【冬031】冬が始まらないでほしかった~雪との闘い~

【冬が始まらないでほしかった~雪との闘い~】


小さいのころ、雪が降るのが楽しみだった。

ここは雪が降ればそれなりに積もる場所だ。雪が降れば雪で遊べる。プラスティックのそりにランドセルを積んで引っ張って、

小学校に登校をして、帰りはそりに乗って帰ったりすればよかったのだ。

良かったのだが、


「雪……許さない……雪」


「頑張ろうね。雪かき」


高校生になった私はプラスティックのスコップを手に膝の上まで積もっている雪を掘っていた。

隣の家……と言っても徒歩数分かかる……の同級生である友人も手にはスコップを持って雪を掘っている。住んでいる地区は銀世界となっていた。

ロマンティックはない。あるのは雪かきをしておかなければ車は出せない、移動もできない。何より雪がまた降ったら閉じ込められるというものだ。

雪は余り降らない時もあるのだけれども、今年は降るほうだ。

この田舎を雪が襲う。


「除雪車が来てくれれば」


「細い道は無理だし。ご近所の除雪機を借りてくるぐらいで」


除雪車も来るのだ。が、この除雪車。細い道には入ることができないし、除雪車を運転する人のテクニックによって、

こちらが苦労するか、楽が出来るかが決まってくるのだ。下手な人は下手なのである。

雪というのは降ってすぐはとても柔らかいのだが一度溶けたりするとガチガチに固まる。固まった雪に対抗するには

金属のスコップがいるのだ。

なお、除雪機もある家はあるが高い。ご近所で持っているところはあるが。だから雪に対抗するにはアナログ手段、ひたすら掘るしかない。

他にはスノーダンプとかあるけどね……押したら雪がそれなりに集められる道具。


「貸してほしい。まずは手で頑張るけど」


雪かきを手伝うことになるのはうちの両親は高齢者の一人暮らしの家の雪かきを手伝いに行ったからである。

この時期になるとテレビでは高齢者が屋根の上の雪かきをしようとして落ちて死亡したとかが聞こえてくる。幸いにもこちらはそこまでは雪が降らないのだが、

交通の邪魔になるぐらいには降る。

本日は休日。

出かけようにも雪で出かけられないため、私たちは雪かきをすることにした。




サブスクリプションで聞く音楽は私の音楽の傾向を覚えてこれがおすすめとか教えてくれる。

タブレットPCで私は冬の音楽セレクションというのを選んで聞くことにした。雪かきはやれるところはやった。


「暖かい」


「エアコンに感謝」


友人である彼女を招いて、私達は二階の自室で温まっていた。冬の定番の音楽家が冬が始まるよとか歌っているが、


「恋人と一緒に過ごしたいじゃなくて雪かきをしようって歌を作ればいいのに」


歌に恨みごとを言いたくなってしまうのは私にとって雪かきは大変だったからだ。

雪かきは雪を一か所に集めるのだが、雪の降り具合や場所によっては今度は捨てるところがなくなってしまう。川が近くにあれば川に雪を放り込めば

解決なのだけれども我が家にはないため、邪魔にならないところにかき集めておくしかない。


「雪合戦とかならまだ」


「小学校の頃はやっていたな」


私と友人はコタツでに入るエアコンの温風を受ける。


「勉強の方はどう?」


「何とか推薦で大学は行ける……はず。そっちは」


「私の方も何とかなるよ。その前に運転免許だけど」


「それもいるよね」


運転免許は在学中に取ることを勧められる。この地区は車がないとどうにもならないところなのだ。

買い物にも行けないし、学校にも行きづらい。それに在学中に通うと自動車学校が値引きをしてくれる。安くはない買い物だが、

無ければ人権にも生活にもかかわるのだ。


「実家から出て一人暮らしだし」


実家から出してもらえるというのがありがたいことではあるのだけれど。私にしろ友人にしろ、住み慣れたこの地区を出て、

大学に通うというわけで、大学に行くということは一人暮らしをするための資金やらかかるわけで、

もうじき、私たちは学校を卒業して、うまくいけば新生活が待っている。その前に冬を乗り切らないといけないわけだが、


「ちょっといるかい!」


「誰だろう」


飲み物でも持って来ようかとしたときに近所に住んでいるおばちゃんの声を聴いた。部屋を出て階段を降りる。


「こんにちは」


「おはよう。丁度良かった。古民家カフェの道でハマっちゃった車があってね。車を出すのを手伝ってほしいんだけど」


「あそこはまりますよね。分かりました」


おばちゃんは五十代ぐらいだっただろうか覚えていないけれども。

古民家カフェはこの田舎集落で人を集める人気スポットだ。ご近所さんもお茶をしに来るけれども、地区の外からも客が来る。

あそこにたどり着く道は細いため、慎重にいかなければならないのだが、雪かきをそれなりにしておいたとはいえ、

恐らくはタイヤがはまってしまったのだろう。これが雪の恐ろしさだ。

一度二階に戻る。


「聞こえていたけど、手伝おうか」


「レッカーが来られるかどうかにもなるからね。行ってみようか」


慣れたものである。

雪道なんてスノータイヤ、もしくはタイヤにチェーンをつけて慎重に運転はするものの、失敗する人はしてしまうし油断はならない。


「……小学生の頃は雪だーとかはしゃいでいたけれど、今はそうでもないかな」


「もしかしたら、一人暮らしをしたらはしゃぐかも」


小学生の頃は二人で、近所の他に子供も巻き込んで遊んだ。子供はかろうじているのだ。かろうじて。

今では雪は厄介ものなところがあって、交通機関が遅れたり、こうして車の救援に向かったりしているけれども、

私も友人も小学生のままではいられなくて、高校生になってこれから大人に、外側は着実に成長して、もしくは老化していく。


「そうなったら、いいかも。……長靴、干しておいてよかった」


「ほぼほぼ、室内干しになるものね」


この場所は冬になると空が高確率で灰色だ。つまりは太陽が差さないというわけであり、洗濯物はほぼ室内干しとなる。

春が来ればそうでもないが、やや遠い。そこにたどり着くころには、沢山のことがまた変わっているだろう。

寂しいけれども。明るくいこう。

そう考えながら準備する。

私たちは、また雪への戦いに赴いた。



【Fin】

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