第30話 黒輝士道
冒険者USAとして、ダンジョン内での動画配信を行っていたUSAはそのダンジョンがAランクに相当するのだと知る。
そうしてUSAの元に大江町ダンジョンを調査するため、やってきたグノーシスの面々と共にダンジョンを攻略。
第一層の最奥までいったところでお開きとなった際に、USAと士道たちグノーシスの面々は大江町の町長から宴会に誘われることとなる。
向かった宴会の場所。
そこで有素は、苦手とする英子達に囲まれることに。
その時、黒髪の少年──黒輝士道が現れる。
「──士道君?」
突然現れた士道の姿に有素は驚きの表情を浮かべた。
一方の英子達は士道のことは初見だったのか、怪訝な表情を浮かべて、その黒髪の細っ来い見た目をした少年を見やる。
「は? あんただれ?」
「ああ、これは失礼。自分は黒輝士道という。一応冒険者だ。よろしく」
言って、士道は人懐っこい笑みを浮かべて英子達へ手を伸ばす。
そんな士道の握手を求める手にたいして、しかし英子達が返したのは嘲弄だ。
「はは。へえ、お兄さん冒険者なんだ?」
「やだぁ、やば~ん」
「知ってる? 冒険者っていっつも命懸けで戦っているんですって? こんな戦争もなくなったような時代にそんなことを好き好んでやっている奴らの木が知れないよね」
きゃっきゃうふふ、と士道に向かって──いや有素すらも含めて冒険者のことをバカにすることを口にした英子達に、さすがの有素も見過ごせなかった。
「ちょっと、英子さん!」
いきり立って英子の名を叫ぶ有素に、しかし英子達は嘲弄を隠さず有素を見返す。
「え? なに。本気にしちゃった? ごめんごめん。ちょっとした冗談よ」
「……ッ! 冗談だとしても質が悪すぎます! 士道く──黒輝さんは外からやってきたお客様なんですよ⁉ そんな人をバカにするのは礼儀が鳴っていないと思いませんか⁉」
「は~。もう、うるさいわね。はいはいごめんなさい。お客様。失礼しました」
手を振り、ぞんざいに謝罪を口にする英子。
明らかに謝罪する気がないとわかる言動にもはや有素も引きつる表情を隠せない。
「英子さん……‼」
「ああ。いいよ、いいよ。有素。こんな奴らのことは放っておけばいい」
英子へ向かって怒鳴りかけた有素をとどめるように士道がそういう。
それに驚いた表情を向けたのはなにも有素だけではなく英子たちも含めてだった。
「ちょっと。ねえ、あんた。それどういう意味? こんな奴らですって?」
「うん、こんな奴ら。君たちを呼び表すにはそれで十分だろ? むしろ、人間扱いしてあげるだけ慈悲すらあると思うんだけど?」
皮肉……とかではなく、心底からそう言っているように見える士道に、英子達はその眉尻を吊り上げ、キッとした視線で士道を睨みつけた。
「あなたねえ……⁉ 私が誰か知っているの⁉ 私はこの大江町でも一番大きな会社の経営者一族よ! それにパパはあの〝カムロ社〟の地方支社長よ!」
胸を張って、そう自慢げに口にする英子。
それに有素は思わず息を飲んでしまった。
英子の言うカムロ社というのはこのエーテルが主要な資源となった時代において、初期からエーテル関連技術を研究して発展してきた日本最大のエーテル工業だ。
現代におけるエネルギー事業をほとんど独占していると言っても過言ではないカムロ社のここら近辺における事業を取り仕切っているのが英子の父だった。
そのことを英子はしょっちゅう自慢していたし、実際に大江町におけるエネルギー事業のほとんどはカムロ社がなにかしらの形で参入しているので始末に負えない。
そんなカムロ社の支社長令嬢という身分を明かした英子にたいし、はたして士道は、
「ふうん。奇遇だね」
ポツリ、と呟かれた士道の言葉に、有素と英子は怪訝な表情をする。
一方の士道は、その口の端を緩く持ち上げながら、こんな風なことを口にした。
「俺の親もカムロ社のお偉いさんなんだ──CEOっていうんだけど、知ってる?」
「───」
ギョッと有素は目を見開く。
たいして英子達が浮かべた表情はいぶかし気なそれだ。
「は? CEOなにそれ?」
……バカだバカだと有素も正直に内心で思っていたが、ここまでとは思わなかった。
士道もそうなのか、面食らった様子で英子達を見ており、そのまじまじとした視線が、士道のいうCEOという役職はたいしたことがないと勘違いしたのか、英子達は勝ち誇ったような表情を士道と有素に向ける。
「ふん。なんかよくわからないけど、あなたもカムロ社の人なのね? まあ、それだったらちょっとは先ほどまでの無礼を許してあげるわ。だって私って心が広いもの」
言って、そのまま高笑いしながらその場を去っていく英子達。
それに士道は唖然とした表情を浮かべながら、唯一この場に残った有素を見やる。
「……なんかすごいな田舎の人って」
「そ、そのごめんなさい。でも、勘違いしないでね。他の人は、いい人ばかりなの。ただその……田舎って閉鎖社会だから一定数ああいう勘違いしている人がいるというか……」
苦しい言い訳で、都会育ちらしい士道にそう告げる有素へ、一方士道は苦笑しながら首を左右に振る。
「いや、いいよ。あのぐらいなら可愛いものさ……うちの親父なんかとくらべてもな」
「……? そういえば士道君。いまのことってつまり士道君のお父さんが……?」
「そう。カムロ社の最高経営責任者である神室王磨。まあ本来なら日本の法律に従って代表取締役っていうんだろうけど、カムロ社ではCEO呼びで定着してんの」
「な、なんというかすごいよね。カムロ社って相当な大企業でしょ? ってことは士道君も結構いいところのお坊ちゃん?」
問いかける有素に士道はしかし有素から目をそらし、頬をかく仕草をした。
「んー。どうだろうな。っていうか親父の名前で気づいていると思うけど、俺と親父の間には正式に戸籍上の関係はないんだよ。いわゆる愛人との間に生まれた庶子ってやつだから」
「え」
なんかかなり複雑そうな家庭環境を持ち出されて思わず固まってしまう有素。
そんな有素に士道は手をふって、気にするな、という。
「まあ、そういうわけだから、多分俺と親父の間には普通の親子らしい愛情ってもんはないかな。だからあの人達のああいう態度はむしろありがたく思うよ」
言って笑う士道。
だけど、どうしてだろう。
有素には、その士道の表情に、どこか寂寥を帯びているようにそう感じた。
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