冒険者USAのダンジョン配信復興期!~すたれゆく故郷を救うため現実世界に現れたダンジョンで動画配信を頑張りたいと思います~
結芽之綴喜
第1話 USAチャンネル
「
薄暗がりの中に、そんな声が響き渡る。
声の主は白い髪に赤い目をした少女だ。
「ごきげんよう、みなさん。動画配信
カメラ目線を決め、にこやかにそう語る少女。
そうして彼女が振り向くと、そこには薄暗がりが。
周囲を古いお城のような石壁で覆われたその場所。
その奥からなにかが近づいてくるのを少女は目撃した。
「あ! 本日もやってまいりました、コボルドくん達です! 犬の頭が可愛らしいですね~。でも、彼らは危ないモンストラスなので、さっそく倒したいと思いますっ!」
言いながら少女はその腰に佩いていた刀に手を伸ばす。
日本刀のような、しかし近未来的な雰囲気を持つその刀を引き抜くと、そこには光を押し固めて作ったような半透明な刃が。
それを構えると同時に、少女は元気よく発言する。
「それじゃあ、行きますよ~!」
瞬間、少女は駆けた。
すさまじい速さだ。
常人では決して出し得ない速度で駆け出した少女は、勢いそのままに目の前にいる犬頭を持った人型の異形へと接近し。
一閃。
すれ違いざまの斬撃により、犬面の首がはじけ飛ぶ。
「まずは一体!」
続けて返す刀で、すぐそばにいたもう一体を切りつけ、胴体を輪切りに。
そうして仲間が立て続けに二体も倒されて、黙っているほど異形達は愚鈍ではない。
──GUAAAA‼
犬とも人ともつかない奇怪な叫び声をあげてその手に握りしめた剣を振り上げる犬面達。
三体の犬面が自分へ向かって接近してくるのを前にして、少女はとっさに跳躍した。
遥か天高くまで舞い上がる少女。
尋常じゃない跳躍力によって薄暗がりの天蓋へと一気に浮かび上がると、そのまま身を上下に反転させて、天井へと足を付ける。
二度目の跳躍。
天井を足場にして、さらに跳ね飛んだ少女は次に壁、さらに床を経由してその反対側でまた跳躍すると、まるでスーパーボールのように左右上下を縦横無尽に駆けまわりだした。
「はいっと!」
宙で斬撃を走らせ、それはそのまま憐れな犬面の首を跳ね飛ばす。
「これで、三体だね~! 残るは四体!」
彼女が告げる通り、最初七体はいた犬面の異形達もその半数近くまで討ち減らされていた。
犬面達も攻撃を加えてくるが、四方八方を跳ねまわる少女を捉えられずその攻撃の多くは空振りのままむなしく宙を切る。
「このままだったら、簡単に倒せるかな~……っと!」
瞬間、少女は身をひるがえした。
壁へと向かって足を目いっぱい延ばし、そのつま先を引っかける形で無理やりに跳躍の軌道を変えると、それまで少女がいた場所を暴力的な颶風が走り抜ける。
大剣だ。
少女の身の丈の何倍にも及ぶ巨大な大剣を構えた存在が目の前に現れた。
「わあ! コボルド・ロードくんの参上です! 子分のコボルドくん達が窮地だから駆けつけてきたのかな⁉」
少女が叫ぶのと大上段の一撃が少女へと叩き込まれるのは同時だ。
犬面の巨人が放った一撃はすさまじい威力をもって石造りの壁を陥没させた。
大剣もさることながら、本体である犬面の怪物自身が10メートル近い巨体を有しているために、その一撃は石造りの壁をあっさりと砕き割り、轟音を立てて崩落させる。
ギリギリで壁を跳躍していたため、少女には直撃しなかったが、はたしてあの攻撃を受けていれば少女は無事ですんだかどうか。
「うわあ! すっごい威力!」
驚きもあらわに少女は叫ぶが、そんな少女の元へと殺到する影が。
犬面の異形達。
残り四体にまで討ち減らされた彼らが、巨体を誇る隊長格の指示を受けて、少女へと奇襲しかけたのだ。
「……っ。跳ぶッッッ!」
叫びながら少女は無理やりに足を地面へと押し付けて、そのまま跳躍。
間一髪で少女は犬面からの攻撃をかいくぐった。
「うわあ! 危なかった、危なかったっ! 頭の後ろがかすったよ、ひゅんって!」
顔色を真っ青にしながら、少女はそう叫び、しかしその足を止めることなくまたもや天井へと足を付ける。
しかし今度行うのは跳躍ではない。
自分が起こした加速度と、天井へと足を付けた際に起こる慣性。
これらが打ち消しあって一瞬の重力を少女へ与えている間に彼女は手に握る刀を構え。
「───」
視線によるロックオン。
眼〝上〟の四体へと狙い定めて少女は刀を思いきり振るう。
──刀剣系クラフトアーツ〈ヴォーパル〉
首狩り、というその名を持つクラフトアーツの効果により刀の刃を構成している活性化エーテルが勢いよく噴出し、刀身の長さを遥かに延長。
それは勢いそのままに犬面の異形達へと達し──その身を撫で切りにした。
吹き飛ぶ死骸。
そうして子分の四体が倒されたことに、犬面の巨人が怒り狂う。
天井から地面へと着地する一瞬を狙って一直線に突進を仕掛けてくる巨人。
怒りにその犬面を歪めた巨人を前に、しかし少女は冷静に対処した。
「ほいっと……!」
言いながら少女は前へと進む。
自ら巨人の方へと身を投げ出すようにして駆けだした少女は、そのまま横一閃に振るわれた大剣の颶風をかいくぐり、さらに振り上げられた巨人の足をも避けてその股下をくぐる。
「さらに──!」
巨人の振り上げられたふくらはぎを足場として跳躍。
そして背中を駆けのぼって至るは巨人のうなじ。
無防備にさらされたそこへと少女は狙いを定めた。
「せいやっ!」
斬撃一閃。
〈ヴォーパル〉によって威力と間合いを増強された一撃は、刀の全長よりもなお太い犬面巨人の首筋とてやすやすと叩き切り、そしてそのまま首を跳ね飛ばす。
宙を舞う犬面の首。
ぐるぐる、と回転しながら飛んでいた首が、地面に落ちるのと、少女が着地するのは、ほぼ同時であった。
溢れる光。
少女が地面に降り立つと同時に分かたれた首と胴体が緑色の光へとなって霧散する。
そうして光があふれる中、少女は刀を鞘へとしまい、さらに背後へと向かって振り返る。
決めポーズ。
「これにて討伐完了! みんな~、見てくれてありがと~!」
少女の笑顔が画面いっぱいに映し出されるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます