第14話 永遠の安息を6

「これは……酷い状態だ……教会に持っていこうにもワシの足では移動している間に死んでしまう……」

 ストラの呼吸は酷く、足からの出血もある。

 片手のみである為ストラの拘束を解くことに時間を使ってしまう。

「急がなくては……」

 ジーンは自分の手にある杖をそっと置き、腰に付けた袋からクリスタルを取り出した。

 ストラの横にクリスタルを置いて杖に持ち替える。


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「こっそり助け出すのが最善ですけど……正直どうなるかわかりません。もしあのキリギリスと戦いになることがあれば、ストラを連れて逃げて下さい。僕が時間を稼ぎます」

 彼の申し出を断ることはできなかった。人間が蟲者インセクターと戦うという時点で相当の危険がある。余裕があったなら断っていた。だが、ジーン自身がエスピアと戦えば――いや、戦いにすらならないだろうということを身をもって知った。一方的な蹂躙をされて終わりだということは火を見るより明らかだった。ここは、任せる以外に選択肢は存在しない。

 

「それであれば……もし、ストラに何かあった場合は私が治療しよう。これでも、元々は神に仕えていた身だ、奇跡の一つくらい起こしてみせる」

 クロヌシは少し目線を下に落とし、少しの間、何も無い場所をキョロキョロと見た。そして、顔を上げてジーンへと視線を戻した。

「だったら……これを使って下さい」 

 クロヌシは自分の持つ杖をジーンの前に突き出した。差し出された杖は大きな木の根に見たこともないほど透明なクリスタルが包まれており、渦巻いた絵の書かれたコインのようなものが縛り付けられていた。

「これは触媒です。奇跡と魔術どっちも使えるので使って下さい」

 その瞳には活気があり、少し前まで額にあったシワは無い。だが、何が彼を突き動かしているかはわからない。

「だが、クロヌシくんは……。いや、感謝するよ」

 どうやって戦うというのだろう。神に祈って力を貰うことも簡単ではない。触媒も何も無い状態ではなおさらだ。彼は他に武器を持っているようにも見えない。はっきり言って自殺行為に近い。


「大丈夫です。勝算はあります、ある程度賭けにはなりますけどね……」

 さっきまで活気を纏っていたクロヌシの勢いが少しだけ無くなった。

「一つ、聞いてもいいかい? なぜ、そこまでしてくれるんだ?」

 そう問いかける彼の口角は少しだけ上がり、迷っているような間も無くこう言った。

「ストラさんが……僕の大好きな人にとても似ているから……ただ、それだけです。でも、今の僕には十分過ぎる理由なんです」



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「まさか、再び祈ることになろうとはな……」

 身勝手であることは百も承知だ。それでも、慈悲深い主は許してくれるのだろうか。

「主よどうか祈りをお聞き届けください……」

 クロヌシから借り受けた杖に温かい光が灯り、その光はゆっくりと緻密な円形を象っていく。魔法陣と呼ばれるものだ。

(信仰心などとっくの昔に捨てたと思っていた。神を裏切ったワシであっても……まだ、あわれみをくださるのですね)

 魔法陣が完成するとストラの傷へ温かい光が流れ込んでいった。

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