【Ex-秋028】かみさまにつきみばーがーをささげる

【かみさまにつきみばーがーをささげる】


「――神は言った。月見バーガーを捧げよと」


「何処の神だ。お前じゃないよな」


秋祭りが終わり、平和な日々を過ごしてきた彼の前に現れた”おきつねさま”は神妙な顔で告げた。

何処かで聞いたことのあるフレーズである。少女の姿をしている”おきつねさま”は本日、着物を着ていた。秋の着物だ。

”おきつねさま”は何度も首を横に振る。


「獅子舞を捧げたところの神様ですよ」


「マジか」


「マジです」


部屋に帰れば”おきつねさま”がいる光景にも慣れてしまった。

月見バーガー、それは某ハンバーガーショップから始まったと想われる。中に卵が入ったハンバーガーだ。

獅子舞をささげたところの神様で彼は理解する。理解はしたのだが、


「秋祭りで、酒とか、米とか、置いただろう」


幼少期から彼が住んでいるこの山間の地区にある一番大きな神社で、先日、獅子舞が奉納された。彼も一部頑張った。

獅子舞と言うのは何人もで獅子をやる。連日練習だ。奉納をするときは地区の住民が集まる。賑やかだ。

地区でとれたブランド米、地区で作ったブランドの酒を捧げていた。ブランドばかりついているのは世の中はブランド時代だからである。


「私が月見バーガー美味しいって言い続けたから」


「お前のせいか」


「獅子舞の練習の時だって青年団の人とかバーガー美味しいとか言ってたし!」


神はいる。

存在している。

”おきつねさま”だって存在しているのだし、神も存在しているのだろう。逢ってみたいとか思わないが。逢うのは怖い。

確かに会話で月見バーガーが美味しい季節とか話していたのだが、聞いていたのか神となる。


「……捧げないとどうなるんだ」


「神様が拗ねます」


「それだけか」


「それだけ」


「この地区が不作になるとか、そういうことは」


「……ないはず」


自信がないようだ。

どんな神様が祭られていたか……彼は想い出そうとしたが想い出せない。危ない神様ではないはずだ。動画とかで出てくるゲームに出てくるような

古の神とかではないはずである。ないはずと”おきつねさま”は自信なく言っているが、性格の問題とかあるのだろう。


「買ってくるから」


「ありがとう。私の分は今回はいらないので。三種類お願いします」


「三種類?」


「三種類。それと限定ナゲットとパイと」


彼の住んでいる地区から一番近い……とはいえ車で行かなければならないが……ハンバーガーショップでは今年の月見バーガーを

三種類売っていた。限定のいつもとは違うソースのナゲットや、限定のあんこが入ったパイも売っていたのだが、


「神様、食いすぎだろう」


さすがに彼は叫んだ。




仕方がなく、彼はハンバーガーショップに行って月見限定メニューを購入し、自分の分を少しだけ買った。資金については”おきつねさま”が、

神様から貰ったとお札や小銭をくれたがもしかしなくても賽銭箱じゃないだろうかとなる。あの箱は鍵がかかっているが、出そうとすれば出せるかもしれないとか想ってしまう。

帰宅してから散歩に行ってくると家を出て神社に行き”おきつねさま”に言われた通りに賽銭箱の裏に買ってきた月見バーガー一式を置いた。

神様を見ないのかと言われたが、遠慮をしておいた。


「喜んでいたよ。かみさま」


「それはよかった。村とか滅びないですんだ」


「嫌だよ。月見バーガーを捧げないと滅びる村なんて」


「お前がそれを言ってどうするんだよ!?」


彼の部屋にて驚きながら言っている”おきつねさま”のしっぽや耳が揺れていた。冗談で言ったのだが、冗談とは受け取らなかったというか、

月見バーガーをささげないことによって滅んでしまう村だとさすがに酷いとなってしまう。かといって人間をささげなければ滅びるとかでも困るが。


「昨日は出かけてたでしょ。隣の隣の市ぐらいに」


「父さんの地区起こしの話を聞きたいっていうのでセミナー? らしきものがあって、ついでだからついて行ったんだよ」


高校生である彼は移動手段が少ない。と言うのもこの都市、電車が微妙に通っていないところがあるので移動手段は車が一番というところがある。

自転車も使えないことはないのだが、体力がかかりすぎた。父親がセミナーで教える方に回るというのであまりそっちの市には行かないと言ってついて行ったのだ。

彼は紙袋を二つ、”おきつねさま”に渡した。


「これは」


「某大きすぎるメニューを出す喫茶店の月見バーガーと別のハンバーガー店のバーガー。あっちにはあるから」


「やったー!!」


「内緒にしておけよ。神様に求められてもこっちは手に入れるのが大変だからな」


生贄より手に入れるのは楽だけれども、それでも高校生である彼の、移動手段が限られる彼にとっては手に入れるのが大変だ。

どちらにしようかなと別のハンバーガー店のバーガーを”おきつねさま”は取り出した。

紙にくるまれたハンバーガーが出てくる。


「こっちの月見バーガーはゆっくり食べる」


「温めてやるから貸せ。電子レンジがあるし」


「カフェの方?」


「家は家を改装しているカフェだからな」


彼の家は古民家カフェであり、この古民家に彼とその一家は住んでいる。電子レンジを借りるときは台所に行かなければならないが、台所は

カフェの台所でもあった。待っていろと彼は”おきつねさま”をおいていく。

下に降りれば母親がケーキの準備をしていた。


「運ぶの。手伝うよ」


電子レンジにハンバーガーを放り込んで操作をして、適度に温める。この店は遠くからも客が来るがメインはご近所さんたちだ。

何せ、この地区のこの周辺のカフェはここぐらいしかない。


「足を滑らせた爺様をすぐに発見が出来て」


「こっちは野菜泥棒がすぐにつかまって……神様のお陰かしら」


チョコレートケーキを二つ運びながら彼はご近所のおばあちゃんたちが言いあっているのを聞いた。


(まさかな……)


真偽を確かめようにも確かめられない。

月見バーガー三種類+パイやらナゲットやらのお陰かとなりながら、彼はお待たせしましたとチョコレートケーキを運んだ。



【Fin】

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