クローゼットの女

うにどん

本編

 私には社内恋愛の末、結婚を約束している恋人が居る。

 だけど、その恋人とは今年の春、彼が地方の新しく出来た支店に転勤する事になり遠距離恋愛に。


 私は私で新人の教育係になった為、忙しい日々を送ることになり、彼も支店の中心人物として忙しい身、中々会いに行けず連絡だけは取り合う状況だったけど、七月の三連休を利用して私はようやく彼の元へ遊びに行くことが出来た。

 彼は住んでいるマンションは20年前に建てられたマンションらしいけど何回も改装しているらしく、部屋は綺麗で中は広かった。彼曰く、家賃もそこそこ安いとか。


 私は部屋を一通り見るとベッド脇のクローゼット近くに私の荷物を置こうとしたら。


「ベッド脇のクローゼットは絶対に開けるなよ。整理できてなくてクローゼットの中がグチャグチャなんだ」


 と彼が言ってきた。

 その時は私は特に気にすることなく、解ったと返事をし、その後は久しぶりのデートも兼ねて外食しに行った。


 久々のデートに浮かれ、外食先でお酒を多く飲んだ私達は、その日の夜は早々に寝ることにした。

 だけど、エアコンをかけているものの蒸し暑く、また慣れない場所だったからか私は中々寝付けなかった。

 寝付けず、体制を変えようとゴロリと寝返った途端、ビシリと金縛りに遭った。

 始めての金縛りに隣で寝る彼に助けを求めようとするが上手く声が出ない。

 どうしよう、どうやって金縛りを解こうと考えたとき、ふと視線を感じた。視線はベッド脇のクローゼットからだった。クローゼットが不自然に少し開いているのが見えると頭の中で警報が鳴り響き、見てはいけないと頭で解っているのに目は自然とクローゼットに向けられていた。


 目を向けた先、クローゼットの視線の正体は女の生首だった。


 ウエーブ掛かったロングヘアーの女の生首がクローゼットから恨めしそうに私を睨んでいた。


 私は小さくヒッ! と声を上げると、生首はスーっと消え、それと同時に私の金縛りは解けた。


 翌日、その事を彼に話すと。


「変な夢を見ただけでしょ」


 と相手にされなかった。


 私も私で彼の言うとおりだと思って、夢だと思うことにした。それよりも、久しぶりの彼とのデートを楽しむことを優先する事にしたのだ。


 その日は近辺の観光地に行き、遅くまで遊び歩いた。当然、遊び疲れた私達は昨日と同じように早々に眠りについた。

 昨日と違い、私はベッドに入るやいなや眠気に襲われ、眠った。


 深夜、私は寝苦しくなり目を開けると。


 昨夜、クローゼットから私を睨んでいた女と目が合った。


 女と目が合った瞬間、また金縛りに遭い、逸らしたくても逸らせない状況に私は声を上げることも出来ず、女は昨日と同じように特に何もするわけもなく私を睨むだけ。

 私は心の中で女が消えるのを願った。どれくらい時間が経ったのだろう、女は口を動かし、私にこう言った。


――お前さえ居なければ。


 そう言って、女は消えていった。


 私は女の言っている意味が解らず、金縛りが解けた後も動くことは出来なかった。

 ようやく動けるようになった頃、私はクローゼットに何かあるのではと考えた。

 彼はゴチャゴチャしてるからと言っていた、もしかして、クローゼットの中に私には見せられないものがあるのではと。

 私は彼を起こさないようにそーっとクローゼットに近づき、開けた。


 クローゼットの中身は綺麗に整理整頓され、彼の仕事着と共に女性物の服が数点入っていた。


 これを見た私は彼に置き手紙をし、自分のマンションへと帰った。


 簡潔に言うと彼は浮気をしていた。


 朝起きて居なくなっていた私と置き手紙、開けられたクローゼットを見て察した彼は私に電話をかけてきた。

 開口一番、どうしてクローゼットを開けたんだと怒鳴ってきたが私が浮気してるって認めるのねと言うと黙り込み、しばらくして浮気していることを認めた。

 周りには喧嘩別れしたという事にしてほしいと彼に懇願され、早く別れたかった私はそれを了承、こうして、私は彼と別れた。


 それから一ヶ月後、彼が浮気相手に刺された。


 人伝で聞いた話だが、彼の浮気相手は上司の奥さん、既婚者、つまり不倫していたのだ。

 上司に気に入られた彼はよく家に招かれていたらしく、その縁で関係を持ったとか。

 私と別れた後、事の重大さに気付いた彼から別れ話をされ、それを嫌がった浮気相手が彼をその場で刺したらしい。

 どうも別れ話をされると薄々勘付いてたようでナイフを隠し持っていたそうだ。

 彼女は捕まったとき。


――ようやく追い出したのに。


 と悔しそうに呟いていたという。


 それを聞いて、私は奥さんがどんな人なのか興味本位で訊ねると、以前、私が務めている支店で働いていたらしく、彼女と同期だったという先輩から結婚前に撮ったという写真を見せてくれた。

 写真を見た私は、やっぱりと思った。

 だって、彼女の顔は私を睨んでいた女の生首と同じ顔だったからだ。

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クローゼットの女 うにどん @mhky

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