【夏013】Late Summer Tale【性描写あり/GL要素あり】



「ねえ、もうこんな事やめよう……? 間違ってたんだよ、わたしたち……」



 蒸し暑い晩夏の夜。

 二人で甘く愛し合った後のベッドの中、なっちゃんが涙声でそう呟いた。

 さっきまであんなに愛し合っていたのに、幸福の絶頂だったはずなのに、突然の言葉に私は動揺を隠せない。


「ど、どうしたのよ、なっちゃん……。私、なっちゃんの事気持ち良くできてなかった?」


「ううん、気持ち良かったし、嬉しかったし、すっごく幸せだったよ? 幸せだったからこそ、辛いの」


「幸せだったのに、どうして……?」


「気持ち良くて幸せになる度に、わたしの中のもう一人のわたしがこんなの駄目、間違ってるって言うの……」


「間違ってなんかないわよ、なっちゃん。幸せになる事が間違ってるはずないじゃない」


「でも……」


「もしかして、なっちゃん。女の子同士でお付き合いする事を不安に思っているの? 大丈夫よ。女の子同士の関係なんて今じゃ当たり前だもの」


「……ううん、わたし、女の子同士でお付き合いするのは怖くないよ? クラスにだって何組も女の子同士のカップルがいるしね」


「じゃあ……、ひょっとして歳の差……?」


「歳の差でもないよ。お隣の美香ちゃんだって担任の山本先生とお付き合いしてるって言ってたもん」


 知らなかった……、お隣の美香ちゃんが……。

 確か美香ちゃんはなっちゃんの一つ年下の中学一年生だったはず。担任の先生となると私となっちゃん以上の歳の差だ。

 中学一年生で担任の先生とお付き合いするのは色んな困難が待ち受けていそうだけど、二人が幸せならそれでいいわよね。

 でも、歳の差が原因でもないなら、なっちゃんは一体何を不安に思っているんだろう?

 それを訊ねるとなっちゃんは真面目な表情で答えてくれた。


「やっぱり……、わたしとお姉ちゃんが姉妹なのがダメなんだと思うんだ……」


「どうして……? こんな関係になる前に何度も話し合ったじゃない。血の繋がりなんて関係無い。私となっちゃんは二人で幸せになるんだって」


「そう……思ってたよ? お姉ちゃんと二人でならどんな大変な事も乗り越えられると思ってたの。でも、ダメだった……」


「前も言ったけれど近親相姦で問題になるのは子供を作った時だけよ、なっちゃん。私たちはまだ子供を作るつもりじゃないんだし不安に思わなくてもいいじゃない。将来的には近親の女の子同士でも問題なく子供が作れる技術が出来るかもしれないし……」


「そうじゃない、そうじゃないの、お姉ちゃん」


「だったら、どうして……?」


「お姉ちゃんとこんな関係になってね、夏になってね、暑くなってね、エッチしててね、気付いちゃったんだ、わたし」


「気付いちゃった……?」


「お姉ちゃんの汗ね……、すっごく臭いの!」


「ええっ? ええー……。えーーーーーー……」


 あまりの衝撃に三度連続で感嘆詞を呟いてしまった。

 それ以外、私に何が出来ただろう。

 なっちゃんは言いたかった事を言えた事に興奮したのか、まくしたてるように続ける。


「ずっと真夏日で暑かったでしょ? お姉ちゃんと汗まみれになってエッチしてて気付いたの。この臭い生理的に無理だなって。お姉ちゃんの汗とかお姉ちゃんに舐められた臭いとか混じっちゃって何度も吐きそうになったくらい!」


 マジかー……。

 私はなっちゃんの匂いが好きだから全然気付かなかった。そんな風に思われてるなんて思いもしなかった。

 こんな拒絶され方があるんだろうか……。へこむわあ……。

 落ち込んでいる私の姿を見て申し訳なく思ってくれたんだろう。

 優しい私の自慢の妹のなっちゃんは、私を傷付けない言葉を選んで話してくれた。


「お姉ちゃんの事が嫌いになったわけじゃないよ? でもね、わたし調べてみたんだ。それで分かったの。生き物は近親相姦しないように血が繋がった相手の臭いは嫌になるような遺伝子を持ってるらしいんだ。だからね、わたしたちの関係はもう……」


 優しいなっちゃん。

 大好きで誰にも渡したくない大切な妹。

 私は改めて決意して、なっちゃんに宣言してみせた!


「大丈夫よ、なっちゃん! 私はなっちゃんの匂い大好きだから!」


「いや、だからね……」


「本能になんて負けちゃダメよ、なっちゃん! 私たちは好き合ってる運命の姉妹なんだから! 臭いなんて克服してみせるわ! 私たちは本能じゃなくて理性で近親相姦するのよ!」


「えー……」


「試しにベジタリアンになってみるわ! 前に体臭は肉食で濃くなるって聞いた事ある! それで体臭が薄くなればなっちゃんだって大丈夫になるでしょ!」


「うーん……、そう……かなあ……」


「負けないわよ! 遺伝子なんかに私たちの愛の旅路を邪魔させたりしないんだから!」


 真夏の体臭という思わぬ伏兵に、私となっちゃんの関係は壊されかけた。

 でも、負けないわ!

 性別や歳の差や血の繋がりなんかに私たちの愛は壊させない!

 何でもなれる!

 何でも出来る!

 フレッフレッなっちゃん!

 フレッフレッ私!

 行くよ!


 私となっちゃんの愛はこれからだ!




 おわり

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