2周目 閑話 分岐点

閑話 分岐点①

 メニシアが旅の仲間に加わり、エリアスの町を出てから一週間が経過した。

 エリアスの森を抜けて、次の町に行く道中に公園のような広場があったので、一行は少し休憩をすることにした。


「メニシア、大丈夫?」

「はい、大丈夫ですよ」


 エリアスを出てから、食事と寝る時を除いて基本的には歩きっぱなしだった。


「日課にしていた散歩のおかげでしょうかね、特に疲れているというのはありません」

「よかった」


 サクラは、メニシアに対して完全に心を開いていると言う訳ではない。

 しかし、この一週間色々な話をしていくうちに、少しは開いた。


 サクラとメニシアは、ベンチがあったのでそこに座り、クオンは二人の周りをトコトコと歩いている。


「そう言えば、サクラさんに聞きたかったことがあるのですが」

「なに」

「答え辛かったら答えなくても良いのですが、サクラさんが使っていた魔法のことについてなのですが」

「……」


 サクラは黙り込む。


「ごめんなさい、やっぱり……」

「いいよ、聞きたいことって?」


 何か覚悟を決めたように答えるサクラ。


「無理矢理みたいで本当に申し訳ないのですが……魔法は道具を使わないのですか?」

「……え?」


 想像していた内容とは違う質問が来て思わず変な声を出してしまった。


「どうしました?」

「思ってたのと違う質問が来たからちょっと驚いた」

「サクラさんも事情があるでしょうから、さすがに踏み入った質問はできませんよ」


 てっきり何故魔法を使うことが出来るのかとかを聞かれるかと思っていたので、少し安堵したさくら。


「道具に関してはあってもなくても魔法は使える。ただ、慣れない人は道具があったほうがコントロールしやすい」


 実際サクラが初めて魔法を使い始めた時期は、なかなかコントロールすることが出来ず、聖剣と一緒に背に掛けられている魔法杖を媒介にしない上手く魔法を使うことが出来なかった。


 そもそもメニシアが何故、このような質問をしたのか。

 単純な話、この世界において魔法というのは絶滅危惧種に近い状況だからだ。


 現在魔法を使えるのが、魔法使いと魔女、サクラとアビルが言っていたあの方、そして魔鏡のような悪魔だ。

 魔法使いも魔女もその数は少ない。悪魔もほとんど滅びており、魔鏡のように封印されている悪魔は数えられる程だ。


 そして、魔法を使える者は少ないが、魔法に代わって浸透しているのが魔術だ。

 魔法は道具無しでも使えるが、魔術は道具がないと使えない。

 人間には大なり小なり魔力を持っており、その魔力を道具に送り、初めて魔術を使うことが出来る。

 どのような魔術を使えるかは、基本的には道具次第だ。

 従って誰でも様々な属性の魔術を使うことが出来るが、その人の魔力の質によっては多少属性の得意不得意がある。

 そして、戦闘用もあれば日常で使えるものもあり、誰でも媒介するための道具を手に入れることが出来る。

 道具は、一生ものもあれば、消耗品もある。


 魔法にしろ魔術にしろ必要になってくる魔力というのは、生まれた段階でその魔力の質や量が決まる。

 しかし、後天的にその魔力の質を良くしたり、魔力量を増やすことも可能だ。

 メニシアの魔力は、平均的だ。

 対してサクラはというと、先天的に膨大で質の良い魔力を持っており、修行したことにより量も質も格段に向上し、基本的には魔力切れにならないし、全属性の魔法を使うことが出来る。




 サクラは、メニシアに魔法について色々と話していった。

 メニシアも食いついてさくらの話を聞く。

 そんな中、二人の周りを歩いていたクオンがいつの間にか離れていて、石像らしきものの前に止まり、それを見ている。

 それに気付いた二人は、話を中断してクオンの元に行く。


「どうしたの、クオン?」

「……この石像」


 女神らしきを模ったような石像を見て何かを考えるメニシア。


「石像がどうしたの?」

「これと同じ石像をエリアスでも見かけたことがあると思いまして」


 メニシアの言う通り、エリアスに同じ石像がある

 サクラは見かけてないが、何せ滅多に人が通らない場所にあるから、気付く方が難しい。


「ここにも、エリアスにもあるということは、他の場所にもあるのでしょうか……」

「さぁ」

「見たことないのですか?」

「別にこの石像を探す為に旅をしているわけじゃないし、それに興味ない」


 そんなことを話していると、石像の瞳が輝いた。


「「え?」」


 二人は、いきなりのことで戸惑った。

 しかし、その輝きは一瞬で消える。


「何だったのでしょうか」

「エリアスのは光らなかったの?」

「もちろんないですよ」


 ほんの少しの謎が生まれてしまった。


「……そろそろ行こう」

「そうですね」


 一応十分に休憩をすることが出来たので、広場を後にして旅を再開する。




 広場を後にしてから少し離れた場所にて……。


「もし、そこのお二方」


 二人は、声のした後ろを見る。

 そこには、一人の老人がいた。

 よぼよぼとしているのだが、どこか隙がないというか、怪しさというより、これまた謎という言葉がピッタリな老人だ。


「どうしましたか?」

「……」


 サクラは警戒しているが、メニシアは老人に答える。


「お二方は冒険者ですかね?」


 サクラとメニシアは顔を見合わせる。

 確かに冒険者に見えなくはないが、二人はギルドに所属しているわけではない。


「ただの旅人」


 サクラが答える。


「そうなのか……困りましたねぇ」

「どうかしましたか?」

「それがですね……」


 老人が言うにはこうだ。

 老人は薬草を採取していたらしく、ちょうど区切りが良かったので休憩しようとした。

 すると、突然目の前に洞窟のようなものが出現したとのこと。

 なかには入らなかったが、中から獣の声のような声が聞こえたような気がした。

 恐怖を感じた老人は、近くの町のギルドで調査を頼もうとしていたところに、サクラたちがいて、今に至る。


「……ということなのですが」

「サクラさん、どう思いますか?」

「行こうか」


 まさかの即答だった。


「……」

「どうしたのメニシア?」

「いや、即答するとは思っていたのですが、ただ断るかと思っていたので」

「獣がいるなら、それを討伐して自分の経験値やお金になるかなって思ったから」

「もしや引き受けてくれるのですか?」


 老人はやや嬉しそうに答える。


「構わない、こっちにとって都合が良いかもしれないから……メニシアはどうする」

「サクラさんが良いのならそれで」


 これで次の目的地が決まった。

 早速老人に案内されて洞窟に行く。




 

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