【冬037】冬に君と別れ
【冬に君と別れ】
生活必需品を買いにスーパーに寄ったらハロウィンの商品を売っていたかと想えば、それが終わって、クリスマス商品となっていた。
学校に通いつつも私は毎日を過ごしていた。が、平穏? は続かない。
「親族会議……」
憂鬱だとなる。
私は家の方に呼び出されて、親族会議に出されることになった。私の父と伯父が殺人事件の被害者になってから、日が過ぎた。
世間は殺人事件を忘れているようで、覚えている人は覚えている。会社の方は身内がどうにか動かしていた。
加害者の方はというと、私の父と伯父に被害を被った人である。現在は服役中だし、逢ったからと言ってどうにもならないから会わない。
犯人の母親を父と伯父が騙したり、嘲っていた。世間は加害者の方に同情的だったのだ。よく自業自得とか自己責任とか言われた。
これが通り魔とかだったら同情心はあったのだろうかとはなる。
親族会議は本家で行われる。祖父の屋敷だ。久方ぶりに訪れた。お金持ちの屋敷といったような西洋風の建築である。
「会社の方をどうするかとか、一族も」
遠縁のおばが私に話しかけてきた。
家にいるだけ生活には困らなかったのだが、噂によると会社の方が危険らしい。
伯父も父もやらかしたところはあったのだが、会社の経営に関してはそれなりの腕前はあったようだし、資産も増やしていた。
「会社は伯母さんが継いだような」
「継がされたというか、その話も会議で話すわ」
優しく遠縁のおばは教えてくれた。
伯父に何かあったら父が会社を継いだのかもしれないが、父は死んでいる。親族は好きな人と嫌いな人、どちらが多いのかと言えば嫌いな人が多い。
屋敷にやってきたのは伯父の葬式以来である。葬式については父と伯父、合同でやったのだ。
部屋の一室に案内をされて、手持無沙汰に私は多機能情報端末を操作した。インターネットの検索ページに『洪水で荒れた町がいきなり花畑に』と書かれていた。
ごくたまにニュースを騒がせていたいきなり植物が生えてくる事件は頻度が上がっている、気がした。
私含めて、事件に慣れてしまっているところはあった。
そして想い出すのは彼女のことだった。
「今はどこにいるんだろう」
最後に会って遊んだ後で彼女とは会っていない。夏に会い、秋にもあった彼女。
植物をはやす不思議な力を持っていて、どうしてそんなことが出来るのかと聞いたことがあったが、出来たからとしか答えなかった。
「どこにって誰のこと?」
「え?」
案内された部屋の椅子に座って、多機能情報端末を扱っていた私はいきなり聞こえた声にびっくりして顔をあげた。
そこに彼女がいた。
「誰?」
「貴方」
「ここにいるよ」
冬物のワンピースを着た彼女がそこにいた。そのワンピースに見覚えがあった。雑誌の表紙で出ていたワンピースだ。
「どうやって入ってきたの」
「入ろうとすれば入れたよ。ここの家の人たち、貴方を除いてみんな苛々しているね」
苛々しているのも無理はないというか一族をこれからどうしようかみたいな話になっているのだ。生活が懸かっている。
「母さんもそうなのかな。久しぶりに会うけど」
「? 母さん? 貴方を結婚させようとか言ってる?」
「結婚って……結婚相手はいないけれど自分で選びたいけど、家絡み? 生贄にされるんだろうか。私」
生贄と言うと聞こえは悪いが、親族の誰かかもしれないが私の進路が勝手に決められようとしていた。結婚はどうだろうとか言われても、
結婚をする気はない。出来るけど、年齢的に。
「身勝手な人たちばかり?」
「だと想う」
「嫌?」
「嫌」
だと想うとしたのは、全員がそうではないからだ。遠縁のおばは優しい方だし。全員ではないが殆どは身勝手である。
父や伯父が死んだときの葬式だって荒れていた。言い争いは止まなかったし、遺産はどうするのかとか会社はどうするのかとか
話すことは今と変わりはない。
その時のことを思い出していた私は彼女の変化に気が付かなかった。
「それなら、ここも含めて壊しちゃおうか」
認識が追い付かなかった。
彼女が足を踏み鳴らした途端に床からいきなり椿の樹が生えてきた。何本も。何本も。赤い椿に白い椿。花をいっぱいつけた椿たちが
次々と屋敷を串刺しにしている。外から悲鳴が聞こえた。
「ここも含めて?」
「そういわれているの。この星に。死にたくないから人間を殺そうって」
超展開だ。
この星と言うと地球のことだろうか。地球が死にたくないから人間を殺そうと言っていて彼女はそれを実行したようだ。
人間を殺すのかとなるが、人間が暴れてて環境破壊をしているところはある。最近は環境に負けているけれども。
「止めて」
私は彼女の肩を掴んだ。
彼女の動きが止まって私の方を見る。
「そっか。貴方。カウンターだ。わたしを、ころせるひと」
「ころせる?」
「始めて会った時に不思議な感じがしたけれど、貴方のことは覚えていられたけれど、そっか。私の対」
轟音が止まない。
彼女の方は勝手に納得していて、腑に落ちているのだけれども私は置いてきぼりである。
「どういう」
「星が生きるか人間が生きるか。星が死ぬか人間が死ぬか。わたしたちで代理戦争をするの」
赤も、白も、どちらでも椿の花が、落ちた。
大量の雪が降っていた。
私は生き延びていた。屋敷の方は滅茶苦茶になっていたし、周囲にみんな椿の木が生えていて、椿の森となっていた。
大きすぎる椿によってこの場は蹂躙された。
寒いとか、起きたことがぶっ飛んでいるとか、貴方は何、とか、状況が追い付かないけれども、
「やらないといけないわけだ」
「そうだよ。生き延びたかったら」
「春までに決着をつけよう」
「春には決着。分かった」
「正直、頭が追い付かない」
「ごめんね。わたしがのんびりしていたせいもある」
そこを謝られても、となるが、冬と椿はこの場を支配していく。
春までにとしたのは、ひとまずの目標だ。どうも、彼女は本気みたいだし、地球が死にたくないから人間を殺すというのも
本当なのだろう。麻痺した頭が、起きたことに追いついて悲鳴を上げる前に言っておく。
「まずは追いつくから」
「待ってる」
彼女の姿が消えた。
私は彼女と、冬に別れた。
【Fin】
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