拝啓、10年前のあの人へ

茄梨瑞樹(Mizuki.

プロローグ

10年ほど昔の話。

その頃の私はちょうど高校生くらいだった。

余る気力、溢れる希望、大切な友人たちと過ごす当たり前の日常。

片田舎の小さな学校と、その町の中でたくさんの思い出を作った。

ちいさく縮こまった今では考えられないほど大きく、広く飛び立てそうだったあの日々。


今でも過る。

未練、と言われればそうだろう。


1人の親友と、1人の友人…もとい好きな人が居た。


親友の名前は凪。父は都会でそこそこ大きな会社で役員をしており、母は生まれが裕福な家庭の生粋のお嬢様だったらしい。

母が病気で無くなり、家のことは自分でやるか近所に住む5歳年上の従兄がやってくれていて、深夜まで働く父とはあまり会話がないとよく嘆いていた。

そんな彼女は顔立ちも整っていて、可愛らしく幼めの顔のつくりに低めの身長等も相まって、彼女に想いを抱く同級生もちらほらいた。

だけど彼女は、恋人なんて要らないと言いながら私によく愚痴を溢していた。面倒だし、今が楽しいし、それでいい、と。

そんな彼女に私も特に何も言わずに、一緒に馬鹿みたいに過ごす時間がとても楽しかった。


友人の名前は航。父母共にIT系企業でバリバリ働く共働き一家で、海外出張も時折するような家庭だった。

家に誰もいない事が多く、よく皆で家に遊びに行くこともあったけど、週に数回入るホームヘルパーさんのお陰もあってか家はとてもお洒落で綺麗に片付いていた。

彼は素行があまり良くなかった。良くサボるし、教師に反抗的な態度も取る。一度だけ校内で暴力沙汰になって問題になったこともあった。

だけど私もよくサボるせいか、気は合った。

中学からの仲でしかないが、学校内外問わず1番よく一緒にいる異性は家族を除けば間違いなく彼だった。

彼も、お前となら気楽でいーや、と笑いながらよく話していたものだった。



あれだけ一緒に過ごした二人とも、話すことはもうない。

時の流れ、私の気まぐれ、その他諸々流れて消えてしまった。


あの頃と変わって、まぁるく小さくおさまって、穏やかに過ごす私の胸に時折、あのまぶしい日常が、きらきらひかる毎日が、鮮烈に突き刺さる。


ねえ、凪。

ねえ、航。


もしも君たちに手紙を送れるとしたら、私は…───────


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