晴雷
岩山竜秋
第1話「俺の人生なんて」
2021年冬。とあるマジックバー
いつからかな
自分を『特別』だとは思わなくなったのは
昔はさ、もっと自分のこと特別だと
思ってたんだけどな。
俺は、それこそ『エース』とか『キング』とか
自分は、そういう存在なんだと思ってた。
まぁ、確かに
学校の成績は悪かったし、女にもモテなかったけど、でもむしろそれこそが
特別な『証』つーの。
正直、周りのヤツら馬鹿にしてたもんな。
どうせ、こいつら普通に就職して
普通に家庭持って、普通に暮らすんだろな。
そういう普通の人生しか歩めない奴らだって、でも今になってわかるもん。
そういう普通の人生掴むのがものすごく難しいってこと。
めちゃくちゃ努力して苦労して、そんでやっと普通の生活手にするんだろうな。って
『エース』とか『キング』とか
そこらはお話にならない。
お客さんは『6』ここらかな。
あ、でもね。これむちゃくちゃいい方っすよ。
俺なんかね、『2』これっすから。
俺は、寝ている客相手にマジックを使いながら話した。
風呂なしボロアパートの家に帰り
チンしたご飯にレトルトカレーをかけて食べる。
テレビには、一年前まで同じ店で働いていた
SHIGERUが、映っていた。
SHIGERUはもともと、うちで
俺の後輩として働いていた。
マジックの技術はそんなだが、オネエキャラというので大爆発。今や、テレビにひっぱりだこ。
あいつに技術を教えたのは俺だ。
なのにまた先越された。くだらねぇ。
そう、僕の人生は1番最下層。
学校でのカーストも最下層だった。
生まれてきた時に決まってた。
俺の母親は、俺を捨てた。
理由は、妊娠中に父親が浮気したから。
そのため、母親は俺を産んで直ぐに家を出た。俺を置いて蒸発した。
だから、俺は許せなかった父親のことを
早く死ねばいい、あんな父親。
そう、思ってずっと生きてきた。
大嫌いだ。あんなやつ。
いくら妊娠中の旦那の浮気とはいえ、
自分の息子を置いてまで蒸発することは無かったと思う。
ねぇ、お母さん。なんで俺連れて行ってくれなかったの、?
俺は要らなかった…?
ずっとそう思って生きてきた。
毎日この、マジックバーで働いてる何も無い日々。
今日も、オーナーの光邦さんが
SHIGERUに媚びを売ってる。
光邦さんしかやってない、名刺をわたそうとすると燃えるというマジック
今日もSHIGERUにやっていた。
「盗むなよ!」
「盗まないっすよ、そんなダサいマジック。」
「でも、すげぇなSHIGERU!いいよ!あのオネエキャラ!」
「まだまだこれからですよ。あ、こちら番組でお世話になってるプロデューサーの吉岡さん。」
「あ、どうも」
「これはどうもどうも!オーナーの光邦といいます!」
「いつもSHIGERUさんにはお世話になってい…」
その時、SHIGERUと目が合った。
「春さん、久しぶり」
「おぉ、SHIGERU来てたんだ」
「やだな、さっきから目あってんじゃん、あ、ビール2杯ね」
「おう」
「元気?」
「うん、まぁ」
「そっちは?最近どう?」
そう俺が聞くと、後輩の朔也が
「いやどうって!テレビ出まくってますよ!」と食い気味で俺に言った。
「あぁ!そう!俺全然テレビとか見ないからさ!」
「春さんもさ!見てもらえばいいのにね!マジック!」
そう嫌な言い方で吉岡さんに言った。
「あー!是非是非!え?どんなキャラでやってるんですか!?」
俺が戸惑うと、光邦さんが
「見てもらえよ!」と言ってきた。
俺は、グラスにコインが貫通するマジックをやってみせた。
吉岡さんは「あぁ…」と微妙な反応をした。
「普通!!!え?マジック好きの大学生?」
SHIGERUは俺のマジックを見てそう言って笑った。
「あれ?どっちが先輩?いや、お互いタメ口だからどっちが先輩かわかんなくて」
「俺の方がちょっと先輩だっけ?」
「全然春さんの方が長いでしょ!もう20年近くやってんでしょ?俺まだ5年ぐらいだしwww」
「あ、そっかwそうだなw」
悔しくて悔しくて、笑って誤魔化すしかなかった。
1年前まで俺がマジック教えてたのに
1年前まで可愛い後輩だと思ってたのに
1年前まで一緒に遊んでたのに
「春さん、あと俺やりますよ」
SHIGERUが泥酔し嘔吐したものを
処理していると朔也がやってきた。
「SHIGERUさんいいな。1年前まで俺らと一緒だったのに、今ではタワマンの最上階。毎日女連れ込んでるらしいですよ」
「へー、そっか」
「あーほら、今人気の阿笠奏美って女優知ってます?あいつSHIGERUさんと付き合ってるらしいっすよ」
「なかなかだなSHIGERUも」
「ほんとっすよ、臭ぇな。どんだけいいもん食ったらこんなに臭くなるんすかね」
「いいもん食ったことねぇから、分かんねぇや…w」
「春さんって生まれた時はどんな家庭だったんすか?」
「くっそ貧乏だよw
親父がさ、妊娠中に浮気してそんでお袋蒸発しやがってさ俺顔すら見た事なくて、男でひとつでくそ貧乏だったよwww」
「そうだったんすね、お袋さんとあったことないのか…」
「会いたいと思ったこともないけどね。」
「あれ、春さんじゃなかったですっけ?親父さんがマジシャンだったの。」
「おう、そうだよ。結構人気あったみたいだぞ」
「それでも辞められたんですか?」
「昔の小さな劇場でやってるようなマジックだぞ、収入なんかたかが知れてる。それでさ、俺育てるためにって始めた職業がさラブホの清掃だぞw」
「まじっすかw」
「なかなかだろ」
「なかなかっすねw」
「なかなかだよなwww」
「で?今も?」
「知らねぇ、高校卒業してから会ってねえわ」
俺は、なにをやってるんだろ。
売れた後輩の吐いたものを片付けるためにマジシャンになったんじゃない。
死んだ方が楽になるよなぁ。
毎日思ってしまう。マジックのように消えれたらな、そんな時だった。
俺の携帯に電話が1本なった。
それは、警察からだった。
「真壁省吾さんの息子さんでお間違いないですか…?」
「あ、はい…そうですが、なにか?」
「落ち着いて聞かれてください。真壁省吾さんが、遺体として発見されました。」
なんでだろ、あんなに死ね。って
毎日思ってたのに、毎日…毎日…
だけど、俺の時間が止まった。
晩年、親父は土手でホームレスとして生活をしており、心筋梗塞で亡くなったらしい。
身元を証明できるものがなかったが
近くに住んでいる同じ状況のようなホームレスがうちの親父だと説明してくれたそうだ。
俺は遺骨を貰いに警察へと出向いた。
あんなにうざくて、嫌いで存在がだるかった親父が、ただの壺に入るようなそんな小ささになってしまった。
なぜだか分からないが、僕はその土手へ来てしまっていた。
明らかに親父がここで寝泊まりしてたんだろうなと思う場所があり、そこには小学生がタイムカプセルに使うような汚い箱が置いてあった。
その箱を開くとたった一枚の写真がでてきた。
産まれたばかりの俺とそれを抱いて幸せそうに笑ってる若い時の親父の写真だった。
なんだよ、これ…
なんでこんなもん大切に持ってんだよ。
嫌いなんだよ…お前なんか。死んで清々してんだよ…なんだよこれ
一生嫌いでいさせてくれよ、一生お前のこと恨ませてくれよ!
ずりいよ、親父。
なぁ、親父…生きるのって難しいな……
毎日惨めでよ、俺なんのために生きてるのかわかんなくなってきた…!
もうどうしたらいいか分かんねぇよ…!
なんで俺なんか…
なんで俺なんか…生きてんだよ!
その時大きな雷が僕の頭上に落ちた。
目を覚ますと僕は、その土手に寝ていた。
「あぁ、寝てしまってたんだ…」
「うわぁ!起きた!」
寝ている僕を変質者と思ったタンクトップと短パンの子供たちがびびって直ぐに逃げた。
「なんだあの子たち、えらい昭和の格好だな」
その時近くに、新聞紙が落ちていた。
「1988年3月7日」
なんでこんな昔の新聞…
あれ、さっきの子供たちこれでつついてた…?
もしかして、、、?
急いで土手から大通りへ向かうと、
令和の町とは考えられないほどレトロな景色。
「すいません!今日何年の何日ですか!?」
「はぁ、?今日は1988年の3月7日ですけど…?」
俺が生まれるちょうど1年前だ…
目が覚めると俺は、自分が生まれるちょうど
1年前の1988年にタイムスリップしていた。
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