作品後語り
狂フラフープ
『重さのない瓶にきみを詰めよう』
『重さのない瓶にきみを詰めよう』の後語りです。
https://kakuyomu.jp/works/16816927862150942004
第一回遼遠小説大賞に、「小説はどこまで遠くに行けるか」というテーマで寄せて書いた作品です。こちらの企画で銀賞を頂きました。
タイトルとかキャッチコピーを褒めてもらったんですけど、自分でも珍しくお気に入りですね。
こういう解説を公開するのは野暮かなーとも思ったんですが、よくよく考えたら普通に全部明確に描いてあるからまあ別にいいや、となりましたのでつらつらと。
タイトルの『重さのない瓶にきみを詰めよう』は、123のいずれにも描かれない、その裏にある作中作の作者の物語――イマジナリーフレンドである可南子を、宇宙の果てへ飛ばす物語へ向けたものです。
登場人物はこんな感じ。
可南子(重さのないきみ)(イマジナリーフレンド)
可奈子(重さのあるぼく)(戸籍上に実在する人物)
カナコ(大人になり両者が統合されたI)
僻地に産まれた敷島可奈子は天才ゆえの孤独に悩み、自身の天才性をイマジナリーフレンドの形で切り離し、可南子を生み出したわけです。
可南子は現実世界に存在せず、それ故に物理的作業と対外折衝ができません。
こうして可奈子は愚鈍な人物を演じるのですが、その上でもなお周囲に馴染めず、可南子を唯一の友人とせざるを得なかったことが、彼女にとっての悲劇でした。
自らを周囲から孤立させる偉大な才能が矮小であることを望み、自らの挑戦の頓挫を夢見る可奈子でしたが、実験はあえなく成功。彼女は自己実現の道を歩んでいくことになります。
多くのイマジナリーフレンドは多感な時期を過ぎると、役割を終え消えてしまいます。つまり、才能が認められ故郷を離れることは可南子の存在が必要なくなること、ひいては可南子という人格の死を意味するわけです。
さて、作中で一度しか登場しませんが、可南子の一人称は「わたし」です。
「わたし」と「ぼく」は国外へ渡り、ひとりの「I」として生きていくわけですね。
以降、彼女は日本には二度と戻らず、残りの人生を英語話者として生きていくのですが、その中で唯一、日本語を用いたのが作中作の記述です。
宇宙分野で身を立てたDr.カナコ・シキシマが、もう一度だけ、敷島可奈子として小説を書き、戯れにロケットを飛ばします。
その後、深宇宙探査船のプロジェクトが時系列的に次に来ます。
責任者であるシキシマ博士だけが中身を知るブラックボックスがあるのですが、その内容物は神のみぞ知る、と。そこはちゃんと設定を詰めてないのでおれも知らねえ。とりあえずなんか可南子が詰まってます。
そしてシキシマ博士は没し、宇宙葬に付されるのですが、遺言により、可奈子の墓は日本に作られます。彼女の憎んだ「重力」はそこに留まっている。留まって、「重力」に縛られることのない彼女の半身の行く末に目を向け続けている。
だいたいこんな感じの話。
ちょっと遠回りはしましたが、分かりやすくて単純な話でしたね!!!!
で、こっからは企画に際しての裏話的な。
評議員の仰る通り、現状でも裏テーマ「文学的挑戦」に喧嘩売ってる今作品ですが、当初は二人が別人で、1部分だけで完結した話でした。
挑戦など頓挫してしまえ。表テーマの「小説はどこまで遠くに行けるか」だけ擦って裏テーマを真っ向から否定してバチバチに完成度を高めた作品で殴ってやる。元々そういうコンセプトで書いてました。
そもそも此度の企画、おーなんか辰井さんが大それたことやってるなあ、どらここはいっちょ噛みすっか! と喜び勇んで馳せ参じたものの、土台ぼくは純文学なんて阿呆臭い、芥川賞は直木賞に遥かに劣ると思ってる人間でして。
文学的挑戦、というやつの意味も価値も全然わからん、というもんでして、ぶっちゃけ今企画に寄せられた作品の大半も全然わかりません。もし万が一第二回でYOU評議員やりなよとか言われても絶対やらないと思います。
おれのブンガクを見せてやる、と頭を捻りだした三十分後には百八十度態度が変わって、何を青臭いことを言ってやがる、そういうのはもうシェークスピアが全部やった、物書きは黙って功夫だけ積んでりゃそれでいいんだ、てな具合で。
最初、企画になかなか作品が集まらなくて、やっぱみんなこのテーマだと尻込みもするよなあ、と思って。で、やっぱりみんなが様子見しているのもあって、一番槍やそれに次ぐ作品は、大抵読むじゃないですか。だからそこでテーマを真っ向から否定する話を、他を圧倒するクオリティでお出しできれば、企画そのものの流れを根底から支配できるんじゃないかなどと考えていました。
ただ、その路線で進めていた1が書き上がるぞ、というちょうどそのタイミングで、藤本タツキの読み切り『さよなら絵梨』が公開されて、良く分からんもので殴られてバグったんですね。
挑戦的な姿勢、というのに斜に構えていたのが、強制的に真っ直ぐ向き直らされてしまった。
自分のMAXで描いたテーマへの否定を、なんとか覆そうと足掻かずにはいられなくなってしまった。出来る限りの力は尽くしたのですが、付け加えた部分がどうしても完成度で劣って、やはり蛇足は否めない。
それでも、産まれてしまった物語を、捨て去ることは出来ない。
結局、出来上がったこれがテーマに対して差し出せる唯一のものでした。
いやー、やっぱ悔しいなー。
次は勝ちたいな。勝てるかなー。とにかく頑張りますか。
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