第5話 出発
さて、これからどうするか。金貨を《作成》するべきか。それともさっさと装備を《作成》して出発するべきか。
「装備を作る。何か欲しいものはあるか?」
「はいはい! 一番いい装備が欲しい! 貴族の連中をギャフンと言わせてやるの‼」
なるほど、貴族をギャフンと言わせるとなると、それなりの装備がいるな。最初は装備自体はそこそこの物にして、《付与》で魔法道具にするつもりだったが、まあ、エルマがそういうなら装備自体をいい装備にするか。
「そうなると、ミスリルくらいの装備がいいか」
「みすりる?」
エルマはスラム育ちだから知らないか。ミスリルは魔法金属の一種で、見た目が非常に美しいため、美術品としても人気があった。
それに、流石にエレメンタイトクラスの魔法金属で装備を一式揃えようと思うと俺の魔力が持たない。ミスリルは魔法金属の中では比較的安価な金属だから、《作成》も簡単だ。まあ、魔法金属という時点でかなりの魔力を消費するが、ギリギリ足りるだろう。
「ミスリルというのはな、こういう金属だ。《作成》」
《作成》で俺はミスリル製の片手剣を作った。
「うわ~! 綺麗‼」
エルマが顔を近づける。
「触るのはいいが、気を付けろよ。切れ味は本物だからな」
一応言い含めてミスリルの片手剣をエルマに渡す。エルマはミスリルが余程気に入ったのか、しばらく飽きもせずに眺めていた。
「そろそろカザリにも見せてやれ」
「あ、うん。ごめんね。カザリ」
「いえ、お気になさらず。武器は消耗品です。最初にどれだけ綺麗でも使っていれば汚れます」
エルマは貧しい環境で育ってきたが故にロマンチストというか。逆にカザリは貧しい環境で育ってきたが故にリアリストというか。
「確かによく切れそうですね」
ミスリルの見た目に関してはノーコメントだった。
「私これ使いたい!」
エルマがミスリルの片手剣を使いたいという。そういえば、装備を《作成》する前に職業を決めておかないとな。
「正直、俺はそこまで戦闘が得意ではない。が、この中では一番の経験者だ。俺は中衛がいい」
正直、中衛で石ころを《射出》で打ち出しとけば問題ないだろう。どちらかというと、エルマとカザリに戦闘を経験してもらいたい。
「何か希望はあるか?」
意外にも、手を挙げたのはカザリだった。
「もしよろしければ、私はご主人様——」
「スペルビア・ダークロードだ。ルビアでいい」
「ルビアと同じ職業がいいです」
「ふむ、魔技師か……」
正直、難しい。魔技師はサポート職だ。戦闘に参加できない。できれば戦闘できるポジションについてもらいたい。
「分かった。但し、戦闘の時は戦士として前衛を務めてもらう」
人生ゲームというものがある。それでは参加者は一つの決めた職業にしか就けなかったが、これは現実だ。二足の草鞋でも問題あるまい。もし無理そうなら俺がサポートしよう。
「分かりました」
これでカザリの方は良し。あとは。
「エルマはどんな職業がいい?」
正直、前衛がもう一人いてもいいし、後衛がいてもいい。エルマには自分が望むものを作ってやりたい。
「ん~。逆に私にはどんな職業が似合うと思う?」
なるほど。自分に才能のある職業という訳か。
「ちょっと待て。《鑑定》」
ん~。正直、これといって天才と呼べるような才能はないな。まあ、人間なんてそんなものかもしれないが。
「しいて言うなら、神官か」
「じゃあ神官になる!」
という訳で、俺たちの職業が決定した。
「カザリは前衛ということだから、そのミスリルの片手剣を使え。あとは、盾と鎧もいるか」
俺は《作成》の魔法を使い、ミスリル製の盾と鎧を作った。
「兜はいるか?」
冒険者の中には、顔を売るために兜を被らない者が多いと聞いた。
「はい、お願いします」
《作成》の魔法でミスリルの兜を出す。
「これでいいだろう」
「はい。ありがとうございます。十分です」
カザリはさっそく装備を付け始めた。ボロボロの一張羅の服の上から着始めたので鎧下とかも必要かもしれないな。まあ、もう着始めてしまっているし、魔力の問題もある。
「エルマは? 神官服でいいか?」
「ええ、そうね」
神官服は防御力には期待できない。まあ、ミスリル糸製であれば多少は大丈夫だと思うが。一応、鎖帷子とかも魔力に余裕があるときに準備した方がいいかもしれないな。まあ、今はいいだろう。
「後は、魔法職なら杖か」
「うん、ミスリルがいい!」
まあ、ミスリルは魔力伝導率もいいしな。杖の先端には物理攻撃もできるように昆のような固い部分も作っておく。
「他には何かあるか?」
「魔法ってどうやって使うの?」
そこからか。まあ、スラム育ちでは魔法に触れる機会なんてないか。
「分かった。カザリの魔技師の修行と並行して進める」
一応、頭防具として神官帽も出してやった。
「これで準備は整ったな。とりあえず金がないから、今日中に町を出るぞ」
「はい」
「うん」
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