覚えてるけど、1番忘れられないのは、卒業式の日だ。
いじめの主犯格の子分のその3くらいに校舎裏まで呼ばれて、仕方なく彼の元に行った。最後だし、別に殴られようが詰られようが、もうなんでもいいと思って。
「ごめん!」
着いた途端、いきなり頭下げられて超ビビった。
「別に高校違うしもうどうでもいいんだけど……」
「いや、謝りたくて。3年間のこと。その……牛田がさ、お前ののことずっと好きだった田中さんのことが好きでさ。だから、だと思うんだけど……でも、それがその……いじめ、ていい理由にはならないし、本当に悪いことをしたと思ってる」
「あぁ、うん分かった。謝ってくれてどうもありがとう」
言いたいことはたくさんあるけど、もう本当に、全部どうでもいい。
俺は一言だけ返して親の元に戻った。
きっと彼は今頃、勝手に許された気になっているだろう。謝って気持ちよくなったぶん、よっぽど主犯格の牛田よりタチが悪い。
高校の間は、ただただ目立たない生活がしたい。いじめの理由がそのしょうもない嫉妬だとしたら、恋愛だってしたくない。
そう、とにかく俺は、高校で平穏な生活が送りたいんだ。
友達できなくていいし、ただただ目立たない。あぁーあの子いたなーくらいの、そんな生活が送りたい。
だって知らなければ、何も言われることはないから。
……って、思ってたんだけどな。
☆☆☆
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