ホントに言いたい事は…
カナエ
第1話 2人の関係
「顔良し、髪良し、服装良し!うん。大丈夫。」
鏡の前で最高の笑顔を作り、うなづいた。
いつからだろう。
朝の身だしなみを念入りにチェックするようになったのは…
いつのまにか、私は陽介の事が好きになっていた。
でも、それは必然だと思う。
同い年の高校2年生、幼なじみで隣に住む片瀬陽介は、名前の如く、周りを明るく照らす太陽のような人だ。スポーツマンらしく日焼けした肌に屈託のない笑顔が輝いて見える。
温かくて、優しくて。そんな彼を、私は誰よりも信頼している。
小学生の頃は陽介と一緒に真っ黒になって、近所の男の子達と遊び回っていた。カブトムシを捕まえたり、野球をしたり、陽介と一緒にいるのが楽しかった。だから、何をするにも一緒だった。
でも、クラスの男子にブスだとからかわれた時、陽介が、「お前らは萌の気を引きたいだけだろ?可愛い子ほどいじめたくなるもんな!」と言って庇ってくれた事がある。
陽介に可愛いと言ってもらえたからこそ、私は女としての自分に少し自信が持てた。きっとそれは、他の誰かではダメだったと思う。
そうやって一緒に成長しながら、だんだんと男になっていく陽介を、私はいつのまにか意識するようになった。
それからは、いつも1番可愛い自分を見せたくて、朝は洗面所を陣取って、念入りにチェックするのが習慣になった。
いつものように自宅を出ると、チャイムも鳴らさず、隣の家の玄関を開けた。
「エミおばさん、おはよう!」
声をかけると、いつも通りキッチンから
「おはよう!萌ちゃん。頼んだよ!」
と言う元気な声が飛んできた。
「任せといて!」
忙しいエミおばさんに代わり、陽介を起こすのが私の役目なのだ。
家に入り勝手知ったる階段を上がり、奥の部屋のドアを開けた。
「おはよう。陽介!朝だよ、起きて!」
「うーん、あと5分…」
陽介は寝起きが悪く、なかなか起きない。こう言うやりとりを何度繰り返すことか。これが結構しぶとい!
でも、陽介の寝顔を拝めるのも、私だけの特権。ずっとこのまま陽介の顔を見てるだけでも私は良いんだけど…、こうやって見ると、寝顔は小さい頃と変わらず、可愛い。
********
まただ!
ガン見しすぎだよ。萌。
それじゃあ、起きれないじゃないか。
いつからだろう。物心ついた時には、寝起きの悪い俺を、萌が毎日起こしにきてくれた。
以前は、そんなに意識したことなかったけど、いつからか、萌は俺のベットの横で頬杖をついて俺の顔を覗き込むようになった。
気配でわかるよ。あんまりに見つめるから、恥ずかしくて顔を上げられなくなった。
でも、そんな萌の様子を俺は楽しむようになった。
「こんなにまじまじと顔を見ることなかったから、改めてみるとまつ毛長いよね。羨ましい。」「また焼けたよね。」「なんで男のくせに肌キレイなのよ!私の方がかさついてるじゃん。」
萌の独り言を笑いを堪えながら聞いている。
最近急に萌は可愛くなった。もちろん以前から可愛いのは変わらないんだが、女らしくなったと言うべきか。そんな萌に見つめられると心臓の高鳴りを感じるようになって、ますます意識してしまう。でも、そろそろ起きなきゃ、マジで遅刻だ。
********
「陽介!起きて!今日からまた朝練でしょ?」
「あ!!そうだった!」
布団に丸まっていた陽介は、慌ててガバッと起きた。
「萌!なんでもっと早く起こしてくれなかったんだよ。」
「起こしたわよ。陽介が起きないのが悪いんでしょ?」
話すより先に、陽介がパジャマを脱ぎ始めた。
「ちょっと人前で裸にならないでよ。」
私は慌てて目を手で隠した。
「なんだよ。今更だろう。」
そう言って陽介は少し意地悪そうに笑った。
私たちは自転車に相乗りして、学校へと急いだ。
「大通りまでだからな。」
「やばいよー。」
「だって遅れたら先輩達に何言われるか。」
私は立ち漕ぎする陽介のシャツを遠慮気味に掴んだ。陽介の体温がシャツから、私の手に伝わって来た。
「私を置いていけばいいのに…」
「そう言うわけにはいかないだろ。置いてなんかいけるか。」
陽介には、何でもない一言だろうけど、私は嬉しくて、顔がニヤけた。
やっぱり陽介が好き。
私は陽介の腰に腕を回して、さらにギュッとしがみついた。
今なら言える気がする。
「あのね。あのね。私、陽介のことが…」
パアーーーン
車のクラクションの音に、私の言葉がかき消された。
「えー?何聞こえない〜。なんて?」
あえなく私の決心は崩れ去った。
「ううん。なんでもない。急ごう。」
「大通りに出たぞ。萌、降りろ。」
「うん。」
急いで降りて、2人並んで澄ました顔で信号待ちをした。急に優等生ヅラして立ってる陽介を見たら、滑稽で私は吹き出して笑った。
陽介も察したようで、
「何やってんだかな。」と言って苦笑いした。
********
久しぶりに萌と2ケツで自転車に乗った。
危ないのに、萌は俺のシャツの裾を少し握るだけ。なに照れくさがってんだよ。しっかり掴まればいいのに。と思ってたら、急に背中に抱きついてきた。
思わず、ビックリして少しよろけてしまった。
実際抱きつかれるとドキドキ心臓の音がうるさい。静まれ。俺の心臓。
そんな事を考えてるうちに、萌のセリフを聞き逃してしまった。
********
「ここまで来たら、もうすぐだから、陽介先に行って。本当に朝練遅刻しちゃう。」
「そうか?悪いな。じゃあ。」
振り返りながら、手を振って陽介は自転車を漕いで行った。
私も陽介に手を振りながら、背中を見送った。
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