米津玄師、愛されたがり過ぎ問題

 米津玄師の話をしよう。

 もう今では『げんし』と読む人も減ってきていると思うが、「Lemon」というモンスター・メガヒット曲に代表されるソングライティングの才能のみならず、ディープで考察しがいのある歌詞、これまで稀にしか露出していない右眼、実は身長189cmの『でかレモン兄ちゃん』(※盟友・菅田将暉のラジオ内でのあだ名)であること、そしてそもそもはボカロPであったこと等々、ネタは多い。多すぎる。


 というか「結ンデ開イテ羅刹ト骸」というボカロ曲からファンになった俺にとって、「米津玄師について語る」、これだけで軽く三万字は書けるぞってくらいアレだ、なんだ、愛してるんだっ!!!!


——というわけで本日のテーマは「米津玄師、愛されたがり過ぎ問題」である。



◆01:限りなく目標に近い存在


 新曲が公開されればYouTubeの再生回数はとんでもない速度で回転し始め、場合によってはワイドショーのニュースになり、曲の音楽的解釈や歌詞の考察などでYouTube、Twitterのみならずあらゆるメディアがざわめき、CDセールス、ストリーミング、ダウンロードといったランキングで数十冠奪取、という、


「米津玄師」というひとつのコンテンツ


 と言っても過言ではないほどに巨大な存在となった米津玄師。

 そんな彼は、邦楽誌Rockin' On JAPANの最初のロングインタビューで「野望」を聞かれた際、「ジブリみたいになりたい」と答えていた。

 老若男女誰もが知っているキャラであったりシチュエーションであったり台詞であったり、換言すれば誰もが一度は通過するエンターテイメントということだ。

 それに対し、インタビュアーの山崎洋一郎氏は「なれるよ」と即答していたが、いやはや、もう「限りなくジブリに近い米津」くらいにはなってんじゃね?



◆02:最初からずっと 〜「diorama」に見る『愛されたい』連呼〜


 米津玄師のSSWとしてのデビューはタイアップも大型プロモーションもない、更には作詞作曲歌唱ミキシングまで全て自らで行った「diorama」というアルバムだ。

 いくらボカロPとして絶大なファンダムを既に築いていたとはいえ、オリコン6位にまで食い込んだと聞いた私は喫驚した。「いきなりそこまでか!」と。

 しかし後に知ったことだが、米津玄師自身はこの異例のヒットをして失望しているのである。おい米津、大丈夫か。多くのメジャーバンドがトップ10に食い込めずに何十年も活動してたりするんだぞ。


 そして本記事で私が取り上げたいのは、このデビューアルバムを狂ったように聞き込んでいた私が、別の意味で「おい米津、大丈夫か」と思ったこと、ずばり、歌詞における、


 『愛されたい』に代表されるいびつな愛の異常なまでの頻発


 である。



◆数えちゃったよ

というわけで、「diorama」の『愛』、数えた。結果は以下だ。


・街:None

・ゴーゴー幽霊船:「君に愛されたいと願っていたい」

・駄菓子屋商売:None

・Caribou:None

・あめふり婦人:「私に愛をくださいな」

        「愛されたいのはあなただけ」×3

・ディスコバルーン:None

・vivi:「愛してるよ、ビビ」×5

    「さよならだけが僕らの愛だ」

・トイパトリオット:None

・恋と病熱:「愛していたいこと 愛されたいこと」×3

・Black Sheep:None

・乾涸らびたバスひとつ:None

・首無し閑古鳥:「愛されたいのは」×2

        「愛されてるのは」

心像放映:None

抄本:「愛されたい」×2

   「愛してたい」×2


——とまあ、野暮なことをしてしまったが、これは歌詞カードを見つつも歌唱の繰り返しをも換算して数えた結果である。


 一点、「あめふり婦人」における『愛されたいのはあなただけ』というフレーズの文意が掴みかねるが(愛されたいと思っているのはあなただけ、なのか、自分が愛されたいのはあなたからだけ、なのか)、デビューアルバムの半分近くに、これだけ『愛』という言葉を詰め込む、こと最後を飾る「抄本」における『愛されたい、愛されたい』という声は、マジで「この人ホントに大丈夫か」と無駄に心配になった。


 特筆すべき点はまだあって、この作品はコンセプチュアル・アルバムであること、そして『愛されたい』だけではなく、『遠い昔のおまじない』、『あんまりな嘘』、『魚』といったフレーズが何度か登場することも、ご留意いただきたい。


……にしても多いように思ってしまうのは自分だけであろうか。

 そしてその後の作品でも、米津玄師は『愛』について様々な形で歌う。



◆03:連綿と続く『愛』探しとその変化


 アルバム「YANKEE」の前にリリースされた「MAD HEAD LOVE / ポッピン・アパシー」という両A面シングルがあるのだが、私はこの「MAD HEAD LOVE」こそ米津玄師の「裏ベスト・ラブソング」だと思っている。

 何しろ歌詞が『ベイビーベイビビアイラービュー』だ、『アイ・ラヴ・ユー』と表記しないところに米津玄師のセンスを感じるし、『愛とも言うその暴力』や『疲れ果て果て果てど愛している』なんか最高に冷笑的で現実的で、下手に甘っちょろい言葉を並べ立てられるより身に沁みる。

(ちなみにアルバムに収録されなかった「ポッピン・アパシー」も名曲である)


◆『どこにも行けない』より深刻なんじゃね?

 米津玄師の歌詞と言えば『どこにも行けない』が頻出するため、ネット上では、


「米津玄師、どこにも行けない」ネタ


 が色々な形で愛されており、シングル「TEENAGE RIOT」ではついに米津自身が、


『何度だって歌ってしまうよ どこにも行けないんだと』


 と犯行を認めている(違う)。

 居場所・行き場がないのは由々しき問題だし、事実私自身逃げ場がない生活をしているので『どこにも行けやしない』連呼は確かに闇を感じるが、しかし個人的にはやはり「diorama」の『愛されたい』インパクトが強かった。

「愛されたい」のに「どこにも行けやしない」って、おい米津、大丈夫か(三度目)。 


 一方で、続くアルバム「YANKEE」、「Bremen」辺りから、米津玄師は『愛されたい』から『愛したい』サイドに移りつつあり、個人的に「俺の三十代のアンセム」と化している名曲「LOSER」ではついに、ようやく、


『愛されたいならそう言おうぜ 思ってるだけじゃ伝わらないね』


 と発信したのである。

 何だろう、なんか「ここまで長かった」感が、少なくとも私にはあった。

 


◆04:「POP SONG」で遂に! と思いきや、「愛されよねぴ」は歌い続ける


 私は普段、米津玄師を「米津さん」と呼んでいるのだが、「死神」のMVを見た時ばかりは、常田大希だったか綾野剛だったか、どっちか忘れたが、彼らの影響で思わず、


「よねぴ!!!!!! よねぴがいっぱい!!!!!」


 とか何とか口走ってしまった(引かないでください)。

 諸事情でライブにはまだ行けていない、というかコロナ前のライブはチケットをおさえていたのだが、コロナでキャンセルとなった。

 その代わり、シングル特典に付いてくるDVDやBlu-rayはディスクが焼けるんじゃないかってくらい見た。


 特に「LOSER」のサビ『僕らの声』に対する大歓声、熱狂は画面越しでも身が痺れるほどエモい。


 そう、米津玄師はもう充分愛されているはずだ。


 そうこうしている内に魔曲「POP SONG」がドロップされた。

 初っ端から『ちゃらけた愛』、『誰だって愛されたい』とかまた、もーうよねぴってばまだ……と思いながら聞いていくと、最後に、


『愛を歌っておくれ』


 と、いよいよこちらに愛を要求してきた!!!

 よっしゃ、他ならぬ米津玄師のためならいくらだって歌って——


『それもまた全部くだらねえ』


——歌う気満々だったのに食い気味にディスるの?!


 長々と書いたが、以上が2022年7月19日現在における自分の、米津玄師の歌詞における『愛』考察(には及ばんか)である。

 

 願わくば、米津玄師がまた『愛されたい』と悲痛に歌わないことを祈りつつ失礼したい。だって愛されてるからね、「愛されよねぴ」だからね。

                                   【了】

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