第22話 レンジャースーツ

 学習の合間の時間を縫うように、レンジャースーツと各種の装備を着けて、それらの操作方法にも習熟しなければならない。一歩は日中、トイレや食事の時間を除いてできるだけスーツとマスクを身につけて生活するようにした。アストロレンジャーとして選挙に出る以上、人前にはその姿で現れなくては意味がない。ベルトのタッチパッドやバーチャルキーボードを使った多重VR・ARディスプレイは意外となじみやすく、何度か試しているうちに違和感なく操作ができるようになった。

 それ以外にも、バロ研の二人は様々な奇妙な装備をレンジャースーツに仕込んでいた。

 例えば、外骨格型空気圧縮式人工筋肉パワードシステム。背中に背負うバックパックにバネとチューブ、フレームが収納されており、ボタンを押すと脚と腕に装着するパーツが飛び出してくる。これを身にまとい、バックパックの圧縮空気ボンベから加圧エアをチューブに送り込むと、チューブが人工筋肉となって装着者すなわちアストロレンジャーの筋力をパワーアップする。市役所時代にミスターが見つけてきた、とあるベンチャー企業が開発したものなのだそうだ。本来は筋肉の衰えた人の支援や介護補助、災害救援活動など多面的な場面を想定したサポートギアとして機能を発揮するものだ。

 社会に役立つ様々な先進技術や、環境への付加を軽減するエコロジカルなテクノロジーを積極的に取り入れていくのも、アストロレンジャーの戦略のひとつである。その技術分野に関心のある層の目を引き付けると同時に、実証実験を通じて改良点を探す狙いが込められている。パワードスーツは空気圧を利用するため電源が要らず、軽量で比較的安価に生産できるメリットがある。実装使用したデータは、やがての量産化に向けて開発元にフィードバックすることになっていた。

 一歩は、レンジャースーツと対になっているブーツを手に取った。

「このふくらはぎのところにくっついている、変なバネみたいなやつも、なんかそういう装置なんですか?」

「ああ、それね。それはオレの私物」

 田野親方が涼しい顔で答える。

「私物?」

「選挙によく出てた発明王がいただろ。あの人が都知事選に出たとき、新宿でそれ履いてピョンピョン飛び跳ねながら名刺配っててさ。面白れぇなあ、と思って買ったんだよ。高かったんだよなあ、それ。でも全然履く機会なくてよ、ちょっと手ぇ加えてレンジャーの装備にくっつけた」

 がっはっは、と田野親方は大声で笑った。試しにブーツを履いて、ジャンピングシューズと呼ばれるらしいそれを展開すると、15センチほど身長が伸びた。その場で跳びはねてみると、少ない力で思いのほか跳躍力がある。一歩は危うく天井に頭をぶつけるところだった。


 討論会前日。ゴンの秘密基地で、主要メンバーによるミーティングが行われていた。出席者は一歩、玲奈、ミスター小尾、バロ研の宇堂、そして甲斐の五人だ。表看板のカレーハウスも営業中で、いまは諏訪部という女性スタッフがメインで切り盛りしている。てきぱきした優秀な女性で、あまり繁盛していない店とは言え、調理から配膳、会計まで一人でこなす。聞けば図書館司書の資格を持っているらしく、秘密基地内の資料整理にも一役買っている貴重な人材だ。

 その諏訪部が、鏡の忍者扉を少し開けて、隠し部屋に顔を覗かせた。

「あの、ジャッカー帝国のカイゼル総統がお見えです」

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