最終話 破壊の魔女②

 気が付くと、別の空間にいた。


 城の入り口の大広間よりさらに広い空間。

 奥には数段上がって玉座ある。

 そして、その玉座には人が座っていた。

 円錐型の帽子を被った白い長髪の女性……。


「いらっしゃい、可愛い坊やたち」


 遠目ではわからないが、女性のようだ。

 しかし、声を聞いただけでメニシアは緊張感が走った。

 本能が逃げろと必死に叫んでいるようだ。

 だが、サクラだけは違った。

 メニシアの横にいたはずなのに、すでにいなく、気が付いた時には刀で切りかかろうとしていた。


「うおぉぉぉぉぉぉ!」

「まったく、いきなり攻撃とは、酷いねぇ」


 サクラの攻撃が直撃しようとした瞬間、女性は指を鳴らす。

 すると、サクラのからだは一瞬だけ止まり、そしてその体は、広間の入り口まで吹き飛ばされ、倒れた。


「全く、久しぶりの再会だというのにねぇ」

「……っ、黙れ! お前だけは……お前だけは!」


 付き合いが短いとはいえ、ここまで殺意剝き出しのサクラを見たのは初めてだった。


「まさか、あの人が」

「そのまさかだよ……あいつが僕のすべてを破壊した元凶だよ」


 サクラの言葉を聞いて女性の方を見るメニシア。

 どうやら彼女が、サクラの言う魔女のようだ。


「元凶ねぇ……間違いではないねぇ」


 魔女は立ち上がる。


「改めて、破壊の魔女……多くからそう言われているねぇ」


 破壊の魔女。

 実際その名の通りの行いを過去にしている。

 サクラの生まれ育った村がその一つだ。

 さらに……。


「そして、その子の母親でもあるねぇ」

「え?」


 メニシアにとって直近の中では一番の衝撃だろう。

 破壊の魔女の正体が、サクラの母親その人だったなんて。


「何で……」

「ふむ、そこの坊やはサクラの連れかい? 何でとは」

「何であなたは、自分の子どもの幸せを奪ったんだ!」


 メニシアの叫びを至極当然と言えるだろう。


「何でか……そうだねぇ」


 言葉を選んでいるようにも見える。

 だが、返ってきた答えは、サイコパスそのものだった。


「破壊の魔女を名乗っているんだ、破壊をして何が悪いのかねぇ」


 嘲笑うようにして答える。


「外道ですね……」

「……くそ」


 この間、破壊の魔女の攻撃のダメージを回復させていたサクラは、何事もなかったかのように立ち上がる。


「大丈夫ですか?」

「うん、ありがとう」


 サクラは聖剣を構え、メニシアも少し遅れて短剣を構える。


「そんなおもちゃで私に勝てると思っているのかねぇ」

「……」


 挑発をものともせず、サクラは破壊の魔女に攻撃する。

 しかし、破壊の魔女は動作することなく、防御膜を展開し、サクラの攻撃を防いでいく。


「まぁ、おもちゃは武器ではなくて、お前たちのことだけどねぇ」

「……っ」


 聖剣に魔力を込めて、さらに攻撃の威力を上げる。

 それでも防御膜にはひび割れ始めた。


「さすがに私の血が流れているだけはあるねぇ」

「黙れ!」


 サクラの一撃はさらに重くなり、破壊の魔女の防御膜を破壊する。


「雷鳴!」


 即座に魔法陣を展開。

 自身が使える魔法の中で最強クラスの魔法を放つ。

 そして、その魔法は破壊の魔女に直撃した。

 攻撃を喰らった破壊の魔女は、黒焦げの状態となり、その場で倒れ伏せた。




「はぁ、はぁ、はぁ」


 サクラの息が切れる。

 それもそうだ。

 最強クラスの魔法を放ったのだ、それなりに魔力を削られる。

 ただ、サクラの魔力量は生まれた時には平均をはるかに超えており、その量は修行をしたことによりさらに伸びた。

 魔力量的にはまだまだ余裕があるとはいえ、一気に魔力が減るのは慣れないし疲れる。

 そもそもこの魔法を放ったのも久しぶりということもある。

 そしてメニシアはというと、サクラの一方的な攻撃をただ見守るだけになってしまった。

 サクラは、破壊の魔女の元を即座に離れて、メニシアの近くに戻る。


「さすがですね」

「……メニシア、ちゃんと観察してた?」

「はい、観察してましたけど」


 メニシアが見た感じだと、破壊の魔女が起き上がる気配がない。

 それでもサクラは警戒している。

 その警戒は、正解だった。


「何ですか、あれは」


 黒焦げとなり倒れ伏している破壊の魔女の体が、翡翠のような色の輝きを纏い始めた。

 その瞬間、破壊の魔女は立ち上がり、何事もなかったような状態……言わば最初の状態に戻った。


「……嘘」

「嘘だと思うかい? 坊や」

「……」


 今の状況に理解が追いつかないメニシア。

 逆にサクラは、予想できていたかのように冷静だ。


「今の一撃はさすがに効いたねぇ。さすがに私の娘だけはあるよ」

「不愉快極まりない」


 サクラは再度聖剣を構える。


「さっきのを見て、攻撃をしても無駄だということがわからないのかねぇ」


 確かに、サクラの最強クラスの魔法を直撃したにもかかわらず、破壊の魔女は、何事もなかったかのようにサクラたちの前に立つ。

 あれが魔法の一種だとしたら、魔力が尽きない限り攻撃をしても無意味だろう。

 そう、魔法だったら・・・・・・の話だ。


「メニシア、援護を頼む」

「はい!」


 聖剣に先程より多く魔力を込めて、サクラは攻撃を仕掛ける。


「はぁ、わからない子だねぇ」


 破壊の魔女は、サクラが聖剣を振りかざす瞬間に、再び防御膜を展開する。

 防御膜の展開と同時にサクラの横から何かが飛んできて防御膜を掠った。

 すると、防御膜は瞬時に消滅した。


「!?」


 破壊の魔女はすぐに理解した。

 サクラの後方を見ると、メニシアがいる。

 メニシアの手には光の粒子が集中しており、それは次第に短剣へと姿を変えた。


(まさか、あの短剣は)


 破壊の魔女が考えている可能性は正しい。

 メニシア(というより短剣)との相性が悪い。

 そのようなことを考えたところで、サクラの攻撃が止まるということはない。

 だが、サクラのどのような攻撃を受けたとしても、どのみち無駄だ。

 あえて破壊の魔女は、さくらの聖剣による攻撃を受けた。

 と、同時にもう一つの攻撃を貰った。

 これがまずかった。


「な、に?」


 もう一つの攻撃は、メニシアの短剣だ。

 メニシアの元に戻った短剣を、メニシアはすぐに破壊の魔女に向けて放った。

 短剣の効果により、破壊の魔女は力が抜けていく感覚が現れる。

 先程の防御膜のように魔法を消滅させる効果だったら、回復能力も例外ではない。

 サクラの攻撃による傷がまだ・・回復しない。


「やはりあの回復は魔法の一種のようですね」

「……そうだね」


 本当にメニシアの短剣が効果を発動していたら、ある程度安堵して良いだろう。

 ただ、効果が微量だったり、そもそも何も無かったら……。

 サクラは未だ警戒を解けない理由だ。

 そして、やはりだった。

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