「オタクはキモいから近寄らないで」とこっぴどく幼馴染に振られましたが、なぜか学園の聖女様と付き合うことになりました~僕の発明品が魔術学会で革命を起こしているからヨリを戻したいと言われても、お断りです~
アトハ
1. 失恋
「え、キモ……。近寄らないでくれる?」
それが僕の幼馴染――エリシアの第一声だった。
魔術学院の放課後の教室で。
僕――カインはエリシアにばっさりと切り捨てられ、人生初の失恋をした――
***
今日はエリシアの誕生日だ。
エリシアとは僕の幼馴染であり、学校にはファンも存在する美少女である。
すらっとしたモデルのような体型に、燃えるような赤髪ツインテールが特徴的な女の子だ。
僕はエリシアに誕生日プレゼントを渡すために、こっそり彼女を放課後の教室に呼び出していた。
「プレゼントは何にしようかな。
今年から本格的にダンジョン攻略が始まるのに、エリシアはあんなに薄着で危なくて――そうだ。身を守るために召喚獣をプレゼントしよう」
悩みに悩み、僕はとっておきの魔道具を開発することに成功した。
どんなときも彼女を守ってくれるように、と願いを込めた14年の人生で最高の出来を誇るプレゼント。
僕はエリシアに人工生命体――守護獣をプレゼントすることにしたのだ。
(見た目は犬なんだけど――)
(ううん。エリシアは犬が好きだって言ってたし、きっと喜んでくれるよね)
ここ数日は、寝る間を惜しんで魔術式を構築してきた。
すべてはエリシアが喜ぶ姿を見るためだ。
もし受け取ってくれたなら、告白しよう――そんなことすら考えていたとっておきの一品。
そんな誕生日プレゼントを前に、エリシアはあろうことか……、
「はぁ? 魔術オタクの陰キャが、わたしに告白? 無いわー、本当に無いわー」
軽蔑しきった目で、僕を見てきたのだ。
さらにはエリシアの後ろでは、
「ぎゃははは、まさかオタクくんが、本当にエリシアちゃんと付き合えると思ったの?」
「それは思い上がりすぎ! ぎゃははははは!」
「万に一つも、あり得ないでしょう!」
「ちょっと、本当のこと行ったら可哀想だって!」
エリシアだけを呼び出したはずの教室には、大勢のクラスメイトの姿があった。
誰もが僕の方を見て、馬鹿にするような笑みを浮かべていた。
……地獄だった。
「エリシア、どうして? あんなに僕の発明品を褒めてくれたじゃないか」
僕が魔術学院で不人気の発明科に進んだのも、すべてはエリシアを喜ばせるためだった。
彼女の笑顔が見たい一心で勉学にも打ち込んだし、今日まで頑張ってきたのだ。
それなのに、それなのに――
「え~。だって、気持ち悪いんだもの。なんなのそれ?」
「え? 犬だけど……」
昨日の夜中、ついに生み出すことにした人工生命体。
犬を模したもので、手触りにもこだわった一品だ。
護衛目的の戦闘能力だけでなく、もふもふの毛並みは癒やしすら与えてくれる。
「それが気持ち悪いって言ってんのよ! 魔法陣を紡ぎながら、いっつも気味の悪い笑みを浮かべて――ほんとうに気持ち悪い!」
「それじゃあ……。いつも僕の発明品を見て喜んでくれてたのは?」
「え? だって原材料をバラせば、良いお金になるし。今回もそうしようと思ってたのに……、あまりにも気持ち悪くて耐えられなかったのよ!」
「それじゃあ、今まで僕のプレゼントはバラバラにされて売られてたの?」
丹精こめて作ったプレゼントの末路を知らされ、あまりにもショックだった。
「それに今日は、『デビルシード』の最新型の魔道具の発売日なのよ。
こんなところで、あんたに構ってる暇はないの」
エリシアがうっとりとそんなことを言った。
恋する乙女のような表情で口にしたのは、新進気鋭の魔道具ブランドの名前だ。
(え? デビルシードって、僕が立ち上げた商会のことだよね……)
(なんで今、そのことを?)
「もちろん知ってるよ。これはデビルシードに卸す前の、正真正銘の最新作で――」
「はあ? あんた、まだデビルシードの創業者を騙ってるの?」
騙ってるも何も、すべては事実だ。
エリシアにはそのことを何度も話していた――いつも適当に聞き流してたのは知ってたけど。
まさか信じられてすらいないなんて、思いもしなかった。
「あんたなんかが、デビルシードの創業者な訳ないじゃない!
きもっ。まだそんな嘘を付いてるの? キモすぎて鳥肌立ったわ今……」
エリシアが両腕をさする。
「それじゃあエリシアが、今まで僕の発明品を褒めてくれたのは……?」
「あんたから1ゴールドでも多く搾り取るために決まってるじゃない!
ふふっ、少しは良い夢が見れたでしょう?」
騙してきたことを悪びれることもなく、エリシアは意地の悪い笑みを浮かべた。
隣りにいた金髪のチャラ男が、エリシアの肩に手をおいた。
エリシアの方も、満更でもない様子だ。
「私――ジーくんと付き合うことにしたから」
「え……?」
「そういうことだから。悪いな、オタクくん!」
チャラ男が、勝ち誇ったような笑みを浮かべて僕を見た。
典型的な陽キャで名前はたしかジオルド――なぜか僕を目の敵にしており、いつも嫌味を言ってきた男だ。
「その魔道具を弄る趣味――いい加減やめた方が良いわよ。気持ち悪いもの」
そう言い残しエリシアは去っていった。
クスクスと笑いながら、クラスメートたちも去っていく。
(そうか。そういうことだったのか……)
ようやく僕は悟る――この場は、僕のことを笑い者にするためだけに設けられたのだと。
エリシアは今日、僕が告白することを読んで、仲の良いクラスメートと馬鹿にするために、こうして集まっていたのだ。
「そんなもの弄ってる分際で、エリシアちゃんと付き合おうとか本気だったのか?」
「あっはっは。まじでウケルー!」
「身の程わきまえた方が良いって。ぎゃっはっは!」
そんな罵倒を浴びせられ、用意したプレゼントが蹴り返される。
犬を模した魔道具は、く~ん……、と悲しそうな声で鳴いた。
さんざん僕を罵倒して満足して、クラスメートたちは教室を去っていった。
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>>あとがき<<
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