【夏019】夏空
「なんだっけ! ほら、あれ! 遠くにさぁ……」
「分かんないわよ。だいたい好きなら忘れないでしょう」
「うーん。ここまで出かかっているのに……。何だっけぇ」
「うぷぷ」
「なによ、急に笑い出して」
「だって、あんたハの字に眉を下げて困り顔になるんだもん。笑うわよ」
「変な顔で悪かったわね」
「ううん。面白いから良いわよ」
「変な顔を否定しろー!」
「いつも可愛いから嫌でーす」
「あら、ありがとーう」
「どういたしましてーえ」
「で、なんだったっけ? 遠くの空に」
「だから分からないって。それよか、あんた進路どうするの?」
「うーん。考えちゅー」
「タコチュー」
「タコチュー」
「ねえ。キスする時、このタコチュー顔しても大丈夫かなぁ」
「知らないわよ」
「ええ、嘘ー。あんた結構モテるのにぃ?」
「モテてませーん」
「だってこの間も、三組のイケメン君に告白されてたじゃん」
「お断りでーす」
「はあ、なんでぇ。あんた彼氏いないんでしょう? なんで断るの」
「うーん。なんでだろう。ご機嫌取って来るような感じが嫌いだし。なにか寄ってくる感じが嫌」
「なにそれ。相手が好きなら近寄りたくなるのが普通じゃない?」
「うーん。そうだけどぉ。距離感というかぁ、背中を追いたいっていうかぁ」
「いきなり男の好みの話し? あんた、背中を向けてる冷たい男が好きなの」
「うーん。違うなぁ。背中を向けていても、いつも気遣ってくれるのがいいのよ」
「なにそれ?」
「うーん。振り向いて私が離れていたら、戻って来て手を引っ張ってくれるのが良いなぁ」
「それがあんたの理想の男?」
「うーん。多分そんな感じ」
「うーん。タコチュゥゥー」
「タコチュゥゥー」
「そう言えばさぁ。あんたSNS全然更新しなくなったよね」
「はーい。済まんこってすぅ」
「あんた毎年九月頃までめちゃめちゃ投稿して。十月には止めちゃうよね」
「うーん。なんでだろうね。なんかもういいやってなっちゃうのよ。『良いね』もなにも付かないから」
「はあ? これでもかって言うぐらい『良いね』もコメントも付いてたじゃない」
「うーん」
「なに。あんた『良いね』が千くらい付かないと納得できないとか? 贅沢だなぁ」
「うふふぅ。違うけどぉ。反応して欲しい人がしてくれないからぁ。気力が持たなくなるのよぉぉぉ」
「おぉぉぉ……って、反応して欲しい人って誰?」
「何でもないぃぃ。脱力感を表現してみましたぁぁぁ」
「脱力してるのぉぉ?」
「そうなんですぅぅぅ」
「そぉぉですかぁぁぁ」
「うぷっ!」
「なによぉ」
「だって。あぁぁぁって言う時、あごを上げるんだもん。笑わかさないでよ」
「笑わかせたつもりはありませんわぁぁぁぁ」
「くっ! もう止めて。背筋まで伸ばしながらあごを出すとか反則だよ」
「始めたのはあんたの方ぅぅぅぅ」
「そうだっけぇぇぇぇ」
「そうですぅぅぅ」
「済まんこってすぅぅ」
「タコチュゥゥー」
「タコチュゥゥゥゥー」
「で、話は戻るけど。進路はどうするの?」
「うーん」
「あんた、最近『うーん』しか言ってないよ」
「うーん。そうかなぁ」
「うーん。そうだねぇ」
「うーん。どうするかなぁ」
「あ、あのさあ。それって家の事とかの影響じゃないの?」
「あー、それなぁ」
「どうなの。あんたの親」
「うーん。前から酷かったけれど、決着を付けたみたい」
「決着って、もしかして?」
「うん、離婚が決まったの。だから私はもう直ぐ孤児になるのよ」
「いや、孤児にはなんないでしょう」
「うーん。わかんない。卒業したら家を出ようかと思っているし」
「進学は?」
「だから、それも悩みちゅー」
「タコチュー」
「タコチュー」
「って、笑い話じゃないじゃん!」
「そうだねぇ。私はどうなるんだろうねぇ」
「そうねぇぇ。浮雲の様な人生が始まるのかしら」
「浮雲ねぇ」
「浮雲よぉ」
「あっ!」
「なに?」
「浮雲! そう! 遠くに浮かぶ浮雲!」
「浮雲がどした?」
「思い出した! 夏空! 夏空だよ! 私が大好きなのは夏空だよ!」
「なんなの急に。夏の空が好きなの?」
「うーん。ちょっと違う」
「なにそれ」
「夏空は好きだけど。好きなのは夏空じゃないの」
「なにその禅問答みたいなの」
「うーん。好きな人のイメージ」
「もしかして、いきなり男の話?」
「そう! あの人の話!」
「えっ、急に恋愛話?」
「あのね。夏空じゃなくて、夏空の下で会えるあの人が好きなの。毎年夏に会えるあの人の事が大好きなの! 夏空があの人のイメージなのよ!」
「あーあ! 前に話してた、夏に別荘に行った時に会える君ね! もしかしてSNSの『良いね』もその人のことかしらねぇ」
「うん! 私の運命の君!」
「ほーう」
「初めて会った時。一人ぼっちで歩いていた私の手を握って連れて行ってくれたの」
「きゃー! 最近の話?」
「小1」
「小1って、いつの話よ。わたし生まれて無いわよ」
「えっ?」
「えー?」
「あ! 嘘つきチュー太郎」
「チュー太郎参上」
「嘘つきチュー太郎め! 成敗つかまつる!」
「お代官様お許しを! あちきには可愛い子供たちが……それでそれで?」
「うん。それから毎年会えるのが楽しみだったの。今年も会えるかなぁ」
「おおー。もう直ぐじゃん」
「今年はもっと可愛いワンピースに、去年より大胆なカットソーとダメージデニムのホットパンツを履いて行こう! 浴衣も新調しちゃおうかなぁ」
「なにその話しぃぃ。ひとりでのろけてなさいよぉぉぉ」
「あらぁ。これは失礼しましたぁぁぁ」
「いーえぇぇ。頑張ってねぇぇぇ」
「うん。ありがとう」
「えー、いきなりマジモードぉ? だったらさあ。今年は夏空の下で、これをしてきなさいよ!」
「なにをですかぁぁ?」
「タコチュゥゥー」
「タコチュゥゥゥゥー」
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