Ⅰ. 叶愛《のあん》

 まずは、ただ偵察に来ただけだった。


 私に、いきなりそんな事を決行出来るような、大それた勇気など無い。

 

 PCと家庭用のAIから得た僅かながらの情報しか、この時代の事などは知らない。

 特に『破壊的時代』と呼ばれる20~21世紀、その間の歴史については、私達、22世紀人類の間では、隠蔽され続けて来た。

 その期間に関してはタイムトラベルも禁忌で、大勢のタイムパトロール隊がその時代に配備されていた。

 

 そんな中、少し悪運が良いだけで、ただの落ちこぼれの22世紀人類である私が、上手く彼らの目を潜り抜けて、21世紀に辿り着けるかどうかは疑問だった。

 

 時間旅行は、20~21世紀を除いた過去の時代ならば、自由に無許可で行けた。

 ただし、その時代の人々からは不可視な、特別仕様の透明スーツに全身を包んでいる場合に限られていたが。

 

 私は、いつでも容易に行けるような過去の世界には、全く興味が無かった。


 私が行きたいのは、21世紀前半!


 もちろん、観光目的ではない、果たさねばならない使命的な、それなりの理由が、私には有った!


 実行に移すまでは、AIに手伝ってもらった。

 原則として、AIは悪事に加担など出来ないから、企ての全てについて、という状態で尋ね続けた。


 タイムマシーンには、この時代を選択する事自体は不可能とされてないが、手動で設定する事になる。

 いつも自動設定を使用していたから、慣れない手動という操作で、5回もエラーになった。

 それでも、めげずに設定し続けると、6回目にはタイムトラベルが可能な状態になった!


 AIからは、網の目のように張られた拠点を持つタイムパトロール隊を避けて、この時代に上手く到達する方法を教えられた。


 あのとても有能で使えるAIは、今、どうしているだろう?


 私が、タイムトラベル不可能域へ渡った件がバレてしまったら、あのAIは廃棄させられてしまうのだろうか?


 

 ここが、21世紀……


 腕時計を見ると、2022年3月3日の日本になっている。

 

 3月3日を選んだのは、一応、私が女の子であるから。


『ひな祭り』という風習が、この頃には、まだ残っていたらしい情報を見ていた。

 女の子のいる家に入って、どのようなものなのか観察してみよう。


 最初に見つけた家には、小学生くらいの女の子がいながら、雛人形は飾ってなかった。

 特に夕食になっても、特にお祝いしているような雰囲気ではない。


 次の家では、中学校の女の子のいる家、共働きらしく、女の子が遅くに学校から戻ると、夕食を1人で食べていた。


 3軒目で、幼児の女の子がいる家で、やっと、雛人形が飾られていた。

 家族が揃って歌を歌い、手巻き寿司でお祝いしていた。

 その歌は、音楽の時間に『日本の古民謡』として聴いた覚えが有る。

 

 端末で調べると、この時代の雛人形を所有している割合は女の子がいる場合、80%以上だが、毎年飾るのは半数くらいの家だった。

 あの高価そうな煌びやかな人形達は、陽の目も見ず、ずっと押入れに眠らされている家庭も有るのが、哀しい気持ちにさせられる。


 私の住む22世紀には、そんな伝統的な風習などは残っていなかったが、代わりに、『子宝の日』と言われる、子供がいる家庭のみの祝日が7月7日に制定されている。

 この日は、18歳以下の子供のいる家庭にだけ、海と山が解放される。


 私も、以前は『子宝の日』に、家族で海に出かけ楽しい時間を過ごした記憶が有る。

 今や、遠い日の思い出のようになってしまった。


 ほう、この時代の海は、まだ海水浴に使える形状をしているのか!


 この時代の放射能や原油やプラスチックごみなどの汚染のせいで、22世紀には、海は遊泳禁止になり、陸地に作った人工ビーチでの行楽しか楽しめなくなっているというのに……


 ひな祭りや海の事は分かったが、そろそろ本題に移らねば!

 

 タイムトラベル用の透明スーツは少し窮屈だが、これで目的地も自由に設定し瞬時に移動出来るのだから、我慢しよう。


 座標軸に、緯度と経度をセットして、OK!

 ……のはずだったが


 何だ、これは……?

 足場が、かなりおかしいではないか!

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