第6話 歌ってみた

 そうして動画配信冒険者USAこと石動いするぎ有素ありすは今日も今日とて動画配信を行っていた。


「ごきげんよう~、みなさん! 本日も動画配信冒険者USAがここ大江町ダンジョンを攻略していきたいと思います!」


 迷宮攻略の配信を始めてから一週間ほどが立つ。


 その間にチャンネル登録者数は3人に増え、視聴者数も平均して50人ほどを超えるようになってきたころだ。


 そんな風に順調(?)かはわからないが、それでも動画配信者としてのファンが付き始めてきたUSAはその場でくりると振り向き、エーテルドローンのカメラを見る。


「と言っても、連日ただただモンストラスを倒すだけだと視聴者の皆さんも退屈だよね! だから本日は趣向を凝らして、最近冒険者系の動画配信で流行っている〝迷宮で歌ってみた〟! てのをやってみようと思います!」


 USAの言う〝迷宮で歌ってみた〟というのは、読んで字のごとく、歌を歌いながら迷宮でモンストラスを倒していく、という趣旨の動画だ。


 最近、大手冒険者達がこぞって行っており、歌いながらでも華麗にモンストラスを討伐するその姿が視聴者にひどく受けていると聞いてUSAもやってみようと思った次第である。


「ま、まあ、私はまだまだ初心者冒険者だから、歌いながら楽々討伐! なんて風にはできないかもだけど、それでも頑張って歌っていきたいと思いますっ!」


 明るい笑顔を浮かべてそう告げるUSAは、そのまま彼女の武器である《紅蓮》を引き抜きぬくと、ニコリと笑顔を浮かべて、おもむろにこんなことを口にした。


「それと、私みたいな初心者冒険者がただただ流行の歌を歌っても、面白くないよね! なので本日はここ大江町ダンジョンがある大江町の町歌〝遥か望む大江の岬〟を歌いながらダンジョンの攻略を進めてまいりたいと思います!」


 そうしてUSAは走り出す。


 同時に、その口を大きく開き、彼女は歌を歌い出した。


「嗚呼~、遥か~望む~、大江のみ~さ~き~♪」


 やたらと重厚な歌い出しで始まった大江町の町歌。


 それを歌いながらUSAはそのまま全速力で駆け抜けて、いつも到達する最初の大広間へと入ると、そこにいた犬面のモンストラスをすれ違いざまに一閃。


 跳ぶ首。


 歌いながら走り抜けるUSA。


「遠く~、緑~豊かな田原が広がりし~♪」


 USAは跳躍した。


 そうして壁に足を付け、その勢いのまま遥か上空へ浮かび上がると、その場でクラフトアーツ〈ヴォーパル〉を発動。


 一閃された横薙ぎの斬撃は、犬面のモンストラスを複数体切り飛ばし、そうして鮮やかにモンストラスを倒したUSAはそのまま天井へと着地。


「みはら~すは~、大江山~。我らを見守る暖かな父と母~♪」


 歌いながらUSAは視界の端で大広間に追加のモンストラスがやってくるのを見た。


 数は7体。だが、そのうち一体は巨体を誇るモンストラスだ。


 犬面の巨人というそいつへと狙いを定めたUSAは、全速力で接近を試みる。


 もちろん犬面の巨人はそんなUSAの行動を黙ってみていない。


 巨人がその手に握りしめた大剣を振るう。


 振るわれた大剣の斬撃をしかしUSAはかいくぐるようにして回避。


 そのまま犬面の巨人のまたぐらへと滑りこみ、その足を切りつけるUSA。


 ──GULUAA⁉


 切りつけられた痛みによる巨人の絶叫が大広間に響き渡った。


 USAは気にせず歌っていた。


「愛~すべき、故郷を胸に抱き~ 我ら未来へはばたく~♪」


 またぐらを切り裂かれて膝をついた犬面の巨人の背中を登り上がり、そのうなじに到達すると同時にクラフトアーツを発動。


 噴出したエーテルの刃は、そのまま巨人の首を両断する。


 宙を舞う巨人の首。


 それを見上げて呆然とする犬面の兵士達。


 高らかに歌い上げるUSA。


「故郷~、故郷よ~、どこへ行こうとその海の青さを我らは、忘れん~♪」


 着地と同時にUSAは走り出す。


 すれ違いざまの斬撃で三体のモンストラスが息絶えた。


 同時に足を地面へとこすりつけて制動。


 そうして振り向きざまにクラフトアーツ〈ヴォーパル〉を振るう。


 広範囲を薙ぎ払った一撃は、それだけで残りのモンストラスを輪切りにし、そうして彼らは霧散するはエーテルの粒子。


「嗚呼~、大江のみ~さ~き~、我らが~、故郷よ~♪」


 同時に歌も終わって、有素は振り向きざまにカメラへと決めポーズをした。


「以上〝迷宮で歌ってみた〟でした!」


 明るい笑顔を浮かべる彼女をエーテルドローンはただ静かに映し続ける。


 その向こう側でとんでもないことが起こっているとも知らずに。

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