【秋025】秋に君と遊び
世界が終わる時というのはどんな時だと言えば、恐らくは私が死んだときだろうとなる。
恐らくが着いてしまっているし、この言い方だと私が重要人物になってしまうのだけれども、自分を大切にしなさいとは誰かが言っていた。
誰かは忘れた。
「こちら、廃墟となった温泉街でしたがある日、彼岸花が……」
自宅。たまたま付けたテレビが映像と音声を出す。
レポーターの女性が話しているのは、このところ世間を騒がせている事件の話だ。
廃墟や建築中のビルやらあちこちで、花が一斉に咲き誇ったり、樹が建物を貫いたりしているのだ。髪の長い女性リポーターが、温泉街を取材していた。
昔はとても発展していたのに今では時代に乗り遅れたせいで、廃墟になってしまったのだけれども、利権が絡みすぎていて、
誰も何も手を出せない温泉街にある日突然真っ赤な彼岸花が咲き誇って、元、宿を貫くように咲き誇っていたのだ。
誰が植えたかはわからない超常現象としていたが、あちこちで起きている。彼岸花だけではない。夏の時は朝顔だったり、百合だったりした。
百合の種が飛んできたのところではないし、彼岸花だってそうだろうとなる。
ニュースを見終わってから、私はテレビを消した。
学校へと行くことにする。かつて、父母と私で暮らしていた家ではあるが、今では一人暮らしだ。母は母方の実家に帰っている。
父と父方の伯父が殺人事件の被害者になっていたが、犯人にとっては二人は加害者と分かり、家の方は大変だったのだが、以前よりは落ち着いてきた。
高校生である私は、高校だけは卒業をしておいた方がいいと母方の祖父母には言われている。度重なる嫌がらせやらマスコミの取材やらで、
母は実家に避難しているが、私はと言うと家を捨ておくわけにはいかずに、というか母方の家にいても気持ちが沈むだけなので家にいた。
「こんにちは。また会えたね」
「――夏の時の」
私の目の前に彼女がいた。
夏、別荘に避難していた時に出会った彼女だ。とても印象が深かったのですぐに想い出せた。夏の時と変わらない服装をしていた。
「貴方、この辺りに住んでいたんだ」
「家が近い」
「わたしは適当に歩いていたらここについたの。これからどこに行くの」
偶然だが、逢えるとは思っていなかった。
「学校。騒がしくて行きたくはないけれど」
「あちこちにあるあの建物か。行きたくないなら行かなければいいんじゃない」
彼女はふわりとした納得していたが、学校自体を知らないようなそんな言い方だ。
「単位がいる」
「たんい」
「ポイント? 集めておかないと大変なの。……今のところは減らしても何とかなるけれども」
父の事件のせいで学校に通うだけでもきついところはきついが、人間、殴ってもいい相手に対しては加減をしないで殴ると
いう人もいる。殴ることは大事だけれども、必要なときもあるけれども、限度というものがある。
単位については計算はしているので卒業まではどうにか通おうとはしている。
「それなら貴方の好きなところに連れて行って。知りたいの」
「知りたいんだ。……いいけど」
誘いをかけてきた。
出会って二度目の彼女の誘いに乗るのもどうかとなったのだが、私は学校に行きたくないのだろうと自分の中で結論をつける。
単位というか出席日数はまだもつ。
「何処に連れて行ってくれるの」
私は考えた。いきたいところについてだ。行きたいところは決めた。
「更地になってる」
電車に乗って、私は彼女と共に行きたいところに来たのだが、そこは更地になっていた。ここに来るまでにコンビニに寄ったら
彼女は物珍しそうにしているし、これを食べたいと言っていたので奢ったりとか電車代を出したりとかしていた。
「何があったの」
「公園。父さんと母さんで行ったところ」
両親に対してはぐちゃぐちゃなところがあるけれども、私の中で折り合いをつけたいところはあって、そのために公園に来た。
維持が出来なくなったのか、滑り台もブランコもジャングルジムもなくなっていた。
「何もないね」
「昔は秋桜が咲いていた」
公園には花壇があって、そこでは赤や白、ピンクの秋桜が咲いていた。花壇を埋め尽くすぐらいにだ。
「秋桜か」
「最近は彼岸花とか、向日葵とかあちこちに一気に咲くみたいだけれども」
「咲いているね。咲かせているね」
「なんでだろう。どうやっているんだろう」
「咲かせてくれってしているからだよ」
詩的すぎる。
花は毎年必ず咲きますとか何処かで言われていた気がする。彼岸花じゃなくて曼殊沙華か何かで、彼岸花も曼殊沙華も同じ花だけど。
彼女は笑っている。嘲笑じゃなくて楽しいから笑っているのは良い。
「父が加害者だからって限度があるんだよね」
「限度?」
「脅し文句とか。人間はやりすぎる」
この身になって分かったが、加減なくひとはやってしまうところがある。だからブレーキがいるというか、訴えるとかいる。
限度はあるのだ。限度を設けなければ際限がなくなってしまう。
彼女は笑みを深くした。
「そうだね。やりすぎちゃう。ね」
そう、彼女は呟いた。
私たちは元公園の隅の方にいたけれども、いきなり私たちがいるところ以外、全てに秋桜が映えていた。
夏に毎年やっている有名な映画だとどんぐりから樹が伸びて行ったがアレのようなものだ。赤や白、ピンク。倍速で伸びて咲いた。
「……どうやったの?」
「出来るんだ。わたしだから。わたしはそう頼まれたから」
誰にだ、となっていたが、彼女は私の手を引いた。
「ちょっと」
「遊ぼうよ。これでどうやって遊べばいいかは知らないけれど」
「……どうやって遊べばいいんだろう」
「知らないの?」
分からないことがいくつもあるけれども、私が秋桜のことを言ったから、彼女は秋桜を咲かせたらしい。
善意だろう。嫌がらせではないことは分かる。
だから。
「秋桜を眺めてから、遊ぼうか。何か思い浮かべるから」
「わーい。遊ぼう」
無邪気な彼女が喜んでいる。私は秋桜を眺めるという逃避行動に出たようで、両親のことを回想した。
秋桜は、かつての時も、そして今も、綺麗で、秋が来たのだと、季節は進むのだと、何があっても進むのだと、感じて。
寂しいようで、嬉しかった。
【Fin】
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