2輪のかざぐるま ~「かわいいから、のう・・・」
与方藤士朗
春風に薄桃色のかざぐるま
第1話 老園長に招待されたその先は・・・
米河君、私はね、あのとき、哲郎と長崎さんと一緒に、森川先生に、この街の外れの墓地に参ろうと言われたのよ。しかし何だ、なぜ私らを墓参りなんかに連れていかれるのか、正直、不思議でならなかった。
ちょうど、川崎ユニオンズが解散して、私は、父親と長崎さんから言われた通り、他球団で今さらやってどうなるか、ってこともあって、引退したのね。
選手として、わずか1年だけだけど、好きな野球ができて、それはそれで、まあ、部活動が少し長く楽しめて金ももらえて全国を旅できたってだけでも、良かったかなと、そんな気持ちだった。
で、今度は、長崎さんから言われて、直ちに球団フロントの職員になった。
と言っても、それはあくまでも腰掛けがてらに、残務整理の手伝いやで。
これは、将来家業を継いだ時のための言うなら「研修」だわな。こんなことになってはいけないという、戒めもあったのだと思う。高校は商業高校やったから、何、伝票整理とか何とか、そんなものはすぐに慣れたよ。学校の勉強と実務は、君もご存知の通り、確かに違いは少なからずある者だけど、その点は、自分も神戸の洋菓子やの息子だから、子どものうちより見慣れていて、大人の皆さんにいろいろ教えていただいていたから、何とも、なかった。
それで、さあ、岡山での仕事がぼちぼち終わったかなという頃、挨拶を兼ねて、長崎さんと一緒に、よつ葉園に伺った。園長室には、既に大宮君、君もご存知のあの大宮哲郎さんが、学生服を着て来られていた。
長崎さんはそうでもなかったが、ぼくは正直、びっくりした。
なんでまた、こんなところに哲郎が? ってね。
事務員の女性ではなく、あのときばかりは、あの山上先生が、お茶を持ってきてくださった。それでね、森川先生が、突如、こんなことを言われたのよ。
「折角の機会じゃ。ユニオンズの長崎君と西沢君には、岡山に来られた以上、ぜひとも、御案内しておきたい場所がある。哲郎とわしが同行するから、ぜひ、お越し願いたい」
顔は優しかったが、目が、全然、笑っておられなかったのよね。
あの方は、君が今かけているような丸眼鏡をされていたが、その奥は、もう、問答無用の迫力に満ち溢れていた。
もっとも、横にいた長崎さんも、哲郎も、さして驚いた様子は、なかったけどな。
それはなぜかは、そのときは、わからなかった。
それではということで、川上さんというよつ葉園の卒園生の方が、自分の自動車屋のクルマに乗って来られて、それにみんなで、乗っていこうということになった。
上品に洋服を着こなされた、あの山上先生が、丁寧にお辞儀をして送ってくださったのを、今も覚えているよ。
それでまあ、クルマに乗って20分かそこら、街中を超えて、旭川だっけ、あの大きな川も超えて、街外れの、まだ開けていないあたりまで、来たのよ。
その小高い山というか丘というか、そこは確かに、墓地だった。
彼岸も近いからか、出店も、いくつか、出ていた。
川上さんがクルマを止めて、ぼくらと一緒に、早速、その墓地に行くことになったのはいいが・・・。
何でまた墓地なんかに案内されたのか、そのときはまだ、わからなかった。
まさか、出店で祭りの雰囲気を味わえ、なんてこともないだろうしね。
私ら皆、20代前半か後半の若者とはいえ、子どもって程じゃ、ないでしょ、当時ですでに。
(つづく)
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