【夏025】夏に君と出会い
【夏に君と出会い】
私の父が伯父と共に殺されてしまったのは、夏に入りそうな時であった。
殺されたというと物騒すぎるだろうとなるのだけれども、事実なのだから仕方がない。私の家は代々続くそれなりの資産家だった。
恨みを買って殺されてしまったのだ。と言うと、何があったのかとなるのだが、伯父と父親が犯人の母親から金をだまし取ったのである。
その人は祖父と親しい人だったから犯人の母親の人は許そうとしていたのだけれども、伯父も父親も見下していたらしい。
らしいというのは伝聞だったからである。
「殺されて当然の人たちか」
テレビドラマの連続殺人事件の被害者のように伯父と父さんは殺されて、探偵が出てきて事件が解かれたようだがこれにより、
二人の悪事も明らかになり、次々と伯父達の悪事が明らかになっていった。
私の周りも随分と変わった。
それなりのポジションにいた私はいきなりどん底になってしまったのだ。世間からすると私は父親を殺された可哀想な被害者である反面、
ろくでもないことをやらかしたのが身内にいる者でもあった。
学校に行けば陰口は叩かれるし、私も私で授業よりも休み時間の方が大変になってしまったので、適度に休むことにした。
家の方は大変なのである。伯父は現在一族のトップだし、父さんもそれなりのポジションにいたのだが二人とも死んだ。
起こるのは血まみれかは不明だが、泥沼の争いだし、会社の評判も落ちた。
夏休み、私は私で一族の別荘がある場所へと避難した。小さなころ、両親と共に過ごした場所でもある。
私としては伯父も父親も殺された当然のことをしたと言われても、言い分は分かるがはっきり言わなくてもいいではないかとはなる。
父親が毒親ならば大手を振って当然だろうと叫べたのだが、父親は私にとっては優しい人であった。複雑である。
別荘がある場所は、避暑地で、なおかつ田舎な方であった。
蝉が鳴いている。
夏と言えば蝉だ。そして日差し。酷暑である。水分と塩分補給をしっかりとしなければ倒れてしまう。年々酷暑が強くなっているようで、
世界は確か干ばつが酷いところは酷いのだそうだ。この辺りは三十度を超えているけれども、異国では五十度近いらしい。
私の身内が殺されても、日常が酷暑でも、世界は動き続けているし、私も自殺しない限りは、あるいは殺されない限りは、とにかく死なない限りは
生きていなければならない。
昼時、黒い日傘と麦わら帽子、ハンドバッグには凍らせたスポーツドリンクのペットボトルをペットボトル入れに入れたものを持ち、
向日葵柄のワンピースにたっぷりの日焼け止めを塗った体で私は別荘から散歩に出かけた。
「久しぶりに来たけれども、こんなところだったっけ」
ソーラーパネルが増えた気がする。太陽光発電、宇宙ならば年がら年中太陽が照っているから四六時中発電が出来るあれが、
空き地に作られていた。これって下手なところに作ったら洪水とかにあったりしたら大破して酷いことになるのではなかったか。
酷暑もひどいが、土砂降りもひどい時には酷い。天気がアグレッシヴだ。
洪水が酷いとか干ばつが酷いとか、ニュースでたまに見る。たまになのは私がそもそもニュースが嫌いだからであり、
最近はもっと嫌いになったからだけれども。
日差しを日傘で防ぎながら、私は散歩を続けた。散歩をしながら、昼に散歩をするべきではなかったよなと後悔したけれども、
歩けるだけ歩く。
黄色が見えてきた。
「向日葵畑……」
辿り着いたのは一面の向日葵畑だった。
二メートルぐらいの向日葵達が一面に太陽の光を浴びて、突っ立っている。こんな暑い中を、と想うぐらいに沢山の、沢山の向日葵があった。
「こんにちは」
「……こんにちは」
向日葵畑を見ていると、目の前に私と同じぐらいの年齢の女の子が立っていた。私と似たような服装をしていた少女。
麦わら帽子を被っていた。
「これ、綺麗」
「向日葵のこと?」
「ひまわりっていうの。綺麗ね」
向日葵のことを知らないらしい。向日葵なんて誰でも知っていると想っていたのに。
わざといっているわけではなく、本当に知らないのだとなる。わざと言っている相手なんて、このところ、いくらでも見てきた。
「これ、大きな花に見えるけれど実際の花は真ん中のところにある黒いところが沢山のところ」
「そうなの? ならいっぱい咲いているけれども、もっといっぱい咲いていることになるのね」
向日葵の花は大輪とか言うけれども、向日葵の花というのは真ん中の黒いところなのである。イチゴのつぶつぶが種がたくさん集まっているのと
似たようなものだ。これを教えてくれたのは父さんだった。
「教えてくれたのは父さんで、最近、死んじゃった」
「死んでしまったの」
「私からするといい父さんだったけれど」
初めて会った彼女にいきなり言うとドン引きされるだろうなとなったが、話したかったのだ。重い女だとなる。
「それなら、いい父さんでいいんだよ」
彼女はふんわりと肯定してくれた。
私自身がその話題を避けていたし、触れてくる人は触れてくる人でろくでもなかったのだけれども、今触れられたのは楽だった。
「それでいいんだね……良かった」
良かったとしたのは誰かに受け止めてもらえたからだろう。
話ながらも私の体は汗をかいていたのでペットボトルのスポーツドリンクを飲んでいた。
「向日葵。好き?」
「好きだよ」
「もっといっぱい咲いたら好き?」
「好きだけど」
「じゃあ、そうしておく」
何がそうしておく? となったが、瞬きをしたら彼女は消えていた。残ったのは私と向日葵畑だけ。
向日葵畑にでもさらわれてしまったのだろうかとか、馬鹿なことを考えてしまったが、私は首を何度か振ると、散歩を止めて
戻ることにした。
そして私は後に知る。
あちこちで設置されたソーラーパネルが破壊されていったことを、破壊された場所には向日葵畑が出来ていたことを。
これからこんなことが沢山増えることを。
始まりは夏。
ぐちゃぐちゃだった気分が和らいだ、あの日のこと。
【Fin】
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